蛇は子守をするようです
「ぼくのなまえは『シャードゥーマ』です。ヘビさん、たすけてくださってありがとうございます。」
男の子はニグに頭を下げながら感謝の言葉を述べた。
まさか感謝されるとは考えもしていなかったニグは、警戒しながら返事をした。
「別に感謝なんてしなくていいよ、僕は君の仲間を殺しただけだからね。それにしても君は変わった人族だね、耳の長い人族なんて初めて見たよ。」
シャードゥーマは驚いたように目を見開き、ニグを見つめながら口を開いた。
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シャードゥーマは、自分は人族ではなく『イヴェルブ族』という種族で、人族に攫われて奴隷にされていたのだと説明した。
『イヴェルブ族』というのは、エルフ族とドワーフ族の祖先と言われているらしく、それぞれの種族の良い特徴『大きな魔力』と『器用さ』を併せ持っている。
しかしその特徴はそれぞれの種族に比べ劣っていたので、双方の種族が『我が種族の祖が貴様らの様な劣等種であるはずがない!!』と猛烈に主張しイヴェルブ族を一方的に虐げ、それが他の種族にも伝播した。
今では世界各地の深い森の奥地に小さな集落を作って誰にも見つからない様にひっそりと生きている。
・・・そうしなければ、あらゆる種族から嫌がらせをされ、攫われて奴隷にされたり、遊び半分で殺されてしまうのだと、シャードゥーマは俯き涙を零しながら最後にそう言っていた。
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ニグはシャードゥーマの拙い話を真剣に聞いていた。そしてイヴェルブ族の境遇に同情もした。しかしどうしても、どうしても我慢がならない事があった。
「君の種族は大変なんだね。だけどさ、それをなんで僕に話したのかな。」
シャードゥーマは涙を零しながら不思議そうにニグを見た。
「分からないかな、分からないよね。君は人型の種族だものね。あのさ、そんな境遇僕らには当たり前なんだよね。さっきも見てたよね?君と一緒にいた奴等は僕の事を商品扱いしていた。あいつらだけじゃなくて殆どの人型の種族にとって僕らは商品なんだよ。生きていれば良いように扱われて、死んでいればバラバラにされて売り捌かれる、だから僕らは生き残る為にいろいろしているのにさ、君達は逃げる事を選んだんだろ?なんだかとても不愉快だよ。」
「っ!そ、そんなこといっても!あっちはたくさんいるんだよ!!それにきみたちのなかまにだってにげたり、かくれたりしてるのがいるじゃないかっ!!」
ニグの言葉に反応したシャードゥーマは必死になって言い返した。自分のせいでイヴェルブ族全体が馬鹿にされていると感じたからだ。
「馬鹿な事を言わないでくれよ。そういう奴等はそれしか出来ないからそうしているんだ。そうする事でしか戦えないからそうしているんだよ。力がある癖に使わないで逃げ出している君達とは違うんだよ。」
ニグの言葉を聞いてなんとか反論をしようと唸っているシャードゥーマに、ニグは言葉を重ねた。
「いいかい?君の言う逃げ隠れしている連中はね、身体が小さかったり力が弱かったりするからそうしているのさ。そうして、自分が敵わない相手から逃れて、自分が敵う相手に牙を剥くのさ。少し頭のいい奴は、より強い奴の所に相手を連れて行って倒させて、おこぼれに預かることもする。」
一度言葉を切り、シャードゥーマを見つめてから、ニグは話を続ける。
「だけど君達はどうだい?聞いた話だと器用で魔力も高いんだろう?それを使って戦ったのかい?イヴェルブ族とやらが、みんな君みたいな性格なら戦わないで逃げ出したんじゃないの?そうじゃないなら今みたいな境遇にはならなかっただろう?」
シャードゥーマは唸りながらニグの言葉を頭の中で反芻し、イヴェルブ族に戦いの話がない事を思い出していた。
しかしそれとニグの言う『今みたいな境遇』と、どう関係があるのかが分からず、ニグを睨んでいた。
「睨むなよ、言い返さないって事は大体合ってるんだろ?当然だよ、僕らは殺されない為に全力で、出来うる限りを尽くして相手にやり返しているんだ。割に合わないと思わせる為に、次に襲うのを躊躇うようにする為に。君達はそれをしていないから、今の境遇なんだろ。」
シャードゥーマは驚いた。ニグの話は、ようは『反撃をしろ』という事だったからだ。
シャードゥーマだって何度も考えた事だが、それを大人に話すと決まってこう返される、
『暴力に暴力で対抗してはいけない。なぜならそれは、相手の暴力を認める事になるからだ。』
シャードゥーマは最初訳が分からなかったが、両親に聞くと、『叩かれたからていって、たたき返してしまったら、酷い叩き合いになってしまうだろう?』と言われて納得した。
シャードゥーマがそれを話すと、ニグは呆れたような口調で口を開く。
「馬鹿らしい。それは子供の話だろう。叩かれても反撃しない奴はもっと叩かれて、他の関係ない奴からも叩かれる。だから君達はエルフ族とドワーフ族以外の種族からも狙われているんだろ?なんせ『反撃しない、安全な狩猟対象』なんだからさ。」
自分達イヴェルブ族が『狩猟対象』扱いされた事に憤りを感じつつも、なぜ自分達だけがここまで酷い境遇なのかがようやく理解できたシャードゥーマ。
憤りが丸ごと悲しみと情けなさに変わり、ニグから目を反らすように顔を上げると陽の光が目に飛び込んできた。
・・・僅かに顔を上げるだけで見る事が出来る太陽、つまりは『夕日』を見て、シャードゥーマは夜が近い事を悟った。




