【記念SS】育成してみた
「亀が帰ってくる前に……ネズミが……いると思うんだよ」
「ゴクリ……ネズミでござるか?」
何となくそんな気がして、僕が呟くとダンジョンのカフェで歴史ものの小説を読んでいた桃山君は、さすがに顔を上げてシュコーっとマスクから音を立てていた。
「というわけで、適当な奴を一匹生け捕りにして来たんだけれど……」
「何のためにでござる?」
「そりゃあ亀のために決まっているじゃないか」
「順番、逆じゃないでござるか?」
僕が心を込めてそういうと桃山君は矛盾を指摘してきた。
「いやまぁそうなんだけど、こういうのはビジュアルって大事だと思うんだよ」
そこで偶然見つけたげっ歯類を基に、手を出したのは禁忌の秘術であった。
生物には手を出すまい。手を出してもスライムまでにしておこう!そう考えていた僕は最後の一線を越えてしまった。
魔王城の錬金工房をフル活用した、モンスター錬成。
その結果生まれた彼は……想像を超えていた。
「で――作ってみたのがこのモンスターなんだけど」
「……え?」
桃山君の目が点になるのも無理はなかった。
だってそこに立っていたのはでっかい二足歩行のカピバラだったんだから。
「何でござる? これ?」
まじまじと中腰でカピバラマンを覗き見る桃山君だが、まさに見たままの存在だった。
「これってことはないだろう? 二足歩行のネズミさんじゃないか」
可愛いだろう? そう目で訴えてみたが僕の頭の炎で見えなかったことだろう。
そして桃山君はなんとも座りの悪い顔をして、その迷いの元を口に出した。
「ええっと……何とは言わないでござるけどドブネズミでは?」
そう言われて。僕はそっと目を逸らした。
「……ドブネズミは……ちょっと。愛でるのにハードルが高くて」
「ビジュアル大事って言ってたでござるよね!?」
「だって……そのまんまも……まずいわけじゃないか?」
「それは……そうでござるけど」
「分かってもらえて何よりだよ。彼の育成に協力してくれるね!」
でももうできてしまったのだから仕方がない。
このカピバラマンだって、実に愛嬌のある顔をしていると僕は思っている。
「そこまでするんでござるか!?」
桃山君は驚いていたけれど、カピバラの上に全然弱いっていうのも……ねぇ?
だからもちろんそこまでするんです。
カピバラマンのジョブはまずシーフに設定。
これからボーナスポイントを上げるために、1階モンスター素材と錬金釜で大量に対象モンスターを増殖させて、狩ってもらう。
あまり時間を掛けたくないので、時間が遅くなる部屋でスピード特訓である。
カピバラマンの手足が短いから最初は苦労していたが、相手も強くはない。
同時にハットリさん特製バフアイテムとモンスター弁当で大きくステータスを底上げした。
そしてついでに上級天使を召喚し、スピードを3倍ほどに加速することでスムーズに1000匹狩りを達成した。
「は、はやー……これ結構苦労した覚えがあるんでござるけど……」
「……アレだって、かなり効率化してたんだよ? ブラッシュアップが進むと、時短になるのは嬉しいことだけど、すこしばかりの切なさもあるよね」
「そうでござるねぇ」
だが切なくとも、めんどくさい作業は短ければ短いほどいい。
僕は桃山君と複雑な感情を噛みしめつつ、次の工程へ進んだ。
続いて用意したのはボクシングのパンチングボールに封印したキングオリハルコンスライム、通称『師匠』だった。
「打つべし打つべし」
「……っ!」
カピバラマンにパンチの打ち方を指導しつつ、ボールを殴る。
するとあっという間にスキルレベルは上がってシーフのスキルを覚えきり、続いて忍者にジョブを変更である。
「打つべし打つべし!」
「…………っ!」
ポコポコと、殴る事しばし。忍者のスキルも覚えきった。
あまりの情緒のなさに桃山君は眉間を揉むと、ぽつりと呟いた。
「……忍者とは?」
「……耐え忍ぶ者かな?」
「そこに耐え忍ぶ要素はあったんでござるか?」
「圧倒的に強い奴をただ殴り続けるのって案外怖いんだよ? でも効率はいいんだよねぇ」
「……覚えがあるでござるなぁ」
忍者に絞っただけあって、忍者のスキルはこのカピバラマンの方が長けている感じになりそうだった。
では次。
僕は桃山君の支配階層で、レベル上げのセッティングをお願いして、魔法属性変更の神殿にやって来ていた。
そこでカピバラマンの魔法属性を水から別の属性に変更するつもりだった。
この神殿で変更すると通常とは少し違う属性も手に入る。
モンスターの場合は狙うというのは難しいが、ランダムに属性が変わるとしても弱くなるということはないので早いうちなら変更してみるのも一手とは攻略君の情報だ。
『そう……元の君のように何も磨かれていない状態なら特にね!』
「それ言っちゃう? まぁそうだろうけどさ」
僕みたいな最初一般ピーポーに毛が生えたくらいの熟練度なら大いに試す価値があるってところだ。
ただ、探索者経験が長く、ある程度自分の魔法を戦いに組み込んでいると、やり方がガラリと変わるからあまりお勧めできないので注意が必要だった。
カピバラマンは神殿で祈りを捧げる。
そして得られた属性は――。
『ふむ……これは珍しい。毒の属性だね』
攻略君が告げるが、僕はどう反応したものかちょっと困った。
「毒とは……また物騒だな」
『いや、癒しにも攻撃にも使える希少な属性だよ』
「へー……でも考えようによっては色々試せるかもしれないか」
攻略君のトーンがちょっと楽しそうな時は、思った以上にすごいことができそうだった。
こいつは中々面白い属性を引いたかもしれないと、僕もちょっと楽しくなってきた。
そして戻ってくると桃山君がすでに最後の準備を整えていた。
僕はカピバラマンにスライムの入った小瓶を手渡し、魔力を流させる。
そしていかだの上の錬金釜に材料を突っ込んで、スライムを放り込んだ。
僕がパチンと指を鳴らすと、ものすっごい生き物が沈む海に転移した筏から、とんでもない量のメタルスライムが湧き出した。
「……師匠には足を向けて寝られないよ本当に」
「……ホントでござるなぁ」
そしてしばし待つ。
深海奥深くに沈んだスライムたちが一斉に水圧に押し潰され大量の経験値が入ってくると――
「……!!!!」
カピバラマンが鼻血を噴き出して悶えた。
赤い顔でひっくり返ってしまったカピバラマンに僕らは慌てて駆け寄る。
すまんカピバラ、これがあったの忘れてたよ。
チョットしたトラブルがあったが、しかし一通りの工程を終えた僕らは感動を覚えながらカピバラマンの雄姿を見た。
これで免許皆伝だ。
桃山君から紫色の道着と杖をもらったカピバラマンが、今日でただの二足歩行のげっ歯類は卒業である。
「か、完成した! これぞパーフェクト・カピバラだ!」
「……早かったでござるなぁ」
促成栽培にもほどがあるが、絶大な力を持つカピバラマンは誕生した。
これから彼もまた最強の存在の一角として大活躍してくれるはずである。
「リアルスキルはこれから磨いていけばいいでござる。何なら手合わせするでござるよ。うちのモンスター達にもいい刺激になるでござるし」
「うん。頼んだ桃山氏」
「しかし……」
だが急に桃山君は黙り込み、カピバラマンを見る。
そしてなんとも複雑な表情で、感想を呟いた。
「なんか……この最強のネズミを作ろうプロジェクト……自分達の総集編見てるみたいでなんか嫌でござるね」
「……そう言うなよ桃山君。こんなに簡単になったのは本当に努力の成果だよ?」
ちょっとずつ得られたスキルを組み合わせることで最終的にすごい効率で作業が出来る。
下準備こそが肝なのだ。
これゲームでも鉄則である。
「そう言えば、名前何にするでござる?」
「そうだね……『春雄』なんてどう?」
「春雄」
そして春雄と名付けられた、最強の忍者カピバラマンは、亀階層の支配者として君臨するのだが、それはもう少し先の話だった。
累計1000万PV記念SSです。
心からの感謝を込めて。
*画像はAIで製作しています。




