第417話納品しよう
「まぁ……すべては今更な話なんだけどね」
僕は調整中の量産型東雲式機動甲冑を眺めながらしみじみ呟いた。
受け取り手不在の独り言のはずだったが、僕のセリフに返事が返って来た。
「何か言いましたか?」
「いいえ? 何も?」
作業中にもかかわらず、しっかり呟きを聞きつけた東雲さんに、僕は慌てて返事をした。
もはや気にする段階は過ぎていた。
動画も広まっちゃったし。
派手に宣伝もしてしまった以上、躊躇っている暇はない。
そして僕以上に、大変になる予定の同級生もやる気満々のはずだが、東雲さんは少し様子がおかしかった。
「あのー……「東雲式機動甲冑」って名前、本当に正式名称にしちゃって大丈夫だったんですか?」
東雲さんは恐々そう尋ねてきた。
彼女は本当に名前を気にするよね。
東雲さんはその点に申し訳なさを感じているみたいだったが、そもそも今回の発端は東雲さんだったんだから名前については胸を張ってもらいたい。
「大丈夫大丈夫。そっちの方がかっこいいし。それより、僕の宣伝どうだった?」
そして今度は僕の方も不安を口にした。
だがそう振ると、アハハと乾いた笑いを浮かべる東雲さんは呆れ気味だった。
「予想以上でしたよね……問い合わせ殺到ですよ」
「……効果があったなら、よかったかな? それで、追加で三十体分用意してきたんだ。専用のアイテムボックスに詰めてあるから、売るもよし、実験するもよし、好きに使って」
「流石ですね先生……こっちが間に合わないかも」
嬉しい悲鳴を上げる彼女に、僕は太鼓判を押すように笑った。
「そんなの最初だけだよ。こいつを弄っているうちに東雲さんの生成スキルが上がれば、スピードも自然と上がるって。必要な設備もいるなら増設すればいいし、軌道に乗るまではこっちで中身を作って、工場で調整っていうのは手筈通りにいこう」
「は、はい。頑張ります! 父さんも張り切ってるから準備は万端ですよ! 部屋なんて新しい武装と、外装の設計図でいっぱいなんですよねぇ」
「……お父さんだけ?」
「うっ! ……まぁ私もですけどね!」
「だよねぇ」
こんな面白いことを目の前にして、東雲さんもおとなしくしているわけがない。
スキルの上がりぶりをみていれば入れ込み具合もわかるというものだった。
きっと、驚くべきスピードで僕無しでも形になる日は近い。
東雲式機動甲冑も本格販売が始まる予定だが、東雲さん的には片っ端から売るつもりもないみたいだった。
「それで、うちでアレを売るのは大歓迎なんですが……売る相手は考えないと、とは思っています。実質ロボットのように見せかけても、ゴーレムなわけですし。未知のものですから」
「だよねぇ。大丈夫だと思うけど……できれば身近な所で僕ら以外に使ってもらったりしてほしいと思ってるんだよ」
「そうですね。できれば……もっと普通の探索者がいいですね!」
おや? それだと僕らが普通じゃないみたいに聞こえるけど……普通じゃないね。東雲さんが全面的に正しいです。
僕らのレベルは圧倒的に高すぎる。
可能であれば普通のレベルできちんと制御できると実績を積み重ねて、様子を見たいところだった。
「学校の生徒に使ってもらうのがいいですかね?」
「様子を見るって意味じゃそれがよさそうだけど……実は優先して試してもらおうかなと思っている人たちがいるんだよ」
だが僕には、ちょっとした企みがあった。
思い当たる節があったらしい東雲さんはハッとして、飛び込みで注文してきた外国人を思い出したみたいだった。
「まさか……アレってそう言うことですか?」
「そうだよ? うちのクラスの留学生。なんと……超人気の有名な探索者なんだ」
「おぉ……抜け目がありませんなぁ」
東雲さんは素っ頓狂な声を上げていたけれど、実際に良い宣伝になりそうでしょう?
宣伝は一発勝負じゃちょっと弱い。
散発的に打って出て、人の意識にすっと入ってもらえて初めて価値が出て来るものじゃないだろうか? なんて僕はそれらしいことを考えていたが、正直効果があるかどうかはやってみなければわからなかった。




