第394話自分でも驚いた
バトルロイヤルという特殊なルールと個人の事情、複雑な感情がないまぜになって、桃山花臣は緊張を抱えたまま、その舞台に上がっていた。
最強の刀と鮮やかな赤いパーカー、ガスマスクという衣装での対人戦という状況は、存外やりづらさを感じる。
ガスマスクの中から深く息を吐きながら試合開始を待っていると、開始早々、まず派手な衣装は思った以上に敵を引き付けた。
「この派手な奴をやるぞ!」
「悪く思うな!」
彼らもまた武器を人に向けるという状況に高揚しているように見える。
花臣はマスクの奥から周囲を見据え、戦闘用に意識を切り替える。すると相手の動きだけでなく、表情までもスローモーションのように詳細に見て取れた。
……というかあまりにも遅すぎる。
迫る刃を軽くかわし、背後へと回り込んでも、彼らは避けられたことにすら気づいていない。
「え? ど、どこに!」
「後ろだ! いきなり現れたぞ!」
「こいつはやばい……協力していくぞ!」
花臣は焦る。
ちょっとした騒ぎは周囲の生徒の注意をさらに惹いて、自分に向けられる敵意の数は一気に膨れ上がった。
一旦、シュコーっと深呼吸する。
そしてじゃあそろそろ始めるかと、刀に手をかけたその瞬間、驚くべき現象が起きた。
空気が震え、周囲の学生達が一気に吹き飛んだ。
……なにこれ?
正直、意味がわからなかった。
ひっくり返った生徒は完全に白目をむいていて、意識がないようだった。
「……」
花臣はこの時ようやく自らの力に恐怖を覚えた。
気合で人を倒す。
そんな話は聞いた覚えがあったが、実感としてそんなことが出来るなんて欠片も考えたことはない。
まぁ、実際宙を舞っているのだが……たぶん今の気合のようなものは、スキルだったんだろう。
真剣に、「じゃあ倒す!」と意思を込め、マスクの奥から一睨みしたらこれだ。
成果としてはこれ以上ないが、まともに剣を交えてすらいない。
これで終わりということに、花臣はさすがに申し訳なさを覚えた。
「まさか……全滅ではないでござるよね?」
どこか沙汰を待つ囚人のような心地で花臣は生き残りを探すと、幸いまだ何人か立っている生徒は存在した。
ひどい有様だが、確かにいる。
強めの精霊を持った生徒会の人達が数人……そしてその中には、知り合いの顔もあった。
小さなドラゴンと、白蛇の精霊を引き連れた、ワタヌキ氏のクラスメイトはよろめきながら頭こそ振っていたが、健在だった。
「な、なんなんだ今のは……」
「……」
睨みつけてくる視線はまだ戦意を失ってはいなかった。




