13話 鍛える
「ただいまー。」
円香が自宅のドアを開けると、
「にぃぃぃぃぃ……!、さ
シャンティが円香の部屋で筋トレをしていた。
「グハッ。……お帰りなさい、円香さ
「邪魔するぜ?」
「ひょわぁぁぁあああ!!??」
円香に続いて玄関に上がり込んできたアイロを見つけると、シャンティは飛び上がってボクシングの構えのようなポーズをとった。
「な……、ななななっ、なんですか!?」
「おー……、またやっか?」
アイロもおんなじポーズで構えると、白い歯を見せて笑った。
「やりませんからっ!?……っていうか円香さん!連れてきちゃって良いんですか!?」
「大丈夫でしょ、もう敵対してないんだし。」
「ってことだ♪」
アイロは構えを置くと代わりに腕をまっすぐ突き出してサムズアップした。
「まあ……もうバルデに連れ戻される心配も無くなりましたけど。」
「うっし!じゃあ今度はバルデも連れてくっか♪妹に幻滅されないように、部屋はちゃんと片付けとくんだぞ〜?」
「心配されなくても普段から部屋は綺麗にしてますから……!ねえ円香さん!?」
「……。」
「なんで目逸らすんですか……?」
「片付けも良い運動になるんじゃね?」
「余計なお世話ですッ!」
「運動……。」
アイロと口論するシャンティをよく見てみると、シャンティは若干汗ばんで顔が熱っているようだった。
「筋トレしてたの?」
「はい♪」
「自分の部屋でやってくんない……?」
「円香さんが帰って来たら一緒にやろうと思ってたので♪」
満面の笑みで即答されると強く言えないから困ってしまう。
「ほーん?円香の反応からして、普段筋トレしてねーみてーだけどなんで急に筋トレなんか始めたんだ?」
「そ、それは……、アイロさんには関係ないじゃないですか。」
「そっかそっか、確かにアタシには関係ねーな。一緒に風呂入ってダラシない身体見られたらバルデに幻滅されちまうかも……なんて。」
「あなた達に負けたからですッ!!///」
「もしかしてシャンティ……、強くなりたくて筋トレしてたの?」
「悪いですか……!?///」
シャンティはそっぽを向いた。
どうやら、シャンティなりにこの前の敗戦を気にしていたようだ。
「じゃあ一緒に筋トレにして、もっと強くなろうぜ♪」
「一緒に鍛えたら差が縮まらないけどね……。」
「まあまあ細けえことは気にしっ子無しだ!」
アイロは部屋の隅っこにカバンを置くと軽く手首やら足首やらを回した。
「アイロ、随分乗り気じゃん♪」
「まあな、鍛えんのは好きなんだ。強くなってるって実感できるからな♪」
「……。」
アイロと話していると一瞬シャンティの方から突き刺さるような視線を感じた気がしたが、シャンティの方を見るとシャンティは『気のせい』と言わんばかりの笑顔でこちらを見つめ返した。
「鍛えるのはいいけど……シャンティやアイロってそもそも筋トレで強くなれるの?」
「ヒューマノイドならいけるだろ。」
「へぇ〜、どこの星も似たような進化するもんだね。」
「ま、アタシ筋トレなんてしたことねーけど。」
あれ?さっき鍛えるのは好きって言ってた様な気が……。
「私、こんなのに負けたんですか……?」
ぶつくさ言いながら3人は輪になって1分間プランク(うつ伏せに身体をまっすぐ伸ばして肘とつま先で支えるヤツ)をすると、仰向けに寝転んで再び雑談に興じた。
「はぁ、はぁ……。これは効きますねぇ……!」
「はぁ、はぁ……。こりゃ良い修行になるな……!」
「筋トレ、効くんだ……。」
「効かないとかあんのか?」
「シャンティは外付けで色々できるし、アイロはしょっちゅう腕変形してるから骨格の概念無さそうだし。」
「それを言ったらお終いですよ。」
3人は筋トレを再開し、今度はヒップリフト(身体を伸ばして肩と片方の足の裏だけで支えるヤツ)を各1分やると、再び仰向けに転がった。
「つ、辛い……これが、修行!?」
「随分とささやかな修行だな……。」
「アイロは普段どんなトレーニングしてるの?」
「そらもう色々やってるぞ?いつかシュガーの奴に一泡吹かせてやるためにな♪」
「筋トレ以外の修行って想像つかないんだけど。」
「色々やるけど……高速変形の練習とか、とにかく蹴りまくって脚の強度上げたりだな。」
「筋肉じゃないだけでやってることは筋トレだね……。」
「……よし!次やりましょう円香さん!」
シャンティは早々に休憩を切り上げると、アイロとの会話に割って入る様に飛び起きて円香に筋トレの再会を促した。
「お、やる気だねえ?じゃあ次はこれ、体幹!」
円香は左右逆で片手と片膝を床につき、身体を伸ばしてバランスをとってみせた。
「円香さん、いくら私たちが修行したことないからって馬鹿にしすおろっ!?」
真似しようとしたシャンティが盛大にバランスを崩してコケた。
「なんだ?そんなのもできな
アイロもシャンティと同じコケ方で転がった。
「嘘でしょ……。」
「すみません……。」
「はは……。こういう繊細なのは苦手なんだ。」
「もう、しょうがないなぁ〜、
円香は引き出しを漁ると、『ウェットボクシング』のゲームケースを取り出した。
「じゃあこれ、体作りの入門編ってことで。みんなでやろ?」
「ゲームで体作りができるんですか!?」
「まあね♪」
「遊ぶだけじゃねーんだな。」
「フッフッフ……、これでしんどい筋トレをしなくても、楽して最強のムキムキボディですッ!」
「ムキムキには、なれるかなぁ……。」
円香は、謎にウェットスーツを着てイカついガントレットを装着した拳をこちらに向ける主人公が描かれたケースを見つめて苦笑いした
「『ウェットボクシング』……なぜウェット?」
「なんか知らないけどウェットスーツ来てボクシングで生物兵器と化した水生生物と戦うゲームだから。」
「面白そうですね♪」
「モリとか使えよ……。」
「まあまあやってみよ?」
「スタートです!」
いつの間にかゲームハードにディスクを入れていたシャンティが意気揚々とスタートボタンを押していた。
『200X年、某製薬企業から流出したウイルス兵器により、感染した動物は凶暴化。逃げ延びた人類は世界の7割を占める海へと逃げ延びた。』
「これスポーツゲーム、なんだよなあ?」
「アイロさん、しっ!」
『悲劇から100年後、海底に築いた人類のコロニーに凶暴化した水生生物の魔の手が伸びる……!』
「おお……!」
『ダメです博士!これ以上は外壁がもちませんっ!?』
『仕方ない……まだ開発段階だが、いけるな?』
『はい、博士!』
「こいつが主人公か。」
『バトル1 マグロ』
『コントローラーをしっかり持とう!』
「いきなりバトルですか!?」
「マグロ……寿司の親玉だな!」
「間違ってないけど色々違う……。」
「ん?『コントローラー持て』って出てるぞ?」
シャンティは左右の手でそれぞれ握るタイプの専用コントローラーを持った。
「画面にチュートリアルが出てるな。」
「チュートリアル……あ、博士がなんか言ってますね。」
『奴らの攻撃に合わせてガード、隙ができたら殴り倒すんじゃ!』
「なんか、物騒ですね……。」
「マグロ来てるぞ。」
「え?」
『キシャー!』
「地球のマグロって鳴くんですかぁぁあ!?」
シャンティは咄嗟にガードした。
「へへっ♪知らなかったのか?」
「いや鳴かないから……ッ!」
「んだよ、ちょっとくらい乗っかろーぜ?」
円香とアイロが雑談する横でシャンティは画面のマグロに攻められていた。
「防戦一方じゃ勝てるもんも勝てねーぞ?」
「そうでした!おりゃぁぁあ!」
シャンティは両手でラッシュを叩き込むと、やがてマグロが力尽きた。
『グボァ……。』
「はぁ……はぁ。なんとか勝てました……。」
『うむ、初めての実戦にしては上出来じゃ。』
『総合評価 C』
「C?」
「このゲームは戦闘の記録を評価してくれるんだよ♪しっかりガードしたり、短時間で殴り倒せると評価が上がるんだ。」
「下の方に何か出てんな。なになに……?『体幹を鍛えるとコンビネーションが安定するぞ!』。」
「体幹弱弱だったもんね。」
「『次へ』を押します!」
『あなた用のトレーニングメニューを設定しました。タイトル画面の「トレーニング」を選んでみましょう』
「トレーニング?」
シャンティが一旦セーブして『トレーニング』を押すと、画面にメニューが表示された。
「『プランク、肘と膝をついて手足を伸ばす運動』……。」
「これって……、」
「「結局筋トレかよ(ですかぁ)!?」」
体作りに近道なし。
背景、おばーちゃん。
今日は友だちとみんなで筋トレをしました。
みんな宇宙人だからそもそも筋トレに効果があるかなんてわからないけど、みんなでへばって取り留めもない話をする時間は楽しくて……
楽しいのはいいんだけど、でもみんなそんなに強くなって何するんだろう?
……うそうそ!ちゃーんとサボらず筋トレしてるからね!?
私もいつかおばーちゃんみたいな人になるんだもん!




