第402話あずにゃんは見た
「……今のは一体……」
混乱の中、ダンジョンから一時撤退し避難誘導をし終えた東 音子は、しばらく放心していた。
ランダムエンカウントによってモンスターが出現したかと思えば、ほぼ一瞬で撃退された。
言ってしまえばそれだけのことだが、今までの常識と照らし合わせても異常な事態が立て続けに起こっていたのは間違いない。
周囲の様子も似たり寄ったりで、理解が追い付いておらず、困惑が広がっていた。
「うーん……」
ファイアーボールヘッドと、ジャケットフルフェイス。
そして天使ちゃんの姿は、今はもうどこにもない。
説明を求められそうにないのは痛手だが、仕方がない。
いったん頭を整理するため、ネコは気になるポイントを洗い出す。
まず突然出現したモンスターは生半可なモンスターではなかった。
それこそ熟練の探索者が束になっても勝てるかどうか怪しい――そんなレベルの強力なモンスターだと直感するのは実に久しぶりのことだった。
しかし突然ロボットアニメの呼び出しバンクみたいに登場した、鎧騎士……いや、ロボットのような何かは、見た目以上にハチャメチャな武装を使って、そのバケモノを一撃で粉砕してのけた。
それはすでにカメラ君によって全世界に発信され、コメント欄を確認すると阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。
「……」
コメントもおおよそ困惑が支配しているのが見て取れた。
カメラアングルまで計算された演出に、突然空から現れたロボット。
さらにマスケットライフルを構えた天使の軍勢が登場するとかいう展開。
そして、巨人を粉砕した、まるで神々の鉄槌のような一撃はフェイク画像だと説明した方がいっそ理解しやすいだろう。
ネコとて肉眼で見てさえいなければ「フェイク画像だろう」と一笑に付す自信がある。
しかし、今回はネコと同じように、肉眼で見た目撃者が沢山存在していた。
それもこういうの大好きな、筋金入りの猛者ばかりだ。
おそらくありとあらゆる手段で、今起こったこのことを形に残そうとするのは火を見るよりも明らかだった。
そこで対応することになるのはおそらく自分ということになるけれど、まぁ説明はふわっとしたものになるだろう。
「こりゃあ……逆に利用されちゃったかなぁ?」
イベントを盛り上げるために是非ともと招待した友人。その彼がここぞとばかりに用意したサプライズに、自分の企画は食われてしまったなと、ネコは唇を尖らせる。
まぁしてやられた感じはあるが、悪くない……いやむしろいいと、ネコは頷いた。
あの少年の提供してくれたイベントは、どれ一つとっても捗る。それが重要である。
「まぁ。ありがとうって感じだね」
おおむねプラスと納得できたのなら大成功である。
というかあのモンスターが出現して、誰一人死者が出ない時点で、ハグでもしたい気分だ。
これから少しばかり大変そうだけど、それはそれとして――
「えっへっへっ。ちびっ子天使、いっぱいいたなぁ……」
先ほど目の前に広がった数分は、ネコにとって夢のような光景だった。
いつかまたあのかわいらしさを具現化したような、ストレートな体験をもう一度できるのなら、あの面白い友人との繋がりを継続する意味は大いにある。
ピロリンと着信音が鳴り、自分の携帯を確認すると、消えた彼から丁寧な謝罪文と、東雲鉄工のURLが送られてきた。
ネコはニヤリと笑う。
後でしっかり事情は説明してもらうとして――ネコはひとまずその「東雲鉄工」なる謎の会社に連絡を取ってみることにした。




