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カラオケ歌魔人の日常。  作者: 秋月 晴


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3/5

カラオケ店員、父になる。前編

 冷たい風が吹き抜ける。

 毎朝通るイチョウ並木の葉もすっかり枯れ落ち、冬本番が始まった。


 カラオケ歌魔人はというと、相変わらずの人手不足だ。

 募集をかけても今どき最低賃金じゃ誰も応募してこない。

 しかし困った。

 12月は忘年会、クリスマス、大晦日とイベント盛りだくさんだ。

 いくら廃れたこのカラオケでも「激安」を謳っていれば客はやってくる。

 入店半年の俺でもわかる。

 この状況で無事に年を越せるのか...?


「真城さん、おはようございます」

「おはよう、雄二くん。今日も寒いね〜」

 

 元気よく出迎えてくれたこの女性は真城涼香さん。

 小学一年生の息子をもち、仕事に子育てに勤しむシングルマザーだ。

 

「真城さん、今日店長は?」

「遅刻よ〜、いつものことね!」

「またっすか?!」

「もう、期待もしてないわ。あ、そうだ。今日、シフトの締め切りだからよろしくね〜」

「はーい」

「どうせクリスマスも年末も予定ないんだろうけど〜」

「失礼っすよ!真城さん」

 

 真城さんはいわゆるバイトリーダー的ポジションで、カラオケ歌魔人スタッフのお母さん的存在でもある。

 バイトのシフト管理まで任されている。ベテランスタッフだ。

 

「はよーっす」

 

 そんな気だるげな声で入ってきたのは、佐久間 龍。

 顎には薄ら髭を生やし、長く伸び切った髪を緩く一つに束ねている。

 見るからにだらしない。

 が、これでも彼はカラオケ歌魔人の店長である。


「店長遅刻っすよ」

「あ~、すまんすまん。」

「店長、新しい求人応募ありました?」

「ないね〜」

「やっぱり時給上げないと!」


 そんな俺の訴えを華麗にスルーし、店長は不気味な笑みを俺に向けた。


「年末年始、頼むよ、期待のエースくん」

「勘弁してくださいよ」


 12月に入ってからの俺はというと毎週6連勤。

 学生バイトたちがテスト期間やらインターンやらで、シフトから抜けていき、馬車馬のように働かされている。

 これ、労基とやらに引っかからないのか。

 いつか訴えてやるつもりだ。


 なんやかんやで時間は15時。

 忙しいランチタイムも過ぎ、穏やかな時間が流れていた。

 店長は裏口でたばこを吸っているらしい。

 そんな時だった。

 真城さんが青ざめた表情でこちらに向かってきた。


「雄二くんごめん。」

「どうしたんすか?」


 思わず立ち上がる。


「小学校から連絡あって、蒼汰が怪我したって」

「大丈夫なんすか?全然、こっちは気にしないでください」

「一人で大丈夫?」


 もはや店長は、頭数にカウントさえされていない。


「大丈夫っす!」

「ごめんね、早退させてもらうね」


 そう言うと真城さんは慌ただしく店を飛び出していった。


 ーーー次の日。


 出勤してきた真城さんは、何やらげっそりした表情をしていた。


「おはようございます。昨日、大丈夫でした?」

「雄二くん、おはよう。怪我は全然!本当に、擦り傷くらいだから!

「よかった!」

「ただね...」


 真城さんの表情が再び暗くなる。


「蒼汰、喧嘩しちゃったみたいで、相手の男の子に怪我させちゃったみたいなのよ。」

「喧嘩っすか?」


 小学生の喧嘩なんてよくあるものだ。

 

「それがね…一方的に怪我させられたって言うのよ。蒼汰は何も話さないしね。」


 話を聞いてみると、体育の授業中に、蒼汰が友達に向かって飛びかかり、勢いで尻もちをついてしまったそうな。


「相手の子の親御さんも、知ってる人だったから、直接謝罪はできたんだけど…」

 

 真城さんは言葉を詰まらせる。


「喧嘩した理由とか何も教えてくれなくて。」

「小学生同士の喧嘩だから、たいしたことじゃないんじゃ?」

「それがね、これが初めてじゃないの。困らせたくないのか、私に話してくれないのよ。」


 いつもの元気な真城さんからは想像もできない様な暗いトーンだ。


「最近、蒼汰の事全然理解できなくて…」

「なんだなんだ、二人して〜。仕事中に私語が多いぞ〜。」


 そこへ、いつの間にか戻ってきた店長が、話に割って入ってきた。


 一通り事情を説明した。


「よし、雄二!お前蒼汰の面倒見てやれ!」

「は?」


 突然突拍子のないことを言うんだこの人は。


「俺が面倒見て、どうなるんすか?」

「真城に1日休みをやろう!」

「え?」

「母親にも休息が必要だからな!それに、他人の方が話せたりするもんだ!」

「は?俺子供の面倒なんて…」


 俺は子供が苦手だ。


「雄二くんに悪いよ」


 真城さんが申し訳なさそうに俺を見る。

 

「いいじゃないか、1日だけ遊んでやれよ!」


 店長が俺の肩を叩く。


「雄二、どうせ休みの日は何もすることないんだろ?」

「そうっすけど、何したら良いんすか!」

「ROOM一部屋、貸してやるよ!」

「カラオケっすか?小学生と?」

「甘く見るんじゃねえ、今の小学生はお前らなんかより全然歌詳しいぞ!」


 何やら知ったふうに語る店長。


「…わかりましたよ。預かります。」

「本当に!?」


 真城さんがぱっと顔を明るくする。


「雄二くんありがとう!」


 そう言って手を取って喜ぶ真城さんを見て、俺は後には引けなくなってしまった。


 こうして俺の、大波乱1日お父さん体験が始まる。


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