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カラオケ歌魔人の日常。  作者: 秋月 晴


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2/5

雄二くんは彼女ができない

「おっはよーございまーす!」

 

 元気な声で勢いよく裏口のドアから入ってきたのはバイトの西村美咲20歳。近くの看護大学に通う女子大生だ。

 俺はこの女が正直苦手である。理由はいくつもあるが特に3つ。

 1つ目はというと、このうるさい声、話し口調である。出勤するや否やベテランスタッフについて周り、学校やプライベートの話をべらべらと話す。

 

「真城さん聞いてください!昨日、サークルの飲み会あったんだけど〜、3年の先輩がLINE交換しようって言ってくれてー!」

「さっすが美咲ちゃん!可愛いもんね!」


 馬鹿なのか?今から仕事だというのに、キーキーとした高い声でくだらないのだ。

 2つ目といえばこれだ。

 

「そんなことないよー!真城さん大好きー!真城さんみたいなお姉さん欲しかったー!」

 

 そう言って先輩に抱きつくは、好きだの言うわ。女同士とはいえ、職場でこの仲良しごっこの茶番劇は見てられないのだ。

 

「雄二くんもおはよう〜!!」

 

 そう言って駆け寄ってくる西村。3つ目とはそう、この、距離感!近い。とにかく近すぎるのだ。

 

「おい、近いって、離れろよ。」

「照れちゃって可愛い〜!」

 

 拒む俺に容赦なく顔を近づけてくる。俺はといえば生まれてこの方21年間、彼女なんていたことはない。更には女友達なんてもってのほか、西村というより女性が全般苦手なんだ。

 

 俺のシフトは週5日フルタイム出勤。フリーターなのだ、当たり前だ。西村はというと、週5日5時間出勤。学生なのに?!多すぎないか?そう、俺は逃れられないのだ。

 

 その日は12月の夕方。店内BGMはもっぱらクリスマスソング。もちろんROOMから漏れる歌声もそうだ。そんな中この色ボケ女は言う。

 

「あーあ、早く彼氏できないかなー!」

「うるせえよ、早くドリンク持っていけ」

「もう、雄二くんは冷たいな〜!今度デートしようよ!」

「嫌だよ、お前なんかと」


 頬を膨らませ、いも焼酎のお湯割をトレーに乗せ、西村はキッチンから出ていった。


 そんな時、背後に気配を感じる。思わず振り返ると、そこには真顔で仁王立ちしている真城さんがいた。すらっとした長身で、端正な顔立ち、高い位置で結んだ長い髪をキッチリに三つ編みに編み込んである。その姿は見るからに仕事のできる女上司。

 

「雄二、あんた、鈍感すぎ」

「え?」

 

 鈍感?この俺が?何が?

 

「美咲ちゃんのことどう思ってんのー?」

 

 そう言って俺の顔を覗き込んでくる真城さん。真っ直ぐな瞳に吸い込まれそうになる。

 

「いや、どうって、今日もうるせぇなーって、、、」

「ふ〜ん」

「なんなんすか!」

「美咲ちゃんかわいいからすぐ彼氏できちゃうよ〜?」

「別にどうでもいいっすよ」

 

 

 西村が俺のこと好きとか?そんなわけないさ。

なんなんだよ、まったく、ここの女どもは。

 

 その日は珍しくショートタイム勤務でランチタイムが終わる頃には上がる時間になっていた。

 

 着替えて帰ろうとしていると、喫煙所から出てきたROOM1の住人と鉢合わせた。何やらニヤつきながら近づいて来ると、俺の肩を組み、そのまま歩き出したのだ。

 

「ちょっと!なんなんすか加藤さん!」

「連れション連れション♫」

 

 陽気に口ずさみながら、強引に男子トイレに連れて行かれた。理解できない男だ、何をして来るかわからない。

 

「俺あがったんでもう帰ります」

「そんなこと言うなよ、連れないな〜。おじさん若い青年と話したい気分なんだよ。」

「おじさんって、加藤さんまだ20代じゃないっすか」

 

 そんなくだらない絡みをしながら男子トイレを出ると、西村と鉢合わせた。


「え〜!2人ってできてるの〜?!」

「美咲ちゃん〜!そうなのおじさんたちできてんの〜!」

「ちょっ!加藤さん冗談やめてくださいよ!」


 何を興奮しているのやら、いつもの甲高い声でニヤニヤとコチラをみている西村。


「え〜、でも雄二くん彼女いないじゃん!加藤さんも奥さんいるって言ってるけど本当かわかんないし!」

「おい、俺は既婚者だよ」

「えっ!?本当に!?」

「そこ疑うの!?」


 加藤さんが大袈裟に傷ついた顔をする。

 

「じゃあ雄二くん私と付き合ってよ〜!」

 

 軽くそう言ってコチラを見つめて来る西村。やっぱり、本当に俺のことが好きなのか?

 

「なんでそうなるんだよ」

「だって雄二くん彼女いないじゃん!」

「いや、だからってお前と付き合う理由にはならないだろ!」

「えー!雄二くんひどーい!」

「雄二くん冷たーい!」

 

 加藤さんまで!俺はため息をつきながら西村を見た。

 こいつは本当に何を考えているのかわからない。

 俺をデートに誘ったかと思えば、加藤さんと俺の絡みを見て面白がったりもする。

 俺が本当に別の女と付き合ったりしたら嫌がったりするのか?悲しがったりするのか?

 

 そんなことを悶々と考えていると、また背後に気配を感じる。

 何やらニヤニヤしながらコチラを見ていたのは真城さんだった。

 

「なっ、なんすか!」

「別に〜??」

「なににやついてんすか!」

「真っ赤なお顔の桐谷くんは〜、今日もみんなのおもちゃ〜♫」


 真城さんに混ざり笑いながらくだらない替え歌を歌い出す加藤さん。それをみて笑っている西村。

 ほんとに、なんなんだここの女どもは…

 いや。

 ここの人間どもは。


季節外れですな〜。

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