第435話ハイエルフをゲットしよう
やって来た55階層は、ハイエルフの生息している狩場だ。
攻略君のナビに従い、まずはセーフルームを見つけて拠点を作った僕らはさっそく準備に取り掛かった。
僕はテンガロンハットおじさんをセーフルームに残し、必要な物を回収してくる。
そして準備を終えて戻ってくると、ハイエルフを仲間にするための解説を始めた。
「ハイエルフは、エルフよりもさらに精霊寄りのモンスターです。だから『エルフだんご』じゃ仲間になりません」
「ほう……ではどうする?」
「簡単な話ですとも。ハイエルフに合った専用の好物を与えればいいだけです。この光の果実をね」
アイテムボックスから取り出したのは、まばゆく光るリンゴのような果実だ。
この階層の湖のほとりでのみ採集できる果実は、豊富な魔力が含まれるハイエルフまっしぐらの一品だった。
「おぉ……美しい果実だ! これを食べさせればいいのかね?」
「そう。でも今回一番の問題はモンスターは食べさせた相手にテイムされるってことです。つまり、あなたがテイムするのなら、最後のところはあなた自身がやらなきゃいけない訳です」
「まぁ、当然だな……」
「そこで――とっておきのアイテムをもう一つ用意します」
解説しながら、僕は手早く地面に魔法陣を描いた。
そこに先ほど捕まえた瀕死のゴリラ型モンスターとその辺りで適当に捕まえてきた精霊を三体、その中に配置した。
更に各種金属を放り込み、僕は魔力を流し込む。
「……何かの魔術か?」
「こいつらの力をいただくんです。アクセサリーにしますけど、デザインにご希望は?」
そう尋ねるとテンガロンハットおじさんはしばし悩み、少し大きめの声でリクエストした。
「ベルトだな! チャンピオンベルトみたいなやつがいい! ゴールドで、真ん中にでっかい星があるやつなら最高だ!」
「いいですね! では錬金術師の妙技をお見せいたしましょう!」
僕は興が乗ってきて、魔法陣の力も借りつつ素材を魔法で纏めてゆく。
錬金釜も錬金工房もないが、攻略君の補助と、最近練りに練り上げた錬金スキルがあればこの通り――。
ボボンと煙が上がり、見事なチャンピオンベルトは瞬く間に僕の手の中に収まった。
「できたー」
「おお! 君は魔法使いか!」
「どうでしょう? よくダンジョンの妖怪とは呼ばれますね」
「Oh! YOUKAI!」
「ではこれを腰に身に付けて」
「こ、こうか?」
テンガロンハットおじさんの立派なお腹に星の輝くチャンピオンベルトが光る。
かなり強力なバフもつけているが、この装備の肝はその程度の話ではない。
素敵なベルトを付けたテンガロンハットおじさんは、まんざらでもなさそうだが、彼にも懸念があるようだった。
「これで準備は完了か? しかし……上の階層でエルフをテイムした時は食べさせただけでは……なんというか、違ったんだが?」
言い淀むテンガロンハットおじさんの言わんとせんことは僕にも理解できた。
だから僕は早まるなと彼を制止して、大切な部分を解説した。
「ああ、それは、きちんと明確に理想の姿を思い浮かべられていなかったんですよ」
「そうか? 理想はあったと思うんだが。……ダメだったぞ?」
テンガロンハットおじさんは、護衛の方々もエルフ愛はあったはずだと主張していたが、おそらく実際それは間違っていない。
しかしエルフの外観を後で変えるというのは、いわば裏技のようなもので、この場合の思い描き方はもっと詳細なものなのだ。
「いやいや、いいですか? イラストを描く時プロでも資料を確認するんです。必要なのはその瞬間により明確な像が頭にあること……つまり資料があればいいんです」
「なるほど? 目で見て補えばいいわけだ。しかし……残念だが理想のエルフの資料なんて手元にないが……」
心底ガッカリした様子でテンガロンハットのおじさんは「じゃあ今回はダメだ」と肩を落とす。
僕は自分のエルフ資料から提供しようかとも考えたが、理想は彼の中にこそあるものだと思い直した。
ここまでついて来てくれたわけだし、僕としてはどうせなら最高の結果を残してあげたかった。
「!」
そこでちょっと閃いてしまった。
僕はダメ元で頭の中で攻略君にアイデアを提案する。すると彼は盛大に呆れていた。
『……本気で言ってる?……まぁやりたいというのなら協力するが』
ありがとう! マジ感謝!
心で歓声を上げつつ、僕はアイテムボックスからクロッキー帳とペンを取り出すと、攻略君による禁忌を敢えて犯した。
それすなわち、内面の読み取りである。
僕はテンガロンハットのおじさんの顔をじっと見ながら、指示を出した。
「では、せっかくなので僕がどうにかしましょう。……いいですか? 今、ぼんやりとでもいいので理想のエルフを思い浮かべてください」
「うむ……一つ質問だ。理想の美女のイメージも混ぜていいかな?」
「もちろん。だけど、エルフの特徴は出ますから、ハイブリッドになります」
「望むところだ。大事なところだよ」
その点はブレてないようで結構。
ではもう一つ、新技も披露しよう。
僕は攻略君に体を明け渡した。
意識が薄れると、攻略君は僕の身体を使って、猛烈な勢いでテンガロンハットおじさんの理想のエルフ像を描き出す。
精密機械のように無駄なく正確に動く腕は、攻略君メインゆえの芸当で、ペン先が霞んで見えなかった。
「……」
最後にジュバッとペンが走り、僕の意識は戻った。
僕は出来上がったイラストを確認して、計画通りとにやりと笑う。
そして描き終わったイラストをおじさんに見せると、彼は目を見開いて、手を叩いて大喜びした。
「! まさに! 君は絵描きだったのか! ブラボー!」
「フフフッ。どーもどーも」
かつてなく権能の力を存分に使ってしまった。
攻略君のなんとも言えない気分は伝わって来たけど、めちゃくちゃ大事なところゆえに、大変助かった。
そして、今回の作戦の手順をイラストを見せながらテンガロンハットのおじさんに伝えると、彼はやはり少し不安そうな表情になった。
「よし、これで準備は完了です」
「うーむ」
僕らはさっそくハイエルフの生息地にまっすぐ向かった。
「……なんだか空気が重くなってきた気がする」
「そうです。そろそろ来る」
濃密な魔力漂う森の中、そいつは聳え立つ神秘的な大樹の側に立っていた。
周囲にはうっすらと霧が立ち込め、無数の精霊の気配を感じる。
そしてやはりハイエルフは、幽鬼のように生気のない青白い顔で宙に浮かぶ、エルフ風モンスターだった。
そいつを指差し、こちらを見るテンガロンハットおじさんの表情はちょっと泣きそうなほど切ない。
「……」
「大丈夫ですから! 心折れないで!」
だが最初はモンスターなんてこんなものだ。しかしそれはこの一手で覆る。
「では……行きます」
僕は手を大きく広げて魔法を唱えると、空中に幻影が現れた。
それは、テンガロンハットおじさんの内面イメージを具現化した『推しエルフ』の映像だった。
彼のために用意した完璧な参考資料はボン、キュ、ボンのアメリカンドリームをふんだんに詰め込んだ、プラチナブロンドの秘書エルフである。
かなりセクシーに仕上がったイラストは確実に妄想の具現物である。
「イメージするのは常に最強の『推しエルフ』です!」
「……」
いつでも確認できるほど巨大な映像を見た彼の表情はさすがに照れ顔で、なおかつ心配そうに曇っていく。
「そこ恥ずかしがらない! 一番大事なところですよ!」
「う、うむ!」
そう、ここが正念場だ。
恥じらいを捨てねば、いい創作など生まれようがない。
これはまず最初に克服すべきクリエイターの鉄則だった。




