第388話伝説の探索者
「お招きありがとうございます。直接会うのは久しぶりですが、そんな感じがしませんね」
僕が丁寧に挨拶すると、店長さんは今日という日を本当に楽しみにしてくれていたようで、テンションの高さを隠しきれていない様子だった。
「あっはっはっ! そうですね! いやぁ、せっかくのイベントです。私が見込んだ方にはぜひ参加していただきたいなと! できれば……ハバキリさんにも参加していただきたかったですが……」
「いやー、彼はレイヤーではないので。それと今日は大切な用事がありまして」
そして僕はその大事な用事を、こっちの方が面白そうという理由でさぼってきました。言わないけど。
店長さんはなるほどと納得して満足そうに頷いた。
「そうだったんですねー、残念です。いやいやでも、お三方だけでも参加してもらえるとは嬉しいですよ。今回のイベントは少し特殊なものですから」
「ただのコスプレイベントじゃないんですか?」
浦島先輩が尋ねると、店長さんはその通りだと心なしか胸を張っていた。
「その通りです! 世界初、探索者限定ダンジョン内でのコスプレイベントですからね!」
「……ダ、ダンジョンの中で?」
「その通り! ダンジョンの中なら、どんな装備も持ちたい放題、着放題。その上実戦形式で試し放題ですよ? ああ、制限はほとんど受けませんから、存分に自慢の装備を披露してください。きっと気持ちがいいですよ?」
店長さんがニヤリと笑い、僕もそれに深く頷いた。
ある意味どんな服装でも許可されているイベントとなれば、需要は大いにありそうだ。
ただ僕は「すごいよね!」と振り返った先にいた浦島先輩が妙に静かになったことに気が付く。
彼女は、じっと店長さんを見ていて、なにか気になることがある様子だった。
「んー……」
「どうしました先輩?」
「いやね? 店長さんにどこかで会ったことがあるかなぁと」
「そうなんですか?」
それは何だか意外。
でもこの界隈だと、アクティブに動く方の先輩なら出会っていても違和感はなかった。
「私はしがない店長さんですよ? まぁこのイベントの発案、運営をしているちょっとやり手の店長さんですがね!」
ただ、実際どんな立ち位置の人なのかは、実は僕もあんまり知らない。
なぜなら写真の交換くらいしかしないから。
主に質問されるのは僕の方だということもあった。
「探索者のイベントってことは、店長さんも探索者なんですか?」
ショップで店員をしていたから、てっきり戦闘職じゃない一般人だと思っていたのだが、店長さんは苦笑して、そうですよと肯定した。
「それはもちろん。これでも昔はそれなりにダンジョンでブイブイ言わせていたんです」
「へー。そうなんですね」
今でも十分お若く見えるが、引退してショップで店員をしているわけか。
そういう道もあるんだなぁなんて感心していると、浦島先輩の様子がおかしくなった。
「女性の探索者で……この辺りを拠点にしていた。……まさか、貴女は! このユグドラシルもどきを解放した、伝説の聖なる乙女――東音子!?」
えぇ先輩? 急にどうしたんです? そんな伝説とか語っちゃって?
「おやおや……古い話を知っていらっしゃる」
すると混乱する僕をよそに今度は店長さんは笑みを深めて、セリフで伝説を匂わせてきた。
「なんてこと……!」
「知っているんですか先輩?」
僕が小声で尋ねると、浦島先輩はあきれたように片眉を上げた。
「おいおい、知らない方がモグリだぜ、後輩。有明の立派な英雄だよ?」
「す、すみません。二次元が主戦場なもので、人名はあまり……。ああ、もちろん店長さんのお名前は知ってましたよ? 本名でやり取りしてましたし」
「うん。察していましたよね。だから話しやすいったら」
もの知らずで大変申し訳ない。
だけどそのおかげで話が弾んだというのなら、大変光栄なことだ。
「で、でもよかったんですか? あなたが主催するような大きなイベントに私達みたいな普通の学生が出て?」
急に背筋を伸ばし、遠慮し始めた浦島先輩だったが、店長さんは「もちろん」と即答して頷いた。
「当然ですよ。あなた達のおかげで、ダンジョンの中でかっこいいカットも撮影し放題なんですから。むしろ是非とも立役者には立ち会ってほしかった。世界初のダンジョン内撮影用カメラを開発……いえ、提供してくれた協力者にはね」
とたん。バッと浦島先輩が振り返って目を丸くして僕を見たので、同時に僕は目を逸らした。
やったんか!?
そう目で訴える浦島先輩に答えるのなら、「ええやってやりましたとも、後悔はしていない!」と僕は答えて胸を張るだろう。




