第403話花臣君は戸惑っている
ざわざわと会場のざわめきが聞こえる。
舞闘祭はまだ続いていたが、会場の動揺の出所は競技とは全く関係ない一本の動画がもたらしたものだった。
学生達は試合そっちのけで、タブレットや携帯を引っ張り出して、その動画を見ていた。
「なんだこれ? 作りものじゃないのか?」
「いや、この天使、私見たことあるような……」
「おいおいブロック! マジでロボが出たぞ! 腕だけじゃないのか!」
「ふっ……俺は可能性はあると思っていたよ。じゃなきゃ海を越えてここまで来ないさ」
様々な憶測が飛び交う中、花臣もまた、この動画にとても心躍り、何ならちょっと感極まっていた。
そりゃあそうだろう。デザイン含めて自分も大いに関わった作品が、動いて戦って、モンスターを粉砕している。
まぁ自分が知っている以上に演出面が大いに盛られていたけれど、そんなの興奮が増すだけだ。
とはいえ……中の人を知っている、その一点だけは落ち着かない気分になる。
大盛り上がりだけれど、花臣は変な汗が出るのを止められなかった。
「こ、これはまた、派手にやったでござるなぁ」
「必殺技まで使ってますね! ククッ……」
「どうしたでござる?」
顔を伏せて、肩を震わせているレイナ氏に尋ねると、彼女は自分の指を噛んで必死に笑いを押し殺していた。
「いや……笑いを堪えるのが……クフフ」
「いやいや。笑ってる場合でござる?」
「はー……ワタシ達だけが知ってる感が堪りませんね。笑わずにいられます? それに心配しなくてもまだギリギリ大丈夫じゃないですか? 顔なんて動画じゃわかんないじゃないですか?」
どうにか笑いのピークを終えて顔を上げ、レイナ氏はお気楽に言った。
確かに動画に映っているのは聖剣を持ったファイアーボールヘッドと謎のロボットだけだ。
最後に出て来た、あのモンスターは多分あの容赦なさを見るに、完全にトラブルだろうけど、ワタヌキ氏もいい塩梅にトラブるものだった。
しかし波乱は確実にあるようで、動画に映し出されたダンジョンでの騒動を穴が開くほど凝視して、タブレットを握り潰しそうになっている生徒もいた。
「ファイアーボールヘッド! ……なんでこんなところに! この学園の生徒じゃなかったの? やっぱり外部の何者かが……!」
興奮して声を漏らす留学生の女の子に、花臣はなんだろうと注意を向けたが、そんな叫びを聞いた瞬間、またレイナ氏が顔を伏せて、さっき以上に震えていた。
どうやらまた盛大にツボに入ったようで、苦しそうに涙目だった。
「よ、予想外の効果もあるみたいですね……クククククッ」
「大爆笑でござるなぁ……」
「いやだって……アレはズルいですよ」
たぶん説明とか一切してないんだろうなと、花臣は曖昧に笑った。
レイナ氏も人が悪い。ミア氏も気の毒である。
ここでなぜかと問えば、そっちの方が面白いからと即答しそうな雰囲気があるのだから、なんとも言えない関係性の二人だなとそう感じた。
「いやー……でも、実際、グッジョブですよ。ここまで趣味だけで世界を引っ掻き回せる機会なんて早々あるもんじゃありません。見習いたいものですね!」
「はははは……。見習って大丈夫な奴でござるかそれ?」
レイナ氏は非常に楽しそうにワタヌキ氏を絶賛していたが、考えてみれば絶妙なのかもしれないと、花臣も唸った。
東雲氏の家を巻き込んだ件にしてもそうだ。
そもそも彼女の会社は武器を扱っている以上、手広く商売をしていく狙いはあったはずだ。
あわよくばダンジョン用の銃を早期に開発して、一歩先んじて武器開発の主導権を握りたいという熱意がある人達なら、僕らが提供した装備を流通させることは容易いだろう。
今回のワタヌキ氏のお友達にしてもそうだ。
花臣も知っているショップの店長さんは、探索者の間では有名な探索者用装備のメーカー関係者だ。
そして本人もおそらく探索者側の人で、命を懸けている彼らの助けになるのなら、多少の無茶にも骨を折ってくれそうに見えた。
なによりどちらも理想を形にするチャンスがあれば、躊躇わないし、手放さない確信がある。
あまり接する機会のない花臣でさえそう思うくらいには、あの大人たちは趣味に本気だった。外から見た人間なら、自然にFBHは彼らが用意した偶像だと考えるに違いない。
そして、最後にワタヌキ氏は絶対に予想できない一手も織り込んでいた。
「お! 二人ともお疲れー」
「いやー、なんか盛り上がってるね!」
「……」
転移を使った、舞闘祭にあえて帰って来るこのスピード感は、誰にも解けないアリバイ作りになりうる。
これがすべて狙って撹乱しているのか、それとも天然でやっているのか、ちょっと花臣にはわからなかった。




