第423話ダンジョン最大の脅威
その日、カフェには浦島先輩と八坂生徒会長、そして龍宮院先生がいて、三人で楽しくお茶をしていた。
カフェではすっかりお馴染みの光景で、僕も結構な頻度で遭遇する。
この学校の近所にまともなカフェなどない。
知ってさえいれば、ちょっと寄るには中々いい場所だというのは僕も同感だった。
僕は本を読みつつ、コーヒーを注文し、香りとジュークボックスから静かに流れるアニソンのジャズアレンジを楽しんでいた。
だが――店内に客は少ない。
自然と三人の話している内容も聞こえてきて、それは僕にしても気になる話題だった。
「カフェもお馴染みになってきたけど、そろそろ私達の貸し切りじゃなくなる日も近いのかなぁ。生徒会の攻略は順調?」
浦島先輩が振った話題に、八坂生徒会長はいいやと眉をハの字にして首を横に振っていた。
「いや。レベルは上がってきたがそれだけだ。ペースは上がっていないな」
「え? なんで?」
「あー……私はわかるなぁ」
浦島先輩はわかっていなかったが、龍宮院先生はすぐに原因に思い当たったようで、苦笑いを浮かべていた。
「お? 先生、じゃあなんだと思います?」
「いや。結局一番時間を食うのは罠なんだろうと思う。矢が飛んでくるような物理的なものもだけど、毒やら呪いやら魔法系の罠も厄介だ。どんどん階層は広くなるし、定期的にリセットされて、せっかく調べてもやり直しだ。下に潜れば潜るほど罠はどんどん凶悪になるときてる……」
モンスターにいくら勝てようとも、油断すればすぐ死んじゃうと。
自分も手こずった経験がフラッシュバックするのか、龍宮院先生の顔は苦悶にゆがみ、八坂生徒会長も何も言わずに頷く。
ただ浦島先輩は、僕と一緒に一気に下って来たせいで、その感覚が薄れていたみたいだった。
「そんなにでしたっけ? ……いや、そういえば苦労してたかも。治療は、モンスターと戦うよりもトラップがらみが多かった気がしていたような。罠の解除もよくやっていたような……」
「兼任されがちだなぁ。魔法使い系のジョブは魔力の感覚に敏感だから、索敵が得意なんだよな。注意深く観察すればだいたい見破る」
「アレさー、なんでシーフ系のジョブって少ないの? 探索なんかは魔法使いより得意なんでしょ?」
「まぁそれは……分かるだろう? トラップを最初に見つけなきゃいけないから危険なんだよ。モンスターから身も守りにくいし……他に適性があるならそっちを選んでしまうんだ。索敵自体は魔法使いでもやれるなら、そっちの方が選ばれがちなのさ」
「……せちがれー」
「こういうのは人気が偏るものだよ。実際今まではそれで問題なかったんだ。10階層までのトラップは控えめだしな。ほとんどの生徒は鉄巨人にも挑まない」
「……そりゃそうだね」
「そういうこと。誰だって、自分のことを決める時は我を通すものさ」
「なるほどねぇ」
僕はそんな話を聞きながら、罠は怖いよなとコーヒーを啜ると、苦さが先に立つ。
こればっかりはいかにレベルが高くても死にかねない危険が潜んでいる。
だが深く進めば進むほど、専門的なスキルも求められる局面は出てくるだろうし、実に悩ましい問題である。
「うーん……まだ思ったようにはいかないか」
『なかなか手がかかる……』
僕の頭の中で攻略君はぼやくけれども、僕も罠に突っ込むのはとても怖いと実感する所である。
何か、罠をサーチできるようなスキルを疑似再現できるアイテムでもあればいいのだろうか?
例えばこう――レーダーのようなアイテムがあれば便利そうだと僕はぼんやり想像した。
誰もが攻略君が頭にいるわけじゃない。
あそこまでの精度は厳しいと思うが、劣化版でもあればさぞ便利だろう―――。
それはブレイクタイムに纏めた他愛ないアイディアだった。
しかし僕の頭の中にはそういうものを瞬時に纏めて、実現可能なものに落とし込んでくれる相棒がいた。
『できるよ。やろうか?』
「……マジですか?」
だが実現可能だと断言されると、僕は目の前に新たなクエストを突き付けられたような気分になった。
うーん、この発想は新たなヒット商品の予感。
形はどんな形がいいかな? なんてちょっと早すぎることを考えていた僕は、もうちょっと楽しくなってきていた。




