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カラオケ歌魔人の日常。  作者: 秋月 晴


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コンソメスープはタバコの後で

はじめまして、秋月晴です。

今回はカラオケ店「歌魔人」を舞台にした短編です。

1話完結で、ゆるく読めるお話を中心に書いていく予定です。初めての投稿で拙い文章かと思いますが、歌魔人の住人たちの日常を是非覗いていってください。

 俺の名は桐谷雄二、21歳。

二浪の末、大学受験に失敗した俺は、現在フリーターをしている。人生初のアルバイト先は、実家の隣町にあるカラオケ店。

「いらっしゃいませ 激安カラオケ歌魔人にようこそ」

「おはよう、桐谷くん今日も爽やかだね」

 今日の1人目のお客さんは…というか毎日1人目はこの人、加藤孝太郎。しがないサラリーマンだ。人のことを爽やかだの言う割には、自分の方こそいかにも仕事のできる営業マンといった見た目である。


「今日もカラオケで仕事ですか」

「出社するのが面倒でね〜、家だと嫁がうるさいしさ」

 これ以上何も聞くなと言わんばかりの口調で、毎日会っているものの正体不明。とにかく怪しい。

 月曜から金曜決まって開店と同時にやってきて、フリータイムドリンクバー利用。もちろん職業不明。毎日シワひとつないスーツに爽やか営業マンヘアだが、どことなく滲み出る怪しい雰囲気。本当にまともな職についているのかも怪しい。本当に嫁がいるのかも怪しい。


「あ!加藤さーん!いらっしゃいませ!」

「おはよう、美咲ちゃん。今日も可愛いね。」

 

 店裏から甲高い声で駆け寄ってきたこの女は西村美咲、現役女子大学生アルバイトだ。

 

「加藤さん今日も仕事終わりすぐ帰っちゃうの?」

「もちろん、愛する嫁が待ってるからね。」

「えー。」

 

 甘ったるい口調で絡んでくる現役女子大生をさらっとかわす29歳男性。さっきは嫁のことうるさいって言ってたよな?とにかく適当なんだこの男は。

 

 加藤さんは決まってROOM1利用。フロントやドリンクバーコーナーから1番離れ、比較的静かな場所に位置する。本人曰く、アメリカの企業と一日中リモート会議をしている。らしい。

 

 営業開始2時間後、昼時になりランチタイム利用のお客さんで店内が賑わい始める。90分室料無料、お好きなドリンク一杯と日替わりランチプレートで1,000円。オフィス街から徒歩3分。午前中に溜まった鬱憤ばらしにカラオケ利用したいOLは意外にも大勢いる。そりゃあ混雑するわけだ。

 来店客のほとんどが日替わりランチプレートを注文する中、ROOM1からのオーダーといえば決まってカツカレーだ。レトルトの中辛ルーにフライヤーで揚げるだけの冷凍とんかつ、セットにサラダ。これで1,300円だ。

 そして食べ終わると真っ直ぐに喫煙所にやってくる。そんな加藤孝太郎には決まったルーティンが他にもある。

 吸うタバコは決まってハイライトのメンソール。長く綺麗な人差し指と中指でタバコを挟むその仕草。うちのバイトの女どものなかにはファンが多い。

 

「やっぱり加藤さんってかっこいい!絶対仕事できるし、愛妻家で素敵〜!」

「メロすぎ〜!」

 

 いかにもアホ丸出しな西村の発言はスルーしとくとして、メロすぎとはなんだ。若い女どもの現代語はイマイチ理解できないものだ。

 タバコを吸い終わると、ドリンクバーでコンソメスープを注いで部屋に戻るのが決まりだ。

 タバコを吸い終わったらしく、なんとも気だるそうなあくびと共に喫煙所から出てくる。いつもはそのままスープバーに向かうところ、加藤さんはフロントにいる俺に話しかけてきた。

 

「コンソメスープ切れてるみたいだ」

「すみません!すぐ補充します!」

「ありがとう、タバコの後のコンソメスープは最高なんだよ」

 

 うちの店のスープバーはかなり濃い。半年前に機械が故障してからお湯の出が悪いそうな。そんな中毎日必ずコンソメスープを選び満足そうにROOM1に帰っていくのだ。よりにも寄って1番塩味の強いコンソメスープを選ぶのだ。きっとバカ舌なのだ。

 そもそもメンソールのタバコにコンソメスープは合うのか?タバコなんて吸ったことのない俺には想像もできるわけないが。

 

「桐谷くんも試してみる?」

 

 機械にスープの粉を注いでいる俺にタバコを一本とライターを差し出してきたかと思えば、そのまま胸ポケットにスルッと差し込んできた。

 

「俺、タバコなんか吸ったことないっすよ。」

「まあ、試しに一本ね」

 

 何やら不敵な笑みを浮かべ、熱々のコンソメスープを持ちROOM1に戻っていった。

 

 その日の帰り、制服にパーカーを羽織り自転車で帰っているとふと自販機のあったか〜いの文字が目に止まった。

 

(コンソメスープ?!)

 

 ホットココア、お汁粉、コーンスープなど定番の冬メニューに並びそこにはコンソメスープの文字。吸い込まれるように120円を投入し購入。

 

「あっつ!!」

 

 到底すぐ飲むには厳しい温度で、少し冷ますことにした。そんな時ふと胸ポケットから爽やかなミントの香りがした。

 

(タバコもらったんだった。)

 

「吸ってみるか。」

 

 見様見真似でタバコを口に咥えライターの火をタバコの先に近づける。なかなか着火しないものだ。思い切り息を吸い込むと火がついたと同時に、強いメンソールと煙が口や鼻、俺の体の気道全てに入り込んできた。当然むせた。

 

「ゲッホゲホッ」

 

 人生初のタバコだった。よくこんなもの毎日吸えるな。せっかくだから3回ほど吸い込んでみたが、とても美味しいとは思えなかった。そもそも俺はミントやメンソールは嫌いなんだ。

 

 吸い終わる頃には缶は触れるくらいの温度になっていた。早くタバコの味を消したくて、勢いよく口の中に流し込んだ。 

 

(!!!!)

 

 やっぱり俺には全然美味さがわからなかった。

 やっぱり適当な男だ。

 あのROOM1の住人は。



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