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12話 再会は土の味

高校生活2日目。


円谷円香(つぶらやまどか)は学校生活用の外面と普段の素を使い分けていた。




「うへぇ〜、疲れた……。」




正門を出ると、円香はガックリと肩を落としホラー映画に出てくるゾンビのような足取りになった。




「早く、早く帰って精神の休息を……!」




2日目にしてメンタルが鰹節のように削られまくった円香の目の前に一つの人影が降り立ったかと思うと、ズシンと重機でも落下するような轟音がした。




「何……?」




円香が目の前を注視すると、降り立った人影は超ミニスカートに限界まで袖を詰めたバリバリの改造制服を身に(まと)っており、銀髪のショートカットで、同じく銀色の瞳をこちらに向け、ニッと歯を見せて笑っていた。




「見つけたぜ……、円谷円香(つぶらやまどか)ッ!」


「…………。」




円香は天災の様に降り注いだ目の前の厄介ごとに頭を抱える……かと思いきや、




「…………もしかして、あの時のッ!」




目を輝かせて少女の手を握り、嬉しそうに身体を小刻みに上下させていた。




「『あの時』って、もうほとんど2年も前のことだろ……、よく覚えてんな///」




少女は気恥ずかしそうに頭を掻くと、赤くなった顔を背けた。




「そうだ……っ!」




円香は通学用のカバンをガサゴソと漁ると、中から角がよれ、コーヒーの丸い染みがついた一冊のパンフレットを取り出した。




「おまっ、それシュガーのショーに行った日のヤツだろ……よくまだ持ってんな。」


「お互い様でしょ♪」


※10話参照




円香が少女の通学カバンにぶら下がっていたシュガーのストラップを指でつつくと、少女の顔は更に赤味を増した。




「うるせぇ!?///2年前のパンフレットよりかは、まだ実用的だろうが……///」




歯切れが悪そうにブツブツと呟く少女を見て、円香は悪いことを思いついた少年のような邪な笑顔を浮かべた。




「そうだねぇ♪、こうやって私に思い出せて貰えてと〜っても役に立ったねぇ♪♪」


「てんめぇ……!///」


「……この分だと、パンフレットもカバンの中に隠し持ってたりして〜?」


「ッ!!??//////」




少女はものすごい速さで通学用のカバンを凹むほど強く抱きかかえ、円香から遠ざける様に身体を捻った。




「わーお……。」


「おめっ、何が言いたい……!///」


「何……うーん、




円香はちょっとの間腕を組んで空を仰ぐと、




「また会えて嬉しいよ♪」


「……ッ///」




2人の間にカラッとした温かい風が吹いた。




「色々お話したいし……寄り道してく?」


「お、おう……、受けて立つ……ッ!」




少女は無い袖を捲って胸の前でグッと拳を握った。




「変なの♪」


「オメーにだけは言われたくねえ。」




2人はどちらから言い出すでもなく、少し歩いたところにあるコーヒーチェーン店に足を踏み入れていた。




「ふ〜ん?わかってんじゃねーか。」


「ファンはこーゆー演出に弱いからね♪」


「誰がファンだッ!」


「え?2年もの間、再開した私に思い出してもらえる様に〜って、ストラップとパンフレット持っててくれたんでしょ?……ファンじゃん。」


「く……ッ!///どいつもこいつも……!」


「『どいつもこいつも』……?」




まるで少女のことをファン呼ばわりする人物が他にもいたかの様な口ぶりに、円香は思わず聞き返した。




「ああそうだ!聞いて驚くなよ〜?……アタシ、あのシュガーにまた会っ


「その話詳しく。」


「……お、おう。」




机をバンッと叩き前のめりになる円香に少女は……引いた。




「つっても昨日、校舎の向かいの建物から入学式を眺めようと思ったら先に居やがったってだけだけどな。『バカ貝』だの『キモガニ』だの、ほんっっといけすかねー野郎


「『ありがとうございます』でしょ……!?」




円香の目が地走っていた。




「え


「シュガー・パティシエールから直々に拝命するなんて、前世でどれだけ徳を積んだわけ?しかも2つも……!」




円香が机の上で握っていた拳がブルブルと震えていた。




「ま、まあそんな所だ……!とにかく今は2人のはなしをしよーぜ……!?」


「……………………、まあ、『いずれ』聞けばいいか。」


「シュガー絡みだといちいち怖えのは変わってねーのな……。」




少女はなんとか話題を逸らせたと安堵し、深いため息をついた。




「……じゃあなんで『バカ貝』は昨日入学式出なかったの?」


「『アイロ・スティール』だッ!!……ったく、当然の様に拝命を受け入れてんじゃねーっつの。」


「…………。フフ♪冗談だって。」


「なんなんださっきの間は……。」


「『アイロ・スティール』……『アイロ・スティール』……、」




円香は険しい顔で少女、改めアイロの名前を繰り返し呟いた。




「あんまり連呼すんな恥ずかしい……!///」


「……早口で言ったら『愛してる』に聞こえるな。」


「うっっせえわ!!//////」


「まあまあ、私は『円谷円香(つぶらやまどか)』だよ。改めてよろしく♪」


「おう……よろしく///」




アイロはペコリとぎこちなく頭を下げた。




「……で、入学式…………はいいや。」


「いいのかよ。」


「まずはその改造制服に突っ込まないと失礼かなって。」




円香はアイロの改造制服の限界まで詰められてほぼノースリーブと化している袖を見つめた。




「……趣味じゃないからな?」


「  」


「おいなんだその目は……!?」


「アイロ……私たち、友だちだよね……?」


「再開したその場でその言葉吐くヤツ初めて見たわ。……因みにこれは機能性突き詰めてこうなってんだからな?決して趣味じゃねえ!……決して。」


「なんで2回言ったの?」


「重要なことだからな。」


「な〜んだ。入学式ボイコットするくらいだし、てっきりアウトローなもんだと


「アウトローは約束守んねえだろ……。」


「はあぁぁぁ………。」




円香は大きな、大きなため息をついた。




「……何が言いたい。」


「重たい……ッ!アイロからの矢印が重たいな〜って。」


「矢印ぃ?」




円香は席を立ち首を傾げるアイロの後ろに回り込んで両肩に手を置いた。




「……アイロはこれからもピュアピュアでいてね?」


「お、おう……?」




アイロは振り向くと困惑した目で円香を見上げた。




「……。」




円香が席に戻った後も振り向いたままのアイロの視線は一点に集中していた。




「……すげーなアイツ。」


「『アイツ』?」




円香が身体を横に傾けアイロの背中に隠れていた向こう側を覗くと、そこにはシャンティを一回り小さくしたような女の子が、フワフワのスカイブルーのツインテールを揺らして満面の笑みで山盛りのサンドイッチを食べ進めていた。




「げ……ッ!?」




円香はそれがシャンティの妹であることを瞬時に理解した。




「なんだよ、『げ……ッ!?』って。知り合いか?」


「ああ!?いや、その……知り合いというか……、




「敵。」




いつの間にか妹は円香の隣に座っていた。




「  」


「おいおい、『敵』なんて穏やかじゃねーな。……とりあえずサンドイッチこっち持ってきて喋ろうぜ?」


「……わかった。」




妹はサンドイッチを乗せた盆を持ってアイロの隣に座った。




「よーしよし、良い子だ♪アタシはアイロ。アイロ・スティールだ。よろしくな?」


「…………、バルデ・フォーティス。」


「ほーん?変わった名前だな。」


「あれ?聞き取れる……。」


「聞き取れない名前なんて不便だもん。」


「円香、どーゆーことだ?」


「この子の星の言語は地球にない発音があって、うまく聞き取れないんだよ。」


「だから、地球人でも聞き取れる名前を敢えて名乗ってるの。」




妹、改めバルデはサンドイッチをモリモリ食べながら説明に入った。




「へー。地球人って不便なんだな。」




バルデはミルクを入れすぎてほぼコーヒー牛乳なコーヒーを啜った。




「……まてよ?じゃあアタシの名前を『愛してる』とか言ったのも



「ゴフッ!?」




バルデはコーヒーを吹き出しかけたが、なんとか堪えた。




「それは揶揄っただけだから。」


「マジで?」


「マジじゃなかったら今頃アイロは私の中で二股してることになってるって。」


「それもそっか……、そうなのか?」




アイロは顎を摘んで唸った。




「……ま、いっか。それで、なんでバルデは円香を敵視してんだ?」


「それは…………、




バルデは俯いてしまった。




「この地球人が、お義姉様(ねえさま)を盗ったから……。」


「盗った?」




アイロが聞き返すと、バルデは顔を上げて涙に潤んだ瞳で円香を睨みつけた。




「この地球人がお義姉様(ねえさま)(たぶら)かしたから、お義姉様(ねえさま)が帰って来ないんだ……!また一緒にご飯食べたりお風呂入ったりしたいのに……、それだけで幸せだったのに……!なんで


「よーしよしだいたいわかった落ち着け?」




アイロは感極まるバルデの頭を抱き抱えた。




「……で、円香はさっきからだんまりだけど、今の話本当か?」


「ちが


「返答次第ではアタシも『敵』になるからな?」


「なんで


「ったりめーだろ……。」




アイロの中で煮えたぎるマグマが透けて見えるように、銀色だった瞳は赤く輝き、その声には静かな怒りが籠っていた。




「アタシが友だちだと思っていた円香は、わざわざ電車乗り継いでまで来たショーの限定ストラップを、泣いてた子どもに迷いなく譲るようなヤツなんだ……。間違っても子ども泣かすような下衆じゃねえ……ッ!」


「……。」




失望や怒りを通り越した敵意の眼差しに円香は怯んだが、唾を飲み込んで深く息を吸い込みお腹に力を入れてまっすぐアイロの目と向き合った。




「……それでも、やっぱり違う。シャンティは自分の意思で家出したんだもん。シャンティだってバルデのこと大好きなのに……それでも1人で飛び出したんだから、きっとそれだけの理由があるんだよ。バルデの気持ちはよくわかったけど…………無理矢理連れ戻すのはやっぱり違う。」




アイロは腹の底から飛び出しそうな複雑な感情を必死に堪え、最後まで円香の言葉を聞き、ゆっくりと何度か頷いた。




「それが円香の答えなんだな?」


「……うん。」


「…………わかった。表出ろ。」


「え?あの




アイロは立ち上がると、困惑していたバルデの手を優しく握った。




「姉ちゃん、取り返すんだろ?手伝ってやっからよ♪」


「……///」




アイロが会計を済ませる後ろで、円香はスマホで自分の居場所と『ヘルプ』の文字だけ、シャンティに送信した。






「……ここら辺なら迷惑にはなんねーか。」


「待って!この地球人、戦えないのに2人がかりで襲うの……!?」


「人聞き(わり)いなぁ、ふん縛って交渉の材料にするだけだっての。」




どうやらアイロは私を捕縛してシャンティに家へ帰るよう説得するつもりのようだ。




「円香さんッ!!」




今にも襲い掛かられようかとしたその時、割烹着姿のシャンティが血相を変えて飛び出して来た。


一番足の速い『40分で支度する 国営放送お料理ママ伝説』のディスクで駆けつけてくれたようで、円香の心がほんの少しだけ軽くなった。




「お義姉様(ねえさま)!」

「げッ!?バルデの姉ちゃんってアイツかよ……。」




「円香さん、これはどういう……!?」




シャンティは対峙しているアイロとバルデの組み合わせに動揺している様子だった。




「2人がかりで私を捕まえてシャンティ連れ帰る交渉の材料にしようとしてるみたいだよ……!」


「無事で良かったですけど……気をつけてください!アイロさんは腕を変形させて厄介な技を使って来ます……ッ!」


「あれ?戦ったことあるの?」




シャンティと円香の会話を遮るように、アイロが両手の拳を付き合わせると思い金属をぶつけたような音が響き渡った。




「へっ!2人がかりでやっと互角だった奴が、余裕かましてる場合かよ……!」


「は?今お義姉様(ねえさま)に向かってなんつった……?」


「なんでバルデがキレてんだよ!?」


「お義姉様(ねえさま)に弱々と言って良いのはわたしだけだから。」


「へいへい、めんどくせー……。とりあえずまずはタイマンだ!……後ろで見てな!」




アイロが前へ出ると、無機質なグレーの瞳と両腕が熱した鉄のように赤く輝いた。




「知ってると思うけど、あの腕めっちゃ熱いから気をつけて……!」


「知ってますッ!」




シャンティは刀の居合のように構えた出刃包丁を抜刀して目の前を2回斬りつけると、大きく厚みのある燻銀に輝くX字型の斬撃がアイロ向かって飛んでいった。




「『飾り包丁』ッ!!」


「……オラァッ!!」




アイロは前蹴りでシャンティの斬撃を容易く蹴り壊してみせた。




「んだよ、前と同じじゃ勝てねーぞ?」




『前と同じ』……?


攻撃が防がれたのにシャンティの表情には『計画通り』と言わんばかりの余裕があった。




「だったら『前と同じ』く、スピードで翻弄してやるまでです……!」




シャンティが出刃包丁を構えるのを見て、アイロは前屈みになると両腕を、伸ばしきれば3メートルはありそうな程の巨大なカマキリの腕を模した形状に変化させた。




「『プレデター・ネイル』……。」




アイロの瞳が深海のような青に変わると、変形した腕が黒い鋼のような質感に変化した。




あの腕の形状はカマキリ……?カマキリはトンボみたいな速い昆虫も捕縛できるけど、あの大きさだと虫取り網みたいに振り回して引っ掛ける感じ……。


そうか!シャンティは私に『プレデター・ネイル』の存在を知らせるためにわざと……!


シャンティの顔を見ると目があった。




「シャンティ!あの腕は振り回されたら厄介だけど、重心が偏り過ぎて素早く動かすのには不向きだよ!……渾身の一撃で突っ込んじゃって!」


「……はいッ!」




シャンティは深く腰を入れて納刀した出刃包丁を握る手に力を込め、強く踏み込んだ。




「ヘッ!何度来たって、

「『導刃(どうじん)……、一志(いっし)ッ!!!』」






シャンティがアイロとすれ違うと、ほんの一瞬2人の交点が夜空の星のように眩く煌めいて、




「な……ッ!?」




アイロの変形した両腕が肘の所で両断された。




「これでカマキリにも対抗できますっ♪」


「……ちいっ!バディー気取りかよ。」




アイロの瞳が再び赤くなると、欠損していた両腕が赤く輝いた状態で生えてきた。




「……『超怪獣(ちょうかいじゅう)』、フェーズ1。」




アイロの後ろでこちらを見ていたバルデが1枚のディスクを自身の胸元に挿入すると、手足と顎に細長い尻尾のみの最小限の武装に留めた、小型の恐竜を彷彿させる容貌に変化させ、一直線にシャンティに突っ込んだ。




「たあッ!」


「が……ッ!?」




バルデが尻尾の薙ぎ払いでシャンティの攻撃の後隙を狩り、吹っ飛ばした。




「『バディー』……?お義姉様(ねえさま)が私以外と(つがい)になるなんて認めない。」




バルデの瞳孔が爬虫類のように細く、その目は血走っていた。




「アイロ。手の内を明かす程あの地球人は厄介になる。……ここは2人がかりで仕留めよう。」


「おー。バルデも戦えんのか、心強いな♪」




アイロは白い歯を見せて笑った。




「2人がかりってのが、な〜んか悪いことしてるみたいでスッキリしねーが、あっちには円香もいるし……まっ、良いか!」




アイロとバルデが並び立った。




「「げ……。」」


「いくぜっ!」


「円香さんは後ろにっ!」




アイロが赤くなった両腕の拳で殴りかかってきた。




「『隠し包丁』……ッ!!」




シャンティが出刃包丁を振るうと、糸のような燻銀(いぶしぎん)に煌めく軌跡を描く幾多もの斬撃がアイロの拳を阻み、押し返した。




「ぐおっ!?」


「……ッ!」




バルデはシャンティの攻撃の後隙をついて、加速をつけた蹴りをボディに喰らわせた。




「あぐっ!?」




シャンティは堪らず数歩後退した。




「ちいっ……、やっぱり厄介だなアレ。」


「確かに厄介だけど、攻撃の後に隙がある。アイロがシャンティに技を出させて、わたしが隙を狩る……。手数で押せば先に倒れるのはお義姉様(ねえさま)。」




スピードと技の手数に優れた『お料理ママ』のシャンティは一対一の攻防なら完璧に対応できているが、バルデの言うとおりシャンティの攻撃には後隙があり、複数戦が苦手であることは明白だった。




「く……っ、」




『お料理ママ』の巧みな斬撃は心眼の域に達しているが、裏を返せば攻撃対象に全神経を持っていかれるということだ。


達人のオリジナルなら経験値でカバーできるのだろうが、ディスクの力で技を模倣しているだけのシャンティに複数の敵を相手どるのは厳しい……!


初めて会ったときもそうだったけど、バルデの観察眼も相当厄介だ……!




「どうしたら


「だったら……!」




シャンティは『甲子園!怒涛!!』のゲームディスクを取り出した。




「だめッ!!」


「円香さん!?なんで


「バットとボールじゃアイロのインファイトに対応できない……!」


「なら、『バトルシエ闘度100』で


「それだとこの前みたいにバルデのスピードに完封される!」


「そんなの、どうしたら……!?」




シャンティが戸惑うのも無理はない。これまで何回か近くで戦う姿を見てきたけど、シャンティは数的不利をとる経験をしたことがない。




「『どうしたら』?……わたしとお家に帰れば良いんだよ、お義姉様(ねえさま)……ッ!!」




加速をつけたバルデの蹴りがまっすぐシャンティに飛んできた。




「『隠し

「ふぐぅ……ッ!!」




シャンティが出刃包丁を振おうとした瞬間、円香が間に入って腹に蹴りを喰らいながらバルデの片足を両腕で掴み捕捉した。





「「「な……ッ!?」」」


「……私もみんなみたいに、前線で殴り合える強さがあればよかったけど……!今はこれで精一杯……!私が抑えてる間に『お料理ママ』でアイロをお願い……ッ!!」




円香は冷や汗を流し苦悶の表情を浮かべながら声を張り上げた。




「なんでだよ……。なんで円香はそこまで






「『飾り包丁』ッ!!」

「……ッ!?」





大きく厚みのある燻銀に輝くX字型の斬撃がアイロのボディに直撃して後方に吹っ飛ばされた。




「『なんで』って、わからないなら教えてあげますよ……。円香さんは、友だちのためなら平気でそういうことする人だからですッ!!」




シャンティが追撃しようとアイロに踏み込んだ。




「がは……ッ!?」




アイロはシャンティの斬撃を連続で受け、地面に転がされた。




「『友だち』……か。」




アイロは力なく震える身体でうつ伏せになり、手をつき、膝をついた。




「はは。そうだったなあ……。円香はそういうヤツだった!教えてくれてありがとよ……ッ!」




アイロは拳を握り直し、強く地面に打ちつけると身体の震えがおさまり食いしばった歯をニッと見せて口だけで笑った。




「思い出したぜ……。アタシはそんなヤツになりたくて、そんなヤツと友だちになりたくて……、今だって、そんなヤツみたいにあるために……!テメーの妹笑わせたくて戦ってんだったッ!!」




アイロは立ち上がると、一際眩しく、紅く煌めく瞳でシャンティをまっすぐ見つめた。




「……ッ!」




シャンティが構えると、アイロは両腕を紅く、更に白く輝かせ、厚みのある白銀のアームシールド状に変化させた。




「『導刃(どうじん)……、一志(いっし)ッ!!!』」

「……ッ!」




シャンティがアイロのアームシールドの上から渾身の斬撃を喰らわせると、




「らぁあッ!!」




アイロは砕けた腕を修復しながらシャンティを殴打した。




「な"……!?」




もろに攻撃を喰らったシャンティは大きく吹っ飛ばされたが、なんとか受け身をとって体勢を立て直した。




「なんで……。確かに腕を斬った手応えはあったのに……!?」


「ああ。確かに斬られたし、さっきまでならアタシの腕は砕け散ってただろう……なッ!」


「くっ……!」




シャンティはアイロの追撃を躱した。








「ぐぐ……!はな……せっ!」


「やだぁぁ……!」




一方、バルデは円香にホールドされた脚を放させようと必死にもがいていた。




「よわっちい地球人の癖に、生意気……!」


「生意気で悪かったね……!」


「もう怒ったんだから!!」




バルデは地面に立てた尻尾だけでバランスを取ると、空いた片脚で円香を何度も蹴りつけた。




「放せ放せ放せ放せ放せ放せ放せ放せ!!」


「ぐぬぬ……!!」




円香はボコボコに蹴られながらも、抑えていた片脚だけは放さなかった。




「わたしの身体を触り尽くして良いのはお義姉様(ねえさま)だけなのッッ!!」


「触りたくて触ってんじゃないやいっ!」


「じゃあ放せば良いで……、しょッ!」




バルデが渾身の蹴りを繰り出すのを見計らって円香はわざと手を放した。




「ぉおッ!?」


「はい隙ありっ!」




円香はバランスを崩したバルデの背後に回り込むと背中側から両脚で胴にしがみついてそのまま両手首を掴み、両腕にアームロックを()めた。




「ごはっ!?」


「へへっ、どうよ……!地球人の叡智、関節技の味は……ッ!?」


「く……ッ!こんなものッ!」




バルデはもがいて尻尾をビタンビタンと地面に叩きつけるが、円香には当たらなかった。




「おやおやぁ?やっぱり武装してると可動域が狭まるみたいだねえ?自由な尻尾は上がらないのかな?」


「くぉんの……!陰湿野郎が……!!」




円香はシャンティとアイロの方を見たが、どうやらシャンティは斬りつけても瞬時に再生して反撃してくるアイロの白銀の腕に手こずっているようだった。




「硬度を落とす代わりにどんどん再生して欠損を補う……角質みたいなもんか。厄介だな……。」




円香が傍目に見ていると、アイロの防御は腕が主体だが、攻撃が拳で殴りにいくスタイから足技メインに切り替わっているのに気づいた。




「足技に自信がある……?いや、腕を破壊されるのを嫌ってる?」


「こ〜らーー!!背中でブツブツ言うな〜!!」


「おおっと!?」




大暴れするバルデに関節技を極め続ける様子はさながらロデオのようだった。




「…………、」




暴れたと思ったら突然バルデの動きが止まったのを円香が不思議がっていると、




「フェーズ2……。」




バルデの装甲が厚みを増し、今までのフェーズ1よりも全体がマッシブなシルエットになった。




「ぬぉんどりゃぁぁあ!!」


「うわっ!?」




バルデはさっきまでの倍はあろうかと言う馬力で背中の円香を振り払った。




「……くっ、」




投げ出された円香はなんとか受け身をとって追撃を回避した。




「なんで……、ディスクを差し替える腕は封じていたのに……!?」


「ふっふーん♪良いこと教えてあげる。……『超怪獣(ちょうかいじゅう)』は、進化する……ッ!」




バルデは背中を丸めて身体を大きく振るわせ、力を貯めると




「今度は負けないッ!……『超怪獣(ちょうかいじゅう)』、フェーズ3……ッ!!」




武装が更に厚くゴツくなったバルデのシルエットは2メートル程までに肥大化し、円香が初めてシャンティとあった日に2人を苦しめた超重量級の形態へと変化した。




「うっそ…………。」


「思えばあの日、貴様が現れなければ今ごろわたしはお義姉様(ねえさま)と家でたの…………、




おそらく『楽しく暮らしているはずだった』と言おうとしたのだろうが、バルデは途中で言葉が詰まり俯いてしまった。




もしかして、バルデはシャンティと一緒にいたいだけで、『帰る』ことには拘っていない……?








「く……ッ、はぁ……!クソが……。早くぶっ倒れやがれ……!」


「はぁ……、はぁ……。そっちこそ、いい加減に、降参してください……!」




アイロとシャンティはジリ貧の撃ち合いを繰り広げ、お互いに消耗しきっていた。




「何度斬ったって無駄だって……いい加減わかりやがれッ!」




アイロは跳び上がりシャンティ目掛けて踵落としを繰り出した。




「『隠し包丁』……ッ!!」




シャンティが無数の細かい斬撃で押し返すと、アイロは間合いをとって着地した。




「……ッ!!」




アイロの着地の隙を狙ってシャンティが高速の踏み込みからの斬撃を繰り出した。




「ぐぉ……ッ!?クソがッ!!」




アイロは咄嗟に両腕でガードしたが競り負けて構えた両腕が砕け散った。




「まだ……。いい加減に……!」




シャンティとアイロの足元に散りばめられた無数の白銀の金属片が2人の消耗っぷりを物語っていた。




「これで決めますッ!『導刃(どうじん)……、一志(いっし)ッ!!!』」




シャンティがアイロとすれ違うと、ほんの一瞬2人の交点が夜空の星のように眩く煌めいて、




「がは……ッ!?」




再生したアイロの両腕がまた砕け散り、アイロ自身は大きく吹っ飛ばされた。




「はぁ……、はっ……、ゴホッ……。やはり『無尽蔵』ではありませんでしたね……。」


「くっそ……、気づいてやがったのか……。」




アイロは仰向けに倒れたまま胸を激しく上下させていた。




「あれだけボロボロ散らかしてたら、円香さんじゃなくても気づきます。……腕が白くなってからのアイロさん、途中から足技ばっかり使ってましたからね……、まるで腕の残機を削られるのを嫌がるみたいに……ぐっ……!」




シャンティはふらついて片膝をついた。




「そうだ、円香さ…………!?




シャンティが円香を気にかけると、いつか自分を圧倒し追い詰めたバルデの超重量級の形態が円香と対峙しているのに気づきふらつきながら円香の前に立った。




「お義姉様(ねえさま)……!?」

「シャンティ!?」


「さあ……、ここからは私が、あい……手……!?




突然脚の力が抜けて倒れ込んだ背中を円香に支えられた。




「……もう諦めてお義姉様。そんなにボロボロな身体でこのフェーズ3に勝てるわけないのはわかるでしょ……?わたしもお義姉様を傷つけるのは嫌なの……!」




吐露された感情に混じって黄金色の炎がバルデの口から僅かに溢れた。




「……よく言うよ。いつでも最大火力出せるようにわざと一度も炎出さないで溜めてた癖に。」


「え……?」


「……チッ。」




バルデは爬虫類のように瞳孔を細め舌打ちした。




「やっぱり貴様が最大の障害だ地球人……ッ!!」




消耗しきったシャンティに今のバルデの相手は無理だ……!私も関節技とかで足掻ける体格差じゃなくなったし……なんとか、この状況を……!




「ねえ!」




円香は声を張り上げた。


考えろ、なんとかする方法は『戦って勝つ』だけじゃない……ッ!




「バルデはお家……好きなの?」


「なに急に……。」


「さっき、『今ごろわたしはお義姉様(ねえさま)と家で楽しく暮らしているはずだった』って言おうとしたんだよね……!」


「それがなんなの……?」


「バルデは本当に2人でお家に『帰る』ことが望みなの……?」


「……………………。」




円香が『帰る』と言う言葉を強調すると、バルデは再び俯いた。




「……シャンティ、これ使って。」




円香は真っ白な片面に『ウェーブ』と書かれたディスクをシャンティの手に持たせた。




「これは、故郷のディスク……!?」




そう。この『ウェーブ』は前にシャンティがちょっとだけ見せてくれた正真正銘『兵器』な、爆音で攻撃するディスク。


今の超重量級なフェーズ3のバルデを殴ってもダメージが通るとは思えない。でも音なら……!




「円香さん、なんでそれを


「ごめん、ちょっと拝借してた☆」




円香は下をぺろっと出して軽く謝罪した。


こんなのただの強がりだけど、なんとかシャンティに『ウェーブ』を使ってもらってダメージを……、ダメージが無理でもせめて『ホイップルバスタード』を2人で撃つ隙を……!




「でも、これは……。」


「嫌なのはわかってる。でも、帰ったらこれを使う日常が待ってるんでしょ?」




我ながらなんて意地悪な質問だろう。……でも、もう他に方法は無い。




「……それとも他に、今あのフェーズ3と正面から戦って勝つ見込みあるの?」


「……、わかりました。」




……こっちをまっすぐ見つめる覚悟の決まったシャンティの目は、さっきの強がりも、もう他に策が無いことも……きっと全部察してしまった故だろう。


シャンティは『ウェーブ』のディスクを胸元に挿入して普段着の姿に変化した。




「……行きますッ!」




シャンティは大きく息を吸い込んだ。




「遠距離攻撃する気なら、こっちだって……!」




バルデはのけぞって溜めた炎を吐き出す体制に入った。




「相殺してそのまま焼きつく


「ホ"ァ"ア"ア"ア"ア"ッ!!!!!」





バルデが炎を吐き出す前に、シャンティがとても声とは形容し難い騒音とともに重さのある空気の波状攻撃をバルデに浴びせた。




「ぐぁぁ……ッ!!?」




バルデは腕でガードを試みたが、重さのある空気の波はあらゆる抵抗を貫通してバルデを苦しめた。




「ぁぐ……ッ、こっち側でも耳が……!?」


「円香さんッ!?」




シャンティが振り向くと、円香も耳に両手を押し付け、目尻に涙を溜めたままうずくまって苦しんでいた。




「ごめん、何言ってんのか聞こえないけど……、『バトルシエ』で決めるよ!」


「聞こえないって、どういう……


「んッッ!」




きっと、これが最後の勝機だ。




円香は困惑するシャンティに言葉を投げかけることなく肩を掴んでバルデの方を向かせた。




「……わかりました。絶対、後でちゃんと話して貰いますからねッ!?」




ぼんやりとだが、『話してもらう』ことだけ聞き取れた。




「……うんッ!絶対話そう!ここを乗り越えて……、後でッ!!」


「……はい♪」




シャンティは精一杯の強がりな笑顔で応えると、『バトルシエ闘度(とうど)100』のディスクを自身の胸元に挿入し、白とピンクを基調としたポップでスイートなショートドレス姿に変化して絞り機を両手で持ちバルデに向けて構えた。




「しっかり支えててくださいよ……ッ!?」




シャンティが両手で絞り機を高く掲げて気合いを入れると、絞り機は熟したリンゴのような赤色と爽やかでネイビーなクリーム色の眩い光で輝きだした。




「「ホイップル……!!」」




シャンティは円香に支えられながらバルデに絞り機を向けた。




「「バスターーッド!!」」




絞り機からは2色の光が螺旋(らせん)を描き、極太のレーザーとなって放たれた。




「「いっっけぇぇぇええッ!!!」」




「ぅ……、しまっ!?




悶えていたバルデが顔を上げると、極太のレーザーが目前に迫って来ていた。




「『アームド・シルバー』ッ!!」


「え……?」




被弾を覚悟していたバルデの前に、フェーズ3の自分よりも一回り小さい背中が割って入った。




「ぐおおお……ッ!!??」




バルデを庇ったのはさっきまで満身創痍で倒れていたアイロだった。




「…………アイ……、ロ?」




アイロはアームシールド状に変化した両腕をボクシングのガードのように構え、シャンティと円香の渾身の『ホイップルバスタード』を受け止めていた。




「ごめんな、遅くなっちまって……!」


「なんで……。」


「言わなかったっけ?『手伝ってやる』って。」




眩しいのと後ろにいたのでバルデには見えなかったが、アイロが笑っているのが声色で伝わって来た。




「ぐぅ……ッ!!にしてもなんて威力してやがる。再生が間に合うか、怪しいな……!」




アイロの足から前に伸びている引き摺られたように地面の抉れた跡が、アイロの限界が近いことを物語っていた。




「早くどいてッ!もう、充分手伝って貰ったから……!もともとアイロは関係


「なくてもやるんだよ……ッ!!」




アイロが攻撃を受け止めたまま一歩前進した。




「バルデ……。オメー、今ひでぇ顔してんだろ?……見えねえけど。」




アイロはまた一歩前進した。




「そんなんでほっぽったら夢見が悪いし……、なによりたった一人の友だちに顔向けできねえッ!!」




アイロは砕けた腕の破片を撒き散らしながらズンズンと歩みを進めた。




「オメーの姉ちゃん、ぶん殴って目ぇ覚ましてやっからそこで見てろッ!!」


「アイロ……。」




アイロは『ホイップルバスタード』を押し返しながらシャンティの目前まで迫ると、楔のように片足を地面に突き刺した。




「これで……!」




アイロはガードの下から自分の腕ごと蹴り上げると、両腕は砕けシャンティの絞り機が宙を舞った。




「そんな……!?」


「最後だぁぁぁああッ!!!」




アイロは突き刺さった足を抜くと、後ろにいた円香ごとシャンティを全身全霊の前蹴りでぶっ飛ばした。




「「ぐあッ!?」」




転がされた2人が立ち上がらないのを見届けると、




「へへ……どーだ。これでやっと、対等に……。」




アイロは背中から倒れ込んで空を仰いだ。




「アイロッ!!」




ディスクを取り出し普段の姿に戻ったバルデがアイロに駆け寄り、両腕を欠いた上半身を抱き起こした。




「何してんだよ……。手伝ってやったんだから、ちゃんと姉ちゃん連れ帰りやがれ……。」


「……。」




バルデは言葉が出てこず俯いてしまった。




「おいおいなんだよ。骨折り損にさせんなよ♪」




アイロは鉛のように重い身体の頭だけ気合いで起こし、歯を食いしばったまま精一杯の強がりな笑顔を見せた。




「…………ごめん。」


「は?」




謝られるなんて想定外、と言う様子でアイロは目を丸くして間抜けな声を漏らし、ストンと頭の後ろが地面についた。




「いや、アタシがボロボロになってんのは好きでやってんだから謝んなくて良いんだよ!「……それよりほら、あの2人もう立ち上がるぞ!?どっか行っちゃうぞ!?」




「……んぅ!」




アイロが指差した先で円香が震える腕を地面に突き立てて、今にも立ちあがろうとしていた。




「…………ごめん。」


「誤ってばっかじゃわかんねーって。あと泣くんじゃねえッ!」




バルデの目には溢れそうな程に涙が溜まっていた。




「ごめんなさい……、わたし……、」


「あーもう、良いからとりあえず落ち着け。喋んのはそれからで良いから……。」




アイロは片腕だけ再生し、もう一度気合を入れて体を完全に起こすと、膝立ちのままバルデの頭を抱き寄せた。




「……ッ、」




円香は2人に気付かれないよう、生まれたての小鹿のように震える身体で歯を食いしばり、シャンティの腕を担いで撤退を図っていた。






「……アイロ。」


「なんだ?」




アイロの声色はさっきまでの交戦時とはかけ離れた優しいものに変わっていた。




「わたし……、も……その…………家出する。」


「「え?」」




アイロがバルデの頭を抱いていた腕がダランと垂れ、円香は力が抜けてシャンティごとずっこけた。




「……ぅ、」




転んだ拍子にシャンティが目を覚ました。




「え……、さっきまで姉ちゃん連れて帰るって言ってたじゃねーかよ……!?」


「だから、その……ごめん///」




バルデは気まずそうにアイロから顔を背けた。




「円香さん、これはどういう……。」


「私にも全く。」




円香とシャンティは訳がわからずその場にへたり込んでいた。




「なんで……?」


「……さっきそこの地球人に言われて気づいたの。わたしがほんとうに『帰る』ことを望んでるのかって。」


「お、おう……?」


「わたしは、ただお義姉様といっしょにいられれば、それはどこでも良くて……。」




バルデは言葉を進めると、更に気まずそうに指をいじり出した。




「わたしがここにいることを望めば、アイロはそこの地球人とまた友だちになれるんでしょ……?」


「ばかっ!アタシのことより自分の気持ち優先しろッ!」


「うん。だから……その///」




バルデは顔を赤くして両手で顔を覆った。




「その……なんだ?」


「地球には、アイロがいるから……///」


「はぁぁあッ!!??//////」




アイロの顔が真っ赤に茹で上がった。




「ばばばばっ、ばかっ!バカやろっ、テメ///急に何言い出しやがるッ!?//////」




再生されたもう片方の腕も使って、アイロはブンブンワタワタと身体の前で手を振り回し、混乱していた。




「お義姉様のことも大好きだけど……、あんなに親身になって、優しくて、命懸けで戦ってくれた人は初めてだったから……///」


「  」




アイロが頭から湯気を出し放心している様はさながら故障して動かなくなった機械のようだった……。




「そこまでにしてあげな?」




いつの間にかすぐそばまで来ていた円香がバルデの肩に手を置いた。




「うっさい黙れ地球人!」




バルデは円香の手を振り払った。




「ああもう、乱暴はダメですよ?」




追いついたシャンティがバルデを諌めた。




「……バルデ。」




バルデは自分の名前を呟くとそっぽを向いた。




「シャンティお義姉様にはまだ名乗ってなかったから


「バルデ〜〜〜〜!!」




シャンティはバルデに、文字通り全身全霊で抱きついた。




「とりあえず……、これで一件落着かな。」




円香は力尽きて背中を地面にくっつけると大の字になって空を仰いだ。




「そうだっ!バルデも一緒に暮らしませんか♪」


「え"……っ。」


「なんだ地球人。」


「あ、いや何でもないです……。」


「ちょうどアパートには空き部屋がありますし、円香さんの部屋の反対側の壁をぶち破れば


「は……?」




バルデの声には嫉妬を軽く通り越した怨念のような怒気が籠っていた。




「まさか、2人は同棲……、


「いや

「はい♪♪」




円香は手のひらで顔を覆い空を仰いだ。




「バルデも、どうですか♪」


「やだ。」


「え"……?」


「お義姉様はわたしが寂しい思いしてるときに、そこの地球人とイチャイチャちゅっちゅしてたんでしょ……?」


「してないっ!してないッ!!」




円香は上半身だけ起こすと、首がふっ飛ぶ勢いで横に振りまくった。




「だから……!」




バルデは放心しているアイロの腕を抱き抱えた。




「……はっ!?なんだ?」




アイロが我に帰った。




「わたしはアイロと住むもんッ!」


「はっ!?お、おい何言って……!///」


「これから地球でた〜〜〜〜っぷり、アイロとイチャイチャしてるとこ見せつけて仕返ししてやるんだから……!」




バルデがアイロの腕をいっそう強く抱きしめた。




「は?え、おいっ!///バルデ?当たって……!?///」


「良かったじゃん。」


「円香!おまっ、他人事だと思って……!?」


「あ〜あ、『友だち』が目の前で彼女作ってて病みそ〜。」


「友……だ……ち……。」




アイロが円香の言葉を反芻すると、円香は耳を真っ赤にして後ろを向いた。




「……寂しいならまたあのクソッタレのショーにでも行ってやろうか?『ダチ』の誘いなら付き合ってやらんでもねーぜ?」




言い終えた後でアイロも耳を真っ赤にして円香に背を向けた。




「……気が向いたらね。」


「おう♪」




円香とアイロの間にカラッとした温かい風が吹くと、むくれたバルデが『超怪獣』のディスクを胸元に挿入してフェーズ1の姿に変化し、アイロを担いで走り去っていった……。




「……はぁ〜〜、負けた負けた!」




円香は大の字になってもう一度地べたに背中をくっつけた。




「……シャンティ?」




バルデに同居を拒否されたあたりから一切言葉を発していないシャンティの方を改めて見ると、




「……。」




シャンティと目が合った。




「……なに?」




シャンティは少し黙ると、やがてパシンと両手のひらで頬を叩いて、




「帰りましょう♪」




強がりではない、精一杯を超えた笑顔で円香を見下ろした。




「……だね♪」




円香がシャンティに差し伸べられた手を掴んで立ち上がると、そのまま火傷しそうな夕陽に背中を押されて、2人は家へと帰っていった。






背景、おばーちゃん。


お隣さんの家出問題も一件落着したし、私もいつかの友だちとまた友だちになれました♪

私ね、御茶混(おさま)市に来て、おばーちゃんに話したいこと、いっぱい、い〜っぱいできたんたできたんだ!

今度のお休み、絶対会いに行くから耳を揃えて待っててよね♪

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