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10話 円香の過去

シャンティ、円香、キラビはシャンティの部屋いつものように朝の食卓を囲んでいた。




「……、」


「〜、」


「〜、」




静かな食卓でシャンティとキラビは、どこか険しい顔をして黙々と食事を進める円香を不思議そうに見つめていた。




「……、あれ?2人ともどうしたの?」




1番早く食べ終わった円香が2人の視線に気づいた。




「円香さん、何か考えごとですか?」


「へ?……ああ、ごめん黙々と食べちゃってた。」


「悩みごと?」


「あはは、違うって。もうすぐ高校始まるな〜って、考えてた。」


「高校?」


「地球人は小、中、高……って感じで、学校のグレードが上がってくんだよ。」


「「へぇ〜。」」


「それで円香さんは憂鬱だったんですね。」


「逆だよ逆。」


「高校って楽しい所なの?」


「学校は楽しい所じゃないけど……友だちに会えるんだ♪」




円香は遠距離恋愛の恋人との再会に胸躍らせる淑女のように頬を染めて恥ずかしそうに微笑んだ。




「私とキラビさん以外に友だちいたんですか?」


「シャンティちゃん、いくらほんとのことでも失礼だよ……!?」


「うん大丈夫。キラビも充分失礼だから。」


「というか、円香さんって御茶混(おさま)市に来たばっかりですよね?これから作るんですか?」


「これからっていうか、もう友だち。……少なくとも私にとっては。」


「片想いだね♪」


「……わざとやってる?」


「それで、その友だちって誰なんですか?」


「話しても2人にはピンと来ないと思うけど……。」


「キラビは聞きたいな♪」


「私も聞きたいです!」


「そう?じゃあ……ちょっと長くなるよ?これは私が中学2年の夏、ざっと2年……は経たないくらい前の話なんだけど……、




ダルそうに口を開いた円香はどこか幸せそうな表情をしていた。






〜〜




『間もなく〜、御茶混(おさま)〜、御茶混(おさま)〜。』




何度聞いても独特な声の電車のアナウンスが目的地への到着を知らせる。




「…………よし♪」




ここは御茶混(おさま)市。


人口そこそこ、広さそこそこの何の変哲もない平凡な町。


ただちょっと特別なことがあるとすれば……人口のほとんどを占める宇宙人が、地球人のコスプレをして日常を謳歌していることくらい。


……まあ、この時の私はそんなこと全然知らなかったんだけど。




「ぅ〜……、とうちゃーーく!!」




そんな御茶混(おさま)市のど真ん中に降り立ったこの少女こそ私、円谷円香(つぶらやまどか)


今をときめ……いてはいないけど、とりあえず中学2年生!制服もバッチリ着こなし♪




「時間は……まだ余裕あるし、コーヒーでも飲んで時間潰すかな。」




夏休みの朝っぱらから制服なんて着て何処へって?


……そんなの、




円香(まどか)はコーヒーチェーン店のテーブルでコーヒー片手に、[御茶混(おさま)高校オープンキャンパス]と書かれた1冊のパンフレットを広げた。




オープンキャンパス……じゃなくて、




円香は広げたパンフレットの上に肘をつき、スマホを立ち上げると、画面には[シュガー・パティシエール ヒーローショー!]の文字が表示された。




円香は御茶混(おさま)駅に隣接するショッピングモールで今日開催される『シュガー・パティシエール』のヒーローショーを観に来ていた。


……つま制服とパンフレットはただのカモフラージュ。




「……ふぅ〜。」




あったか〜いコーヒーをブラックで賞味。このチェーン店、ブラックコーヒーは事故らないように黒いカップに入れてくれるんだよね。う〜ん、大人……!ああ、早く大人になりてぇ〜。




「……はあぁ///」




ピッチピチの中学2年生がブラックコーヒーでエレガントにティータイムと洒落込んでいると、私とは別の中学校の制服を着た少女が黒いコーヒーカップとサンドイッチの乗ったお盆を持ってすぐ隣の通路を通り過ぎた。




(あの子はオープンキャンパスかな……ん?)




少女のカバンから1冊のパンフレットが落っこちた。……少女は気づいていない。




「……、」




円香は席を立ち、落ちたパンフレットを拾うと、飲んでいたブラックコーヒーともどもお盆に乗せて少女の後を追った。




「ねえキミ、」




少女がお店の角の2人席に座ると、円香は少女に声をかけた。




「これ、落としたよ。」


「…………。」




少女は金属質でグレーな瞳で円香をジーッと見つめると、無言でパンフレットを受け取った。




「捨てて良かったのに。……でも、ありがと。」


「どーいたしまして♪」




円香は少女の対面に座った。




「……何で座った?」




少女はお礼を言った時の礼儀正しさをかなぐり捨て、気だるそうに円香に聞いた。




「キミ、私とおんなじ匂いがしたから♪」


「え……!?」




少女は慌てて自分の襟元をスンスンと嗅いだ。




「……臭うか?///」


「そりゃあもう、ブラックコーヒーでエレガントにティータイムと洒落込んでる所とか、パンフレットをカモフラージュに使ってるとこ


「うるせえっ!!///」




少女は怒って露骨にそっぽを向いてしまった。


今、一瞬目が赤くなったような……気のせいかな?





「ごめんごめん。お詫びにこれあげるからさ?」


「な、なんだよ……?」




少女が再びこっちを見ると、円香が手に持っていたパンフレットを見て、ブラックコーヒーよりも苦い表情をした。




「オメーもか……。」


「ね?同じ匂いがするでしょ♪」


「いらんいらん、水に流してやるからコースターにでもしとけ。」


「そりゃどーも。」




円香は黒いコーヒーカップの下にパンフレットを差し込んだ。




「……。」




少女は無機質なグレーの瞳でコースターと化した円香のパンフレットを見つめると、




「……///」




円香を真似て黒いコーヒーカップの下に自分のパンフレットを差し込んだ。




「「ははっ、なに(んだ)これ♪」」




どちらからともなく、笑いが溢れた。




「へ〜?笑うとかわいいじゃん。」


「口説いてんのか?なら悪いけど、アタシは1日ここに居座る予定だどこにも行かねーよ。」


「え〜?退屈じゃない?」


「なんだオメー、お友だち作りなら他を当たんな。アタシはオープンキャンパス行かねーから。」


「じゃあヒーローショー行こーよ?」


「はあっ!?」


「知らないの?今日、隣のショッピングモールで『シュガー・パティシエール』のヒーローショー


「いや誰だよ……。」


「  」




円香は宇宙人でも見てしまったかのような、信じられないという表情で少女を見つめた。




「……そんなに有名なのか?」


「有名だよっ!?世界三代宗教だよ!?」


「いや知らねーし、嘘つくな。地球人誰も信仰してねーだろ。」


「……♪」




円香は得意げに目を瞑って自分の胸をポンポンと叩いた。




「1人じゃねーか!っていうか残機20億かっ!?」


「おー。頭良いね?」


「へへ、まあな♪仮に御茶混(おさま)高校で受験したら首席は間違いなくアタシだろーぜ♪」




少女は得意げに目を瞑って自分の胸をポンポンと叩いた。




「う〜ん、それはないかなー。」


「んだとテメ


「私、そこ受けるし。」


「んだよ……オメーのがアタシより頭良いってのか?」


「シュガーの良さがわからないようじゃあ、ねえ……?」




円香は大袈裟にため息をつき、両の手のひらを上に向け、全身で『やれやれ』を表現した。




「馬鹿にしやがって……!」




少女の金属質なグレーの瞳がまた赤くなった。




「でもシュガーのこと知らないんでしょ〜?」


「うるせえ!だったら行ってやんよ……!その『シュガー・パティシエール』とやらのヒーローショーになあ!?」


「ちょろ……。」


「なんか言ったか……!?」


「いや〜何も?場所取りいっくよー。」




2人はお店を出ると、ショッピングモールの広間へと移動した。




「お〜、開始前にしちゃ人集まってんな。」




少女が言うとおり、ショーの開始30分前なのに広間には人がまばらに集まり出していた。




「……で?そのヒーローとやらはどこだ?」


「え?誰がいないって?」


「だから『シュガー・パティシエール』だよ。」


「まだ始まってないんだからいないよ……。」


「そっか。じゃあそのヒーローとやらについて教えてくれ。」


「え?誰について教えてくれって?」


「『シュガー・パティシエール』だよ……って、オメーわざと言わせてんだろ!?宗教勧誘かっ!」


「これでも1人世界三代宗教だからね♪」


「突っ込んだアタシが馬鹿だったよ……。」


「まあまあ、合言葉キャンペーンやってから教えてあげよう……っ!」


「『合言葉』だあ?」


「そこの受付のお姉さんに、こうやって……、




円香は少女から適切な距離を取った。




「君にワンダーとってもスイート!最強最高の菓子職人……!『シュガー・パティシエール』!!」




円香は痛快な口上と決めポーズで少女にシュガーの名乗りをしてみせた。




「…………なんで距離とった?」


「……とまあ、これをやると限定のストラップを貰えるんだよ。」


「お、おう……。」


「……覚えた?」


「今のを1回で覚えろってのか……!?」


「覚えるまで何度でも見せるけど。」


「いらんいらん。」


「ほんとに〜?」


「うっせーな……ちょっと見とけ。」




少女は心底ダルそうに円香から適切な距離をとると、




「君にワンダーとってもスイート!最強最高の菓子職人……!『シュガー・パティシエール』!!」




少女は円香の痛快な口上と決めポーズを完璧にコピーしてシュガーの名乗りをやってのけた。




「……へっ。どーだ!アタシのハイスペぶり、とくと目に焼き付け




パシャシャシャ…




「『目に』焼き付けるんだよっ!///」




少女は円香のスマホを取り上げると、連写された自分の写真を片っ端から消去した。




「ああ、シュガーファン誕生の瞬間が……。」


「誕生してねえっつの!……ほら、さっさといくぞ。」


「はいはい♪」


「……ったく、ガキかよ。」





円香と少女は受付のお姉さんの前で完璧な名乗りを披露し、2人とも無事にストラップを貰うことに成功した。




「……ま、無料配布のクオリティだな♪」


「うんうん……♪」


「微笑ましい目で見んじゃねえッ!///」




少女の瞳がまた赤くなった。




「で?コイツがシュガーってやつなのか?」


「うん♪♪」


「……んだよ。うっっれしそ〜な反応しやがって。」


「『シュガー・パティシエール』はね?最強最高の菓子職人なんだ♪」


「続けるのか


「黙って聞く!」


「へいへい……。」


「そんでシュガーは、みんなを笑顔にするお菓子を作るために、世界中の食材と戦うんだ!」


「おい待てなんだ『食材と戦う』って


「たま〜〜に悪い奴とも戦うよ?」


「『たまに』で良いのか……。」


「あとは……うん!」




円香は少女の両肩に手を置き、少女のグレーな瞳をまっすぐ見つめた。




「な、なんだよ


「Just feel it,don't think about it.」


「いやなんでカッコつけた!?」




『ご来場の皆様にお知らせです。本日のシュガー・パティシエールストラップは終了いたしました。』




「……え?もう終わっちまったのか?」


「それだけシュガーは人気ってことだよ。」


「ふ〜ん。コイツが、ねぇ……。」


「ちょっと外すね。」


「?」




円香が唐突に会話を打ち切って向かった先を少女が目で追うと、円香はしゃがんで小さな女の子と何か話しているようだった。




「……お待たせ♪」


「お、おう……。」




ものの1分程で円香は少女の元へ戻って来ると、




「……ストラップは?」




ついさっきまで大事そうに持っていた限定配布のストラップを円香は持っていなかった。




「あ〜…………、どっか落としちゃったみたい。」


「……。」




少女がさっき円香と話していた女の子の方をチラッと見ると、その子はシュガーのストラップを母親に見せびらかして喜んでいるようだった。




「ありがとー!お姉ちゃーーん!」




女の子が大きな声で円香を呼んでブンブンと手を振っているのを見て、円香はちょっと困った笑顔でヒラヒラと手を振り返した。




「……良いとこあんじゃん。」


「さあ、なんのこと?」


「……もう落とすんじゃねーぞ?」




少女は円香の胸元にシュガーのストラップを押し付けた。




「それはキミが持っててよ。」




円香は押し付けられたストラップを押し付け返した。




「良いのか?……こいつ目当てで来たんだろ。」


「いいの!ここはシュガーのファンに夢を与える場所だからね♪」




無理やり作った笑顔に反して悔しさで震える手が円香の内心を物語っていた。




「……変なやつ。」




呆れて悪態をつく少女の口元は緩んでいた。






「すみませんじゃねーんだよッ!!!」





ショーの時間が近づきざわついていた広間で、さっきストラップを受け取った受付から一際大きな怒号が聞こえてきた。




「おいおいなんなんだよ……。」




熱した鉄のように瞳を赤くした少女は、舌打ちをすると円香の横を通り過ぎた。




「ちょっと、キミ……!?」


「いっちょ前に心配してんじゃねー。……ドブに落とすような真似はしねーよ。」




少女はそのままズカズカと受付まで歩いていくと、




「おいそこのデッカいの!」


「……なんやテメー。」




受け付けで騒いでいた声の主は身長2メートルはあろうかという巨漢だった。




「ギャーギャー騒ぐのは赤ん坊で卒業しとけ。周りのお姉ちゃん達は静かに待ってんぞ?」




少女は親指をグッと突き立て、後ろを指した。




「……んん?」




巨漢は少女の指差した手からストラップがはみ出ているのを見つけると、みるみる表情が険しくなり青筋が何本も浮かび上がった。




「シュガーちゃんをそんな雑に扱いやがって……、価値もわからねえクソガキがイキってんじゃねえぞぉおッ!」




巨漢がパンプアップすると、シャツでも破けるように地球人のものだった外観の上半身が弾け飛んで中からタコやイカのような頭足類の触腕が4本、(あらわ)になった。




「マナーも悪くて露出狂とか、ほんっと終わってんな……。」


「ちょっと!?子どもがいるのに暴力沙汰はダメだよ!?」




円香が少女の肩を掴んで引き止めた。




「大丈夫大丈夫。アタシ、つえーから♪」


「舐めやがってぇ……ッ!!!!」




巨漢が3本の右腕で殴りかかってきた。




「へっ……。たこ焼きにしてやらぁッ!」



少女は左腕だけでボクシングのガードの形に構えると、構えた腕が熱した鉄のように赤く光り、片手用の盾状に変化した。




「……ッ!」




円香が衝撃に備えてギュッと目を瞑ると、どちらの悲鳴が聞こえるでもなく、大きい質量がぶつかる音だけがした。




「……、」




円香が恐る恐る目を開けると、




「……へ?」




巨漢と少女の間には、白とピンクを基調としたポップでスイートなショートドレス姿の女性が割って入り、巨漢の全ての拳を左手首から伸びた緑色に輝くブレードの刀身で受け止めていた。




「うそ……。」


「おめー、ストラップの……!?」




円香は言葉を失い、少女は右手に握っていたストラップと目の前の背中を見比べて女性の正体を悟った。




「なにぃ……ッ!?」




攻撃を受け止められ動揺する巨漢と対照的に、現れた女性は余裕たっぷりに目を瞑っていた。




「……、」




……かと思うと、顔を引き攣らせ




「……あっっっツァ!!??」




背中に触れた高熱から逃げるようにのけぞったまま飛び上がった。




「あ……やべ。」




少女は慌てて変形した左腕を戻すと、瞳の色もグレーに戻った。




「お、おいアンタ……っつーかシュガーか。背中、大丈夫か……?」


「シュガーは大丈夫だけど……、




少女が申し訳なさそうに声をかけると、女性は自分のことを『シュガー』と呼んだ。




「……背中、焦げてないわよね?」




女性は孫の手で背中でも掻くみたいに左手のブレードで自身の背中を指した。




「あ、ああ大丈夫だ。その、すまん……。」


「いーのよそんなの!でもさっすがシュガー、頑丈ね♪」


「へ、へ〜……。」




少女が突然現れたシュガーを名乗る女性にたじろいでいると、円香に高速で肩を叩かれていることに気づいて振り向いた。




「ししし、しゅ……、ほほ、ほん……も……!!」


「……おう。言いたいことはなんとなくわかったけどよぉ……、




少女は円香の反応でシュガーを名乗る女性が本物であることを察した。




「シュガー……っつったな。随分崇拝されてんなおい。」 




少女とシュガー以外は驚きやら感動やらで言葉を失っており、広間一体が静まり返っていた。




「神とかやってんのか?」


「シュガーはシュガーよ♪」


「へいへい……。」


「……へぇ〜?」




シュガーは少女がストラップを握っていることに気づくと、ニマニマと笑って




「崇拝してみる?」


「しねーよ。」


「そんなキッパリ断らなくても良いじゃない……。」




シュガーはその場にしゃがんで左手のブレードの(きっさき)を床の上でクルクル回した。




「あーもう、めんどくせーからさっさと退いてろ。その迷惑なデカブツ片付けてやっから……。」




少女は巨漢に向かって構えをとった。




「んだオメー?さっきからシュガーちゃんに失礼こきまくりやがって、成敗すんぞぉ!」




シュガーを目にして唖然としていた巨漢は少女への苛立ちを思い出して構えをとった。




「……んしょっと。」




シュガーが立ち上がって再び2人の間に立った。




「『喧嘩両成敗』、といきたいところだけど……、




シュガーは言葉を切って少女の方を向いて勝気な笑顔を見せた。




「アタシも成敗するってんなら2人まとめて相手にしたっていーんだぜ?」


「いーえ?アナタは良い子だから『み、の、が、し、て』あげるわ♪」


「はあっ!?」




シュガーはバッチバチのウインクをすると、




「……あ!ちょっと待った。」




手のひらを少女の前に突き出した。




「おいおいなんだよこの期に及んで……。」




シュガーはショーの舞台まで一気に跳躍して適切な位置に立つと、




「君にワンダーとってもスイート!最強最高の菓子職人……!『シュガー・パティシエール』!!」




シュガーは痛快な口上と決めポーズで広間のみんなにも見えるように名乗って見せた。




「「「「「ワアアア!!!!」」」」」




広間は空気が割れそうな歓声に包まれた。




「ほ、ほ、ほ、ほ……!!本、も……!!」




その頃、円香は涙と嗚咽でまともに言葉を発することができなくなっていた……。」




「……よっと。お待たせ♪」




シュガーは名乗りを終えると、少女と巨漢の間に戻ってきた。




「やっぱあれやるのな。」


「未練がましい?」


「……何言ってんだ?」


「ま、とりあえずそこのアナタ!」




シュガーは巨漢を指差した。




「欲しいものが手に入らないからって、癇癪起こして子どもたちの笑顔を奪うなんて許せないわ!」


「『子どもたち』……?シュガーはファンみんなを平等に扱うもんだろうが!!」


「ぉ〜、拗らせてらぁ……。」


「は……?」




シュガーから一瞬笑顔が消えた。




「アナタ何言ってるの?この世で1番尊いものは子どもたちの笑顔なの。子どもが笑ってない国に未来なんてないんだから……っ!」


「……、」




シュガーの言葉を受けて巨漢が黙り込んだ。




「お、説得できた……のか?」


「うるせぇぇええ!!こんなのシュガーじゃねえ!!解釈違いも、いいとこだぁあッ!!」




巨漢は怒り狂って左右の6本の腕全てに力を込めてシュガーに殴りかかった。




「おいっ!?危ね




少女がシュガーを守ろうと思考した時、




「でぇぇえやぁぁああッ!!!」

「ぐはあっ!?」




巨漢は既にシュガーのサマーソルトキックをもろに喰らい、風に吹かれた枯葉のように宙を待っていた。




「……『危ない』なんて、誰に言ってるのかしら?」




少女が巨漢から視線を戻すと、シュガーは巨漢の真下で大きめの傘程のサイズの絞り機を、傘を開くときみたいに右手で真上に掲げていた。




「いつの間に……!?」




シュガーの絞り機は熟したリンゴのような赤色と爽やかでネイビーなクリーム色の眩い光で輝きだした。




「『ホイップルバスタード』……ッ!」




照準を定めた絞り機からは2色の光が螺旋(らせん)を描き、極太のレーザーとなって真上にいる巨漢へと放たれた。




「いいッ!?」




広間の吹き抜けから見える空が薄桃色に染まると、宙を待っていた巨漢の姿は消えていた。




「……死なないように加減はしたわよ?」


「お……おう。」


「それじゃあねっ☆」




シュガーはバッチバチのウインクをして見せると、広間から走り去っていった。




「……そこは普通に走るんだな。」




少女は深く息を吐くと、辺りを見回して円香を探した。




「あれ?いねぇ……。参ったなあ。」




少女は途方に暮れてぼんやりと広間の向こうに見える1つ上の階を見上げると、人気(ひとけ)のない一角に颯爽と走るシュガーとその少し後ろを追走する円香の姿があった。




「なんで追いかけ回してんだよ怖っ……。」




少女は広間を後にし、エスカレーターで上の階へと登った。




「さ〜てと、なんでアタシこんなことしてんだろーな……。」




少女がフロアを歩き回っていると、非常階段の方から声が聞こえてきた。




「……あんなところに。」




少女が非常階段の踊り場にシュガーと円香を見つけ追いつくと、円香は持参していたありとあらゆるものをシュガーのサインまみれにして当の本人は泣きじゃくり、シュガーは嬉し恥ずかしと言った感じで困惑していた。




「…………。」




少女の金属質な瞳がブルーに変わった。




「おいおい、あんまり迷惑かけんなよな……?」



「アナタはさっきの……。」


「忘れるほどトリアタマじゃねーだろ?」


「ええ、円香ちゃんのお友だちね♪」


「『円香』……?」


「この子の名前、知らなかったの?」


「いや、なんでオメーが知ってんだ?」


「名乗っ……だ、がら……!」




円香が泣きじゃくりながら答えた。




「オメーはまず落ち着け?」


「そうだ!まだアナタには名乗っていなかったわね?」


「いやいいって




シュガーは少女から適切な距離を取ると、




「君にワンダーとってもスイート!最強最高の菓子職人……!『シュガー・パティシエール』!!」




シュガーは痛快な口上と決めポーズで名乗って見せた。




「うわあ"あ"、ありがどシュガあ"あ"〜!」

「……。」


「すっごい落差ね……。」




「別にアタシはアンタ

「シュガー。」


「アン

「シュガー。」


「ア

「シュガー。」


「だぁぁあもうわかったよ!アタシはシュガー・パティシエールのファンじゃねーんだよ、ぁぁあめんどくせえ!?」


「フフ♪じゃあ未来のファンの名前を聞いておこうかしら?」


「はぁ……。別に、名乗るほどのもんじゃあないさ。」




少女は踵を返して2人に背を向けた。




「円香……だったか?オメーとはここまでだ。また縁があったら、御茶混(おさま)高校で会えるかもなー!せいぜい2位を守っとけ。」




少女は手を振る代わりに、背中を向けたままコーヒーの丸いシミがついたパンフレットをヒラヒラと振ってそのまま何処かへと去っていった。




「変な子……。」




円香は立ち上がると、




「じゃあ、御茶混(おさま)高校で勝負しよーー!約束ねーー!」




手を振る代わりに、コーヒーの丸いシミがついたパンフレットをバサバサと振り回した。




〜〜





「……これが私とその子の出会い。と言っても、それから一度も会ってないんだけどね。」




円香は深く息を吐くと、弾みをつけて椅子から立ち上がった。




「ちょっと待ってて?」




円香はそそくさと玄関から外に出ると、1分程して慌ただしい足取りで食卓に戻ってきた。




「これがその時のパンフレット♪」




円香は2人に丸いコーヒーのシミがついたパンフレットを開いて見せた。




「まだ持っているんですね♪」


「これがあればまた会ったとき、きっと思い出してもらえるから……♪」




パンフレットについたシミを見下ろす円香の目は、淹れたてのコーヒーから立ち上る湯気のように柔らかく、温もりを帯びていた。




「大切な思い出なんですね♪」


「うん……♪」




円香が再び顔を上げると、さっきまでそこにいたキラビの姿が消えていた。




「……あれ、キラビは?」


「そういえば姿が……、




円香とシャンティが辺りを見回していると、玄関のドアが外から開けられる音がしてキラビが食卓に戻ってきた。




「ただいま♪」


「どこ行ってたの?」


「円香ちゃんのお部屋にお邪魔してた。」


「いつの間に


「この辺かなぁ?」




キラビが左手で優しく壁を撫でると、




『コンバットオペレーション2 ガン・ハイブ。』




キラビの左腕はリボルバーの銃弾を収納するシリンダーのような形状に変化した。




「「は?」」




「ハンドガン。」


「ちょちょちょちょぉぉお!?」




円香の叫び声を意にも介さず、キラビは淡々と等間隔で壁に少しめり込む程度の威力で弾丸を撃ち込んだ。




「仕上げの〜……、




キラビは一歩下がり腰を入れて左腕の銃口を構えると、




「ショットっ!」




景気の良い爆音が室内に轟き、壁にはちょうど人1人が屈まないで通れるくらいの大きさの穴が開通した。




「  」




キラビの背中越しに見える円香の部屋に、円香は言葉を失い、目の前の壁のように膝から崩れた。




「これでいちいちドアを開け閉めしなくていいね♪」


「ですね♪」


「私の……城……。」






背景、おばーちゃん。


春といえば出会いの季節。人と打ち解ける時に、『壁を壊す』という表現を使いますが……本当にぶち壊すのは違うと思うんです。

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