第429話クイーンの変貌
「すごー……あのスライム倒したのか」
僕は教室で、日課になっている踏破階層のお知らせを眺めて、感嘆のため息を漏らした。
個人的にあのスライムは凶悪さなら1位、2位を争うモンスターだと思うが、ミアさん達は無事突破できたようだ。
「相性も良かったかな?」
おそらくミアさんの魔法が大活躍したことは間違いないと思う。
僕の機動甲冑同様に、ミアさんのそれにも魔力のサポート機能があった。
持久戦になれば大きな助けになるはずだった。
しかし次は廃工場の階層か。
僕は毒物とトラップ溢れるエリアを思い浮かべて鼻をつまみたくなってきた。
傾向としてはゴーレムとの相性はいいのだが、あの階層のトラップは人間に対して極悪なものが多い。
その点が心配ではあるが、探索者的にはお祭り騒ぎにもなる非常に大きな成果なのは間違いなかった。
「すごいわね。ミアさんたち新しい装備のテストをするって潜っていったらすぐこれよ。やっぱり私達が足を引っ張っていたってことなのかも」
ごく自然に話しかけてきたのは月読さん……だと思ったんだけれど、そこには予想と少し違う人が立っていた。
少しふくよかな女性――いや違う! 予測は外れていない!
立っていた面影は間違いなく知り合いのクラスメイトのはずだった。
「月……読さん?」
「なに?」
「なんか……少し印象変わった?」
ノンデリとそしられても不思議ではない問いかけである。
しかし頭によぎった嫌な予感が、緊急性を感じて僕にその質問を投げさせた。
「……そうかしら? 自分ではわからないけれど?」
「……」
そんな風に言いつつも、そっと視線を逸らした辺り、月読さんも確実に自覚があると確信した。
一体何があったのか?
様々な予測が頭の中に浮かんでは消えていくが、最有力の原因に思い至って、僕は思い切り顔色を青くした。
「……ピザ好き?」
そして核心を尋ねる。
月読さんはいよいよ首を反対方向へそむけたが、多めの冷汗が真実を物語る。
「……どのくらいの頻度で食べてる?」
立て続けに質問。
月読さんはしばし沈黙したが、観念して答えた。
「ま、毎日……」
「毎日ぃ!?」
「で、でも! ダンジョン産の素材をふんだんに使ったやつで! 探索の時にバフを付けるためなの! いろんな具材を乗せられる調理法は理に適っていると思わない!?」
「探索のたびにぃ!?」
「……はい」
言えば言うほど無駄だと悟った月読さんはシュンと肩を落とした。
それはさすがに、カロリーの取りすぎにも限度がある。
しかもダンジョン素材は、普通の食材よりも含まれているエネルギーが地上産の比ではない。
それは浦島先輩の体格の変動で証明されていた。
なによりピザを勧めたのは僕だ。
妙な罪悪感が沸き上がって来て、僕は余計なお世話と思いつつも、助言をせずにはいられなかった。
「ダンジョンの素材は……カロリーが高いから、ほどほどにしておいた方がいいよ? というかピザがそもそもヘビーだし」
「し、仕方がないんじゃないかしら? だって……おいしいものが体に悪いわけないと思うの……」
「……」
「な、なに、その目は?」
「いや……食欲って全人類共通に備わってるんだなって」
「当たり前じゃない。……私をなんだと思っているの?」
「え? ピザ中毒者?」
「ち、違うから! ちょっとはまっているだけだから!」
本当にちょっとならいいんだけど……なんだろう、とても不安な気持ちになる。
だから僕は悩んだが、少し思い切った提案をした。
「……どうだろう? おすすめのジムがあるんだけど、興味あったりする?」
「……ジム?」
月読さんは困惑して首を傾げていたが、いたって真面目な提案だった。
僕には一つだけ、かなり本格的なジムに心当たりがある。
しかもそれは、本当に魔法のジムになっている可能性すらあった。
「まぁ、精霊ガチャを案内する約束のついでに、紹介しようかなって思っているんだけど」
「行くわ!」
ここでかぶせ気味に即答する月読さんにまた別種のやらかしで不安になったが、約束を果たすいい機会にはなりそうだった。




