第397話コスプレ会場で注目を浴びる
巨大ディスプレイに映し出されているのは、一人の探索者だった。
そこにはばっちりビキニアーマーを着こなした女性が、狼型のモンスターと戦う雄姿が高画質で映し出されていた。
「すげぇ……戦えてるってことは、ダンジョンであんな鎧が出てくるんですね」
「ダンジョンには何でもある……。人が夢を追い続ける限り可能性は無限大だとも!」
浦島先輩は夢見る顔で語る。
そして映像にダンジョン内での戦闘が映し出されているというあまりにも革新的な状況は、人々が熱狂するのに十分だった。
そんな驚いている人達を見て、僕も改めて驚いた。
「うーん。皆さんディスプレイに興味津々ですねぇ」
「そりゃそうだよ。常識が変わってるわけだから」
「なんか……変な感じがしますね」
「まぁ。私達にしたら、ダンジョン攻略のお馴染みだからじゃない?」
フルフェイスのヘルメットの中から、しみじみとした浦島先輩の声が聞こえてくるが、あれだけ最初驚かれていたカメラ君もずいぶん馴染んだものである。
僕らはファイアーボールヘッドの衣装と、浦島先輩は黒いフルフェイスヘルメットとジャケット姿でしばらく会場をフラフラ見て回っていた。
会場で見かける衣装はただのコスプレではなく、戦闘でも使えるように本気で作られていて、素材のクオリティが実用レベルで高い点がポイントだ。
ただ、僕らがそうであるように会場にいる探索者の方々もまた、僕らに興味津々だった。
「……アレは、噂のファイアーボールヘッドのコスプレ? どうやって頭を燃やしてるんだ? まさか本物かな?」
「いや……それよりも、彼が着ている衣裳――市販品に見えるのに魔力を感じない? いったいどうやって魔力を? まさかとうとう、アイテム化の技術が?」
「隣もすごいぞ? ディティールのこだわりもだが……あの防弾チョッキ、軍で採用されるグレードのやつだよ。魔力も感じるし……マジで? さすがに発掘品をそれっぽく見せてるだけだよな?」
などなど、ひそひそ声が聞こえてくる。
注目されるのは目的を考えると好都合ではあるんだけど――今すぐ人に囲まれる状況は、ちょっと勘弁してほしい。
「これはさっさと、ダンジョン内に移動しちゃいましょうか、先輩? 見られすぎてますね」
「そうだね。ああ、でも一般レイヤーさんもいるから、こっちの会場の方が写真映えはしそうなんだよなぁ」
くねくねと迷いのダンスを踊り始めた浦島先輩に、まぁまぁと僕は、手を差し出した。
「そう言わずに。向こうの方がメイン会場だそうですしね」
店長さんも移動してすでに中にいるようなので、こちらも移動する頃合いだ。
ただ、差し出された僕の手を見た浦島先輩は笑い出し、僕の手を上から取った。
「ウェヒッヒッ。ダンスのお誘いっぽいねー。ならもっと気の利いた衣装を着て来るべきだったかな? 悪役令嬢物にでも出られるみたいなさ?」
「僕に王子様役は荷が重いでしょ……先輩なら令嬢役もやってやれないことはなさそうですけどね。というか先輩はなんでまたいつもの衣装にしたんです? 新しいの作るんだったら協力したのに」
「まぁねー……でもこの衣装ずっとお披露目できずにいたからさ。どこかで見せておきたいなって思ってたんだよ」
パンパンとジャケットを叩くと、顔のディスプレイにニッコリ顔の顔文字が浮かぶ。
それを見て僕はなるほどと苦笑した。
「義理堅いですね。僕らに気を遣わないでやりたい服でいいんですよ? せっかくボディメイク、いつもがんばってるのに、その服なんて着ぐるみ並みに露出ないじゃないですか」
だが、なんとなく口を突いた言葉で、浦島先輩のヘルメットに浮かんだ顔文字は絶望顔だった。
「ワタヌキ後輩もそう思うか……。クっ! 痛恨の極みだよ。私は準備だけ整えて、露出だけはしないヘタレ野郎さ……」
「い、いや、仕方が無いと思いますけどね?」
変なところでプライドがある先輩だけど、ジムまで作って体を作っているんだから拘りたくなる気持ちはわかる。
まぁあえてジャージだとか、ジャケットだとかを選択しているのは浦島先輩なわけだが、隠れているところまで手を抜かないのが拘りってものなのは、僕にもよく理解できた。
僕は話を変える意味も込めて、コホンと咳払いした。
「まぁ……王子さまではないにしても、友達から騎士の衣装はもらっちゃいましたからね、少しキメて行くとしましょう」
「いいじゃない。では騎士様? ダンジョンに向かいましょうか?」
「もちろんですとも。楽しくなるのはここからですからね」
「……そうとも! ここからが私達の戦場だよ!」
僕らは気合を入れ直し、誰かに捕まる前にダンジョン内に突入した。




