蛇は森に帰る途中のようです。
知らない森の、木の虚の中でニグは目を覚ました。
ちょっと前までのあまり思い出したくない生活の夢を見ていたせいか少し苛立っていたが、原因は夢のせいだけではなかった。
ニグが獣使いの男を殺した次の日に、森の中を這い回っていたニグを取り囲んだ者達が居た。それは街からニグを追ってきた冒険者達で、何人かの匂いは嗅いだ覚えのある匂いだった。
ニグは移動するのを仕方なく止めると、頭を持ち上げて彼らを見渡した。そして彼らに向かって話し掛けた。
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「やぁ何の用かな?僕は君達に何の用もないから挨拶したいだけならそこをどいてくれないかな?」
僕の言葉を聞いた人間達はとても驚いた顔をしていた。それはそうだろう、彼等の知っている僕達『蛇』は人語を話す事は無い。
僕が話せるのは見知らぬ神様が僕に祝福をくれたからで、僕自身それを知ったのが昨日だった。
神の祝福
神様が気まぐれに与えてくれる特別な贈り物。
力が強くなったり足が速くなったり、火を操れるようになったり、兎に角色々な効果があるらしい。
僕の貰った神の祝福は、僕が成長する時に『欲しいな!』と思った力を何らかの形で手に入れる事が出来る神の祝福らしい。
骨を抜かれた身体を兎に角動かしたかった時、お腹が空いて兄弟を食べ、その肉を食い千切っていた時、体を上手く動かしたいと思った時、小鳥を捕まえようと苦労していた時、大きな蛇と戦った後、・・・少なくとも6回は身体に大きな変化があった。
獣使いに使われていた間の事は殆ど覚えていないが、もしかしたら何処かで神の祝福による恩恵があったのかもしれない。
その神の祝福により得た【言語習得】。
【言語習得】は文字通り言語を習得する能力なのだが、この能力の凄いところは『言語を使いこなす為の知識』を同時に習得できるのだ。確かに言語を習得しても、それを使いこなし理解できる知識が無ければ意味が無い。
つまり何が言いたいのかと言うと。
「おい!この蛇喋ってやがるぞ!?」
「マジかよ!生け捕りにして見世物にしようぜ!!」
「へへへ、かなり儲けられそうだなぁ?おとなしく捕まってくれよぉ、蛇ちゃん?」
「荷車引かせてきて良かったぜ!!」
彼等が僕に対して悪意しか無い事が普通にわかる。人間というのは頭の良い生き物だった筈だけど彼等は別らしい。言葉の端々から頭の悪さが伝わってくる。
きっと僕が蛇だという事で油断しているんだろう。
僕が喋る事は彼等にとっては『金になる』程度の認識でしかないらしいが、それは好都合だ。彼等が油断して、慢心している内に皆殺しにしよう。
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決着はあっと言う間だった。
ニグの考え通り男達は油断しきっており、2人の男が笑いながらニグに近づいて来た。ニグはゆっくりと体を縮め、男達が無防備に武器に手を掛けた瞬間体を一気伸ばした。まるで矢のような速度で2人の男の間を通り抜け、後方で何かの用意をしていた男の顔面に尻尾を思い切り叩きつけ、進路上にいたもう1人の喉を食い千切った。
空中で姿勢を制御し、視界から男達が消えないよう注意しつつ着地したニグの目には、喉を抑えながら倒れ込む男、首があらぬ方向に向き動かない男、そしてその2人を惚けた顔で見る3人の男達が映っていた。
何が起こったのか理解できていない様子の男達、ニグはその中で1番近い男に向かい毒を吹き掛け、同時にその男の陰に隠れるように移動をした。
毒は目と口の中に入ったらしく、吹き掛けられた男は声にならない叫びを上げ、目や喉を抑えたり搔きむしったりしていた。
そんな男の叫びを聞いて、ようやく思考が再開した残りの2人は怒鳴り声を上げながら騒ぐ男に近づいて来た。目的は叫ぶ男の救助かその男の陰に隠れているニグへの攻撃だろう。
毒に苦しむ男の足元に来たニグは、その足に牙を突き立て大量の毒を流し込み止めを刺し、倒れこむ男の体の下に潜り込み再び体を縮めた。
怒鳴りながら駆け寄る男達の内の1人が、倒れた男の体に蹴りを放った事でニグの上から男の体が無くなった。その瞬間に、片足を上げた状態の無防備極まりない男に向かってニグは飛び掛かり、大量の毒が滴る牙で腹部を噛みちぎった。
痛みに叫ぶ男の体に巻きつき頭部に向かって這い登ったニグの視界には、最後の1人となった男がナイフを振り上げている姿が映った。
しかしニグは慌てなかった。巻き付いている男が既に息絶えており、最後の男に向かって倒れ込みだしていたからだ。
目測が狂って狼狽える男に、ニグは大量の毒を浴びせた。
勢い良く吐き出された毒は霧の様に広がり男の皮膚に、目に、鼻に、口内に襲いかかり、男を即座に行動不能にした。
男はしばらくのたうち回り、ビクビクと痙攣を繰り返した後に死んだ。
ニグは最後に死んだ男を食べながら、男達の置き土産を見て、聞いてみた。
「君はどうするの。僕はご飯を食べたら森に帰るけど。」
・・・男達は体の大きなニグを持ち帰るために荷車と檻を用意していたが、誰1人として荷車を引いてはいない。
ニグが話しかけている男達の置き土産とは、その荷車を引かされていた、妙に耳の長い男の子だった。




