第428話ミア、壊れる
「あはははは! 何あんたたち! こんなの使ってたの!? 馬鹿げてるわ!」
ミアの最高にご機嫌な笑い声に、コールとブロックは力強く同意していた。
「そうだろう! こいつらと一緒ならいくらでも戦えそうだ!」
「だがコール! 今のやり方は良くないぜ! 毎度パーティーが盛り上がりすぎて、客が多くて仕方がない!」
「そりゃ仕方がないぜブロック! ミアのウェルカムパーティーだ! 盛大にやらんと後でいじけっちまうからな!」
「ぼんくら共! 馬鹿なこと言ってないで一気に蹴散らすよ!」
「「アイアイボス!」」
ジャングルの中を進むゴーレムの甲冑が3機、大型の象型モンスターを銃撃魔法で蹴散らし、突き進む。
重々しい足音を響かせ、先行するのはコールとブロックの機体だった。
そして――ミアが購入した一体は機動力を重視した最新型らしい。
「なんかミアの機体シュッとしてるよな……チャーミングだ。どう思う? ブロック?」
「少し女性っぽいか? 猫耳と尻尾がベリーキュートだ。うーむ……こだわりを感じるな」
「何のこだわりよ? まぁ? 私の相棒の方がフットワークは軽そうね」
その性能は、実際に使ってみれば良いものだということはすぐにわかった。
もちろん、最初その猫耳と尻尾付きの機体を勧められたミアは、極めて困惑した。
そして実際に手元にやって来た機体を目にしたミアは、思考が1分くらい完全にフリーズしていただろう。
受け取りの時のことを思い出したのか、コールはもう何度目かわからない笑い声を響かせていた。
「あの時のミアの顔は傑作だった! でもようやく受け入れられたみたいだな!」
「……まだ特注品だから納得できた感じはあるね」
というかミアからしてみたら、こうまで簡単に搭乗型の二足歩行ロボットを受け入れられる二人の方がどうかしていた。
しかしコールとブロックからすると、ミアの方が融通が利かないと思われているのは彼女もぼんやりと感じていた。
「ガチャより、金出したから納得感があるって? ミアってこっち来てからずっと思ってたが、頭硬いなぁ。スパイとか根本的に向いてないっていうか……」
「う、うるさいわね! 別に私らスパイとかじゃないでしょ!?」
「まぁそりゃそうだな。面識があるから探りを入れてみろと頼まれた留学生だろうさ。でもまさか巨大ロボットが飛び出すとはたまげた」
「全くだぜコール。肝心のファイアーボールヘッドにはまだ会えてないがな。ミアは、レイナに話を聞きに行ったんだろう? どうだった?」
「……」
助言をもらうきっかけを知っているブロックは、声だけでもニヤニヤしているとわかる不愉快なニュアンスで尋ねてくる。
普通に不愉快だったが、ミアは正直に答えた。
「……会えなかった」
「そうか。会う方法なんかは?」
「……聞かなかった」
「何でだよ! 聞けよ!」
すぐさま飛んできたツッコミにミアは声を荒げた。
「い、いろいろあるの! そもそもファイアーボールヘッドは目立っていただけで、重要なのは彼そのものじゃないでしょう!? あのパイルバンカーやら、バックパックの出所は、この機動甲冑? を見たら明白じゃないの!」
明らかに共通の技術が使われているこの東雲式機動甲冑や、銃型の魔法杖が、エキスポの時点でのファイアーボールヘッドの秘密の一端であることは間違いない。
まさに知りたかった、革新的な情報の実物と、生産可能な技術者にまでたどり着いた今、ファイアーボールヘッドを探す必要性は、下がったと言えるかもしれない。
「……そりゃあ結果論ってやつだぜ、ミア」
だけど呆れたブロックの声にミアは口ごもった。
「……ぐぅ。一から十までレイナに教えを乞うとかありえないでしょ? だいたいレイナが知ってることなら、私らが後追いで深堀する必要ないじゃん」
「……まぁなぁ。だけどレイナは、普通にこの国に興味があって留学してきたわけだろ? 完全にプライベートだ。俺達みたいに金出してもらって送り込まれたわけじゃないんだから、最高の発見をしたって、黙ってんじゃないか?」
俺ならそうすると言わんばかりのコールはどうかと思う。
だが確かにレイナについてはその通りで、何か大きな転機があったとしても、それを公開するかはわからない。
ミアだって、完全に無視するつもりなわけではなかった。
「定期的にレポートは送ってる。でもさ? ……何が何でも革新的な発見してやろうなんて仕事熱心なわけでもないでしょ? 」
だがうんざりとした表情を隠しもせずにそう言いきったミアに、コールとブロックの驚きの視線が突き刺さった。
「……なによ?」
「……なんか意外だ」
「……そういうの、ミアはストイックだと思ってたよ」
「そう? それこそ急に振られたスパイの真似事なんて程々でいいでしょ。私達は探索者なんだから、未知の知識は潜って、探って、持ち帰ってこそ最先端ってもんじゃない」
ミアはそれこそが探索者だと語る。
するとコールは楽しそうに口笛を吹き、ブロックはいいね! と豪快な笑い声を響かせた。
「そうだな! 間違いないぜ。俺達こそが最先端であるべきだ! 宝物がそこにあるなら世界の果てまでだっていくわな!」
「はっは! そいつは間違いない!」
「でも……私も頭が固かったのは反省したわ。あんたたちを見習う。ゆくゆくは50階層に潜る用事もできたしね」
「「マジかミア!?」」
「……なんで驚くの? 私も昨日までは無茶だと思っていたけど、この子に乗って意見が変わったわ。私達も思い切っていきましょう。捨てるべきは常識の方だわ」
うっかりレイナの言っていたようなセリフを口にしてしまって、ミアは複雑に口の端をグニャリとゆがめた。
確かにレイナに従い、二人に助言を求めて手に入れた機体は常識を木っ端みじんに打ち砕く楔になった。
階層にしても、ここから先は常識的に考えれば引き返さなければならないラインを越えていた。
様子見をしてきた、コールとブロックの話では、今から挑む30階層の守護者は物理攻撃の一切効かないスライムのようなモンスターで、最高に極悪らしい。
だが二の足を踏む暇なんてなく、敵とミアとの相性は悪くなかった。




