第398話天使無双
「おお、来ましたね? どうです皆さん? 解放感あるでしょう?」
ユグドラシルもどきのダンジョンに入ると、店長さんが迎えてくれたが、改めてこう言われて、僕はダンジョンを眺めた。
外のように広がる草原は前回とはまた違った面持ちで驚かされるが、それ以上に気になるのは店長さんの言いようだった。
「まさか狙ったんですか?」
「ふふん。変化にも多少の傾向はあるのでね。広い方が今回は都合がいいでしょう?」
それはすごい。長く活動していればそんな予兆にも気づけるものなのか。
実際、今回のダンジョン1階は、空が広がり、広大で、様々な場所で戦う探索者パーティの活躍がよく見えた。
「皆さん、凄い探索者さん達ですね。1階じゃ物足りないんじゃないですか?」
「試しですから十分ですよ。1階層とはいえ、モンスターはモンスターですからね」
そして店長さんはすでにワクワクが止まらないようで、視線がちらちらと落ち着かない。
彼女が熱視線を送っているのはもちろん僕の傍らにいる天使君だった。
徐々に天使に近づいてくる店長さんはかなり不審である。
「ええっと、それで……その子も戦えるっていうのは本当なんですか?」
「本当です。めちゃくちゃ強いですよ?」
「ほー。魔法職ですか?」
「ええ。そうです」
実際、魔法攻撃が得意なタイプなので頷くと、なるほどそれならと店長さんは納得したように首肯した。
「では安全第一で行きましょう。戦ってみますか?」
「はいでち!」
「はい。是非お願いします」
「では私と一緒に行きましょうか」
店長さんは腰に下げたレイピアを取りだして、僕らを先導するように歩き始めた。
「何か新作の武器を試してみますか? ハートの弓矢とかありますよ?」
「何ですそれ? めっちゃいいじゃないですか」
戦う前に実に魅力的な提案をされたけど僕はぐっと堪えた。
「い、いえ。でも今回は自前の物を試してみたいので」
「そうですか? それはちょっと楽しみですね。ではカメラ君で撮影しても?」
「ええ、かまいません。是非お願いします」
僕が許可を出すと、傍らにいた浦島先輩から驚きで目を見張る雰囲気を感じた。
「では皆さん、まずは私の方でも少し面白いものをお見せしましょう。前衛として戦えることを見せておいた方が安心できますからね。こちらのレイピア、最近発掘された物なんですが……このように」
もう来ると察知していたのだろう、店長さんはにこやかに語りながら襲い掛かって来た狼型のモンスターに余裕をもってレイピアを突き出す。
そして刺し貫いた瞬間、瞬時にモンスターは凍り付いて、バラバラに砕け散った。
「おお! 氷の!」
「はい。そうです。氷の属性が付与された武器ですね。まるで新品みたいでしょう? 魔法を破綻させずに整備しています。最近は技術の向上を特に実感しますね」
ドヤっと店長さんが説明してくれるので、僕らは唸った。
この後なんだかすごく戦いづらいけど……まぁ仕方がないか。
僕は次に行くように天使を促すと、マスケット銃を構えた天使は続いて襲い掛かって来るオオカミのモンスターに向かって、銃の引き金を引いた。
ガンと乾いた銃声と共に、炎とは違う閃光がチカリと走る。
次の瞬間にはモンスターの胴体に風穴が開いて、そのまま光の粒子になって消えていった。
「よし。良い狙いだ」
「楽勝でち」
僕はわしゃわしゃと天使の頭を撫でると、天使は気持ちよさそうに目を細めてふっと銃口に息を吹きかける。
一方、店長さんはごしごしと自分の目をこすって、今は天使の銃に別の意味で釘付けだった。
「え? 今の……この銃、ホントに撃てちゃってませんでした?」
「正確に言うと銃型の杖なんで、魔法の一種なんですよ。御覧の通り威力は普通の銃にひけを取りません。そして得意魔法を上乗せして撃ち出すこともできたりする優れモノなんですよ」
「……ちょっとよくわかんないですが。これ、自前なんですか?」
「そうですよ?」
自分の目で見た現実を信じて欲しい。
我が目を疑う店長さんをしり目に、うちの天使はここぞとばかりに調子に乗っていた。
スタイリッシュなアクションでマスケット銃を操り、襲い来るモンスターの眉間を撃ち抜く我が天使は、色んな意味で注目の的だった。




