第442話ひみつのかいぎ
「さぁ皆さん――それでは会議を始めましょうか?」
僕は「パンッ」と手を叩く。
するとパッと照明が点灯して、サブカルチャー研究部秘密会議用円卓とちょっと雰囲気のある椅子セットが露になった。
錬金スキル上げのために東雲さんから贈られたのだが、なんか雰囲気があるコーディネートセットは実に素晴らしい一品だった。
ついついテンションが上がって、魔王城の一室に専用の部屋をこさえてしまったが、本日最大の目玉であるお披露目は、おおむね好評である。
「ふっ……好きだねぇ。ワタヌキ後輩。嫌いじゃないよ」
浦島先輩はニヒルに笑い、レイナさんはテンションを爆発させた。
「なんかいいですねこれ!」
「何でこんな部屋を作ったのかな?」
龍宮院先生は苦笑いで訊ねてきたけど、自然と肘をテーブルに置いて指を絡めて手を組んでいるあたり、楽しんではくれているみたいだった。
「万が一にも人に言わない方がいい話は、ここで話せば鉄壁かなって思うんですよね」
実際ダンジョン内のまだ人に言えないほど深い階層の話は、ここでするのが話しやすいだろう。
「いや……さすがにこんな階層に人を呼べないって」
「実質専用会議室ってところですね!」
「そうでござるなぁ……でも今まで作ったダンジョンの建物なら、どこでも大丈夫そうでござるよ?」
「コラコラ、桃山氏? それは言わない約束だろう? ……まぁその時の雰囲気で使っていくよ」
僕らは愉快に笑い、それでも秘密会議室はいいものだと頷く。
ではさっそく会議っぽい雰囲気の場所なので、近況報告でもすることにした。
「えーでは、何か気になることがある人いますか?」
僕はそう尋ねると、レイナさんの手が挙がった。
「はい! 大統領が空母を素手で粉砕する動画が公開されて鬼バズってます! 何か知ってますか?」
「……し、知らないよぅ? 最近の大統領ってパワフルなんだね……ほ、他には?」
すると今度は浦島先輩の手が挙がる。
「はい。なぜかファイアーボールヘッド関係のチャンネル登録者数が天文学的数字で跳ね上がったんだけど……何か心当たりは?」
「あー。ああー。うん……ワタヌキ後輩、ネットとか詳しくないからわかんないかなぁって」
とぼけると、今度は龍宮院先生が手を挙げた。
「はい。ワタヌキ君はYOUKAIだったのかな?」
「……グッ」
こいつはすでに当たりを付けられているようだ。
おかしいな? 行き当たりばったりで、国際交流しただけだっていうのに。
「相変わらずやらかしているでござるなぁ……ワタヌキ氏」
目を細めて、しみじみ呟く桃山君なんて最早確定事項として扱う始末である。
僕は、肩を落として頭を掻いてごまかした。
「いつもやらかしてるみたいに言わないでくれないかな?」
「いや、ニュース見て噴き出したのは初めてです! ワタシの朝食のミルクを返して欲しいですよ!」
レイナさんまでジト目だけど、アレはどちらかというとファインプレーだと思っていた。
「ある意味国際問題になりかけてたのを、回避したんじゃない? 死んじゃいそうだったんだから、テンガロンハットのおじさん」
「「「テンガロンハットのおじさん?」」」
「そうそう、友達になったんだけれどね?」
彼のあの時の恰好を知っているらしい、龍宮院先生だけが楽しそうに笑っていたが、おじさんと僕との間にはあの瞬間、確かな友情が存在した。
そして、一連の騒動は彼がその友情を示してくれた結果である。
もっとも、そのせいで映画のような映像がノンフィクションで誕生してしまったわけだが……それもまた遠く海の彼方からやって来た友人に対する友情ゆえの不可抗力だと言わせていただきたい。
つまりこの話は、これでおしまいだった。
「そ、それよりもだよ? もっとまじめな話なんてどうだろう? 例えばそう……最近のダンジョン攻略の進捗についてとか」
慌てて僕はそれっぽいことをやろうと用意していた動画を再生した。
部屋が暗くなり、映し出された映像は、新兵器を手に入れたとあるパーティのものだった。
「注目は彼女達だね。でも……少し思っていたのと違う」
僕はミアさんたちが機動甲冑を手に入れれば、あっという間に攻略も進むだろうと考えていたが、そう簡単なことではなかったらしい。
映像では明らかに前の階層よりも苦戦している様子がうかがえた。
僕は苦々しい表情を浮かべて、映像を終了した。
「手こずるね……やっぱりトラップがしんどいみたい。この階層狭い通路も多いしねぇ」
僕はむむむと眉間に皺を寄せたが、他にも不服そうな面子はいた。
「ミアは器用なんですが……カバーしきれないかもですね。あそこは毒もえげつないです」
「ゴーレムは相性は良いんだけどねぇ」
嘆く僕とレイナさんにそれはそうだよと補足してくる声もあった。
「雑に進まない彼女達はよくやっているよ。他のダンジョンじゃ文明のある階層を発見したら、特に警戒して進まないといけないのはセオリーだ。滅多に遭遇できるものではないけどね」
言われてみれば確かに、薬品だの密室だの殺意の高いトラップが多い印象だった。
あの階層でおすすめされた高速レベリングなんて、まるでガス室みたいな部屋にモンスターを集めて一網打尽にした記憶があった。
「戦闘能力の問題ではないんでござるなぁ」
桃山君はあまり長居しなかったこともあって、ヒエっと怯える声を出していたが、ある意味では当然である。
だが安心して欲しい。用意してきた話題は、景気の悪い話だけでもなかった。
ミアさんたちが苦戦している一方で、すごい勢いで進んでいるパーティもいて、僕はせっかくなのでそのパーティについても紹介しておくことにした。
「でも30階層まで来て、好調なパーティもいるんだ」
「そうなの? 生徒会?」
興味津々の浦島先輩に僕はそうではないですと否定した。
「うちのクラスの草薙君のパーティですよ」
「え? 一年生が? それはすごいなぁ」
返ってきたのは純粋な驚きの声だった。
そしてレイナさんの好奇心から質問を投げてきた。
「どうやったんですか?」
だがこの質問には、僕は若干後ろめたさを感じつつ答えた。
「……意外と、トラップレーダーが大活躍です」
「「「「あー……」」」」
「みんなして声揃えるのやめてよ! 試しに作った試供品のつもりだったんだけどさ……」
ひょっとしてできるかも? そう思って開発してみたアイテムだったのだがこれが極めて有効だった。
ダンジョンを綺麗に見通せるレーダーは、未知の階層の安全なルートまでも導き出せている。
ハバキリ君に渡したら、これがうまくかみ合って、そこからの活躍は破竹の勢いだった。
こちらも映像を出してみると、効率的にトラップを排除して進む草薙君達は、精霊達の力も駆使して危なげなくダンジョンを突破していた。
「やっぱり有効そうだなぁ……」
「ちょっと複雑な心境です。このレーダーを1個でいいんで機動甲冑に内蔵してあげられないですかね?」
「これは革新的すぎない? 量産してばらまいた方がいいんじゃないかなぁ?」
「大丈夫でござるかね? 便利すぎて喧嘩になるんじゃないでござろうか?」
「テストは誰がやってもいいんだけどねー」
思い思いの感想が返って来るけど、量産ともなるともう少し内容にこだわりたいところである。
攻略君、そして僕もちょっといい仕事してしまったものだった。
僕らは「ふぅ」と一息ついて、椅子に座り直した。
「まぁ、どちらにしても様子見ですね。では本日の軽いニュースはこんなもんでいいでしょう……」
真面目な話を終え、僕は再び照明を点灯させた。
さて続いての議題はお楽しみ、今期のアニメの注目作についてだった。




