第421話常識が崩壊する
「……」
ミアは、最近罅だらけだった常識が音を立てて崩壊していくのを感じていた。
「ヒャッハー! どけどけ! モンスター共!」
赤い機体がショットガンをぶっ放し、人間サイズのアリの群れを片っ端から吹き飛ばしてゆく。
「モンスターの数自体がトラップだ」と言わしめる物量をものともせず、突き進む姿はあまりにも力強い。
そして、アーム部分を接近戦用に改造した青い機体は豪快にサイのようなモンスターの突進を正面から受け止めた上で、振り回すようにねじ伏せていた。
「ハッハー! これだよ! これ! 圧倒的なパワー! コソコソ隠れて進むのは性に合わなかったんだ!」
ご機嫌で叫ぶブロックの言葉は、妙に熱がこもっていた。
実際鬱屈としたものはあったのだろう。
モンスターは人間よりも強い、そのモンスターをこうまで圧倒できれば気持ちがいいはずである。
そして本来であれば、モンスターとの遭遇が極端に多い層は、可能な限り遭遇を抑えるように行動するのがセオリーだ。
だが、謎のロボットに乗るコールとブロックは、あまりにもあっさりと、襲撃してくるモンスターをすべて撃退していた。
ミアの役目など一切ないほどに、圧倒的にだ。
つい数日前まで最も身近だった相手が、まったく別の怪物にでもなってしまったかのような違いに、完全にミアは言葉を失う。
「な、なにこれ……」
本当に訳が分からなかった。
そしてこの日、驚くべき快進撃を続けた3人は階層の踏破記録を大きく塗り替えることになった。
とある日のお昼時、サブカルチャー研究部の部室では、平和な時間に浸る部員たちが集まっていた。
「いやー……部活に入った光と闇を最近すごく感じています」
「そうなの?」
せっせとパソコンに向かっていた僕はレイナさんの言葉に反応して聞き返す。
するとちょっとお疲れ声のレイナさんはやってしまった過去を思い返して頷いた。
「はい。優勝してしまいましたからねー……。色んな部活から、スカウトがひっきりなしなのです」
「あー」
レイナさんは舞闘祭で、最後まで戦ったんだっけ。
彼女が力を振るえば当然、生徒達はその余波だけで軽々と吹き飛んでいた。
となれば、誰もがレイナさんの圧倒的な実力と、現在の所属を知ることになる。
なら是非お近づきになりたいと考えるのは、皆同じだったらしい。
「でもそんな時の必殺技があります。『もう部に所属していますから無理です!』これでだいたい丸く収まるのですが……」
「……それでもスカウトが止まないのは、生徒会じゃないからだねぇー。サブカルチャー研究会なら、ワンチャンあるって思えるんだろうなぁ」
「おそらくそのとーりデス……」
レイナさんはフーっと息をついて珈琲をすする。
だが部室のセーフハウスとしての機能は抜群だ。
せっかく確保した部室なんだから、そこは思う存分有効に活用してほしい。
「……そうなんだよ。この部室本当にいい避難場所だよね」
そしてもう一人、有効に使いすぎている龍宮院先生が同意した。
龍宮院先生とレイナさんの知名度の高い二人は、サンドイッチなどつまみつつ、ランチタイムを楽しんでいた。
基本的にマッタリしている。
格闘ゲームにまで興じていて、間違いなく気の緩んだひと時だったと思う。
この空間に入るためには相応の用事が必要であり、そうやすやすとは踏み入れない。
だが今日は、その相応の用事がある人間がいたらしい。
人の気配が外からこちらに近づいてきていることに気が付いて、スッと背筋が伸びるあたり、この二人はちゃんとしている感じだった。
そして数秒後、扉は開かれた。
「……失礼するわ」
立っていた人物は僕にしてみると意外だったが、レイナさんからすると彼女の来訪は予想通りといった様子だった。
「ミア――そろそろだと思ってましたけど、やっと来ましたね」
俯き、なぜか少しだけ体を震わせたミアさんは顔を上げると真っすぐにレイナさんを見た。
「……レイナ。なにも言わずに私と戦って」
「いいですよ」
「え? ……いいの?」
「もちろんです! その代わり――敗北は覚悟してくださいね?」
即答したレイナさんは、いつの間にか実に楽しそうな、それでいて鳥肌が立つほど好戦的な笑みを浮かべていた。




