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蛇は子守を続けるようです





ニグのいる森の朝は早い。

変温動物達は太陽の光を浴びる為に日の出と共に起き出し、動きの遅いそれらを狙う各種捕食者達も動き出す。捕食される側の小さな動物達は、それらの捕食者の狙いが自身に向かない内に大急ぎで餌を探し、確保する。

そんな中ある蛇だけは、陽の当たらない巨木の根元で、リング状にトグロを巻いてじっとしている。

よく見ると身体がグネグネと蠢いており、トグロの中心からは煙が出ていた。

トグロの中心では、シャードゥーマが前日の夜ニグが仕留めた獣の肉を焼いている。

ニグがトグロを巻く事で大抵の獣は近付かず、シャードゥーマが火を焚くことでニグの身体は暖まる。さらにシャードゥーマの食事も用意出来るし、シャードゥーマが食べ切れない肉はニグが食べる。お互いに利益を得る事ができるので、ニグがシャードゥーマにそうさせていた。

ニグはシャードゥーマに獣を解体させていた。ニグにも好き嫌いがあり、獣の毛皮をわざわざ食べたくなかったのだ。

毛皮の処理をしているシャードゥーマを見ながら、ニグは身体全体を暖めるためグネグネと蠢めく。



「昨日の夜の話だと、シャードゥーマの帰り道はぼくの帰り道と被っているね。」



毛皮の処理を終えたシャードゥーマに、ニグは切り出した。



「シャードゥーマが今のを毎朝するなら、それは僕の得になる。シャードゥーマにとっても毎日安全に過ごせてご飯を食べる事ができるから得になる。どうかな?しばらく一緒に行動しないかい?」



「よろしくおねがいします。」



ニグの提案に、シャードゥーマは即座に反応した。

元々シャードゥーマから言いだすつもりであったので、得に考えずに返事を返す事が出来た。



「へびさん、もうしわけないのですが、ぼくにもけものをからせてください。」



目的の方向に向かって進んでいた一人と一匹、その道中で遭遇する熊や狼を殺しては食べるニグに、シャードゥーマはそう言いだした。



ーーーーーーーーーーーーーー



シャードゥーマが言うには、自分が獣を殺したらレベル(・・・)が上がり、体力や筋力があがる。そうすると移動が速くなったり、獣の解体が早くなったりとにかくニグの助けにもなるのだと、力説していた。

最初あまり乗り気でなかったニグも、獣の解体が早くなると聞いて最後には了承した。



「いいかい、アレを仕留めるよ。」



ニグはある程度の作戦を立ててから、シャードゥーマに伝えていた。それらの作戦の中ではシャードゥーマの役割は殆どが囮であったが、それも仕方ないとシャードゥーマも割り切っている。

だが今、ニグが仕留めると言っているアレ(・・)と呼ばれたものを見たシャードゥーマは死を覚悟した。

シャードゥーマはその獣を奴隷時代に見た事があった。その時見た獣は、討伐済みで死体として街に持ち込まれたものだったが、街全体が蜂の巣をつついたような騒ぎになったのでよく覚えていた。

騒ぎの中、小間使いとして仕事をしていると、あちらこちらでその獣とそれを倒した冒険者の話がされていたが、一番印象に残っている話は獣の強さに関する話。

曰く、冒険者を見下ろす背丈を持ち。

曰く、巨岩を砕く拳を振るい。

曰く、矢を弾く毛皮を纏い。

曰く、鋼鉄の盾を貫く角を持つ。


シャードゥーマは街に持ち込まれた死体を思い出す。

燃えるような紅い眼と、見るからに頑強そうな太い角。

鉄鉱石の様な色合いの何かを拳に備えた丸太の様な両腕。

同じく鉄鉱石の様な色合いの蹄を持ち、腕より太く、長い両脚。

膨大な量の筋肉と、それを覆う金属の様な光沢を放つ体毛。

聞こえてくる話し声から『ナイトメア・ディアー』という名の魔獣だと分かった。

実在する悪夢と言われる『ナイトメア』の名を持つ魔獣は数体いるが、この魔獣が取り分け有名なのは理由があるのだ、と、酔っ払った元主人の男達が、珍しく上機嫌で話をしていたのを思い出しながら、シャードゥーマは生きた(・・・)ナイトメア・ディアーを見る。

街で見た死体と違い、生きている生物特有の湿り気を感じさせる体毛。死して尚、殺意に濁っていた眼は吸い込まれそうなほどに美しい。かつて見た時は鉄鉱石の様だと思っていた拳の何かと蹄は、黒曜石の輝きを宿していた。

死体の時はただ大きいとしか思えなかった筋肉は、途方も無い圧力を放ち、その存在を猛烈にアピールしている。

・・・そして太い角。

あれこそが、『ナイトメア・ディアー』の脅威の象徴なのだと、男達は口々に語っていた。



「さぁ。あの鹿に石ころでもぶつけて、気を引いておくれ。囮がいたら、きっととても簡単にあいつを殺せるよ。」



ニグは明るく、どこか嬉しそうな口調でシャードゥーマに宣告した。



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