第436話ゴリラの精霊
これで下準備は整った。
そしてここからは多少のアドリブも求められる非常に繊細なところだった。
ハイエルフと呼ばれる初期モンスターは、普通のエルフよりも更に精霊に近しい性質を持ったモンスターだ。
半実体の身体に、エルフ以上の魔力を秘めた魔法使いタイプのモンスターだが、最も厄介なのは周囲のノラ精霊を使役し、手足のように操るその特性にある。
だが、その攻略方法はもちろん準備済みだった。
「では始めましょう。まずベルトの星部分を回してください」
「ベルトの星? ……おお! これは回るのか!」
スイッチを押すとチャンピオンベルトの星部分が回って、ギュインと何やらかっこいい電子音が鳴り響く。
このギミックが、中に入れた精霊を憑依させる合図だ。
これで手っ取り早くレベルをごまかせるのはすでに検証済みである。
「こ、これは……!」
ドンとテンガロンハットおじさんの筋肉が一回りパンプアップし血管が浮き立った。
その背後にはうっすらとゴリラの幻影がダブって重なった。
「うおおおおお! なんということだ! 力が、力が溢れるぞ!」
「準備完了! サポートします! 躊躇わずに――一気に決めてください!」
「うむ! 頼んだぞ!」
僕はすぐさま空間魔法で周囲の精霊を片っ端から遠くに飛ばした。
精霊さえいなくなれば、ハイエルフの力は大幅に減少する。
更に自前のテイムモンスターの力を借りて、ピンポイントで強力な重力場を形成し、ハイエルフをその場に釘付けにした。
レベルは高いが魔法使いに特化したモンスターだ、接近戦に持ち込めば大した力はない。
もちろん今のテンガロンハットおじさんなら、十分制圧できるのは間違いなかった。
「カアアアアア!」
慌てたハイエルフは自前の魔力で風の魔法を放ってきたが、いかにも苦し紛れだった。
迫る魔法にもテンガロンハットおじさんはひるまずに前に出た。
「甘いわ!」
おじさんがそのまま突っ込むと、剛腕が風を引き裂き、魔力で大きくかき回す。
「!」
ハイエルフは迫るおじさんを止められない。
気がつけば、なすすべもなく顔面を掴まれて、そのまま引きずり倒されていた。
「おお! パワフル!」
「当然だ! これは――最高だな!」
「今です! 果実をハイエルフの口の中にねじ込んで! 映像を見るのを忘れないで! イメージ大事!」
「お、おう! 任せろ!」
ねじ伏せたハイエルフに果実を食べさせることに成功すれば、テイムは完了したようなものだった。
果実を食べたハイエルフの顔が蕩けて好感度が上昇。
テンガロンハットおじさんとのパスが繋がる。
そしてその瞬間こそが――本当の勝負だった。
僕は手に汗握って、その瞬間を見守った。
「……っ!」
テンガロンハットおじさんは、映像をガン見してイメージをより強く明確化する。
激しく光り輝いたハイエルフが再びその姿を現すと、僕は頭の中で「ボン!キュッ!ボン!」という音さえ鳴り響いた気がした。
「おおっ……アメリカンドリーム」
「オーマイゴッド! これが――!」
感嘆のため息とともに彼女はこの世界にその姿を現した。
プラチナブロンドのナイスバディなハイエルフが爆誕した瞬間を僕は確かにこの目に焼き付けた。
その光景を共有した僕らは、しばし熱い視線をかわし合う。
「……」
「……」
多くは語るまい。
ガシッと熱く握手して、そのまま力強くハグ。
テンガロンハットおじさんの握力は、まさにゴリラのように力強かった。




