第382話お誘い特典
「えー。概要を説明するとですね、友人のショップ店長さんがコスプレのイベントを開催するから是非とも、うちの天使と一緒に参加しないかという話でして」
急なお誘いの話を、サブカルチャー研究部のみんなに報告するとおおーっと歓声が上がった。
しかし残念なことに、そのイベントには無視できない注意点があった。
「だけど……一つ問題がありまして。その日程は舞闘祭とまるかぶりしてるってことなんですよね」
歓声が再び上がるが、おおー……っとちょっとトーンに戸惑いが混ざった。
その反応は、僕の心の迷いそのものと言っていい。
「……どうしたらいいと思う?」
そう、僕が相談するのは義務感としては学校行事の方を重く見ているからだ。
そして、それでもなお相談したのは、明らかにこちらのイベントの方が楽しそうだからだった。
「つまり学校行事を休んで、イベントに行きたいと?」
浦島先輩の要約は的確で、僕は頷いた。
「……歯に衣着せずにいっちゃうとそうなります。だって、気になるでしょう? ただのコスプレイベントじゃないみたいなんですよ? 探索者用最新素材の装備をユグドラシルもどきらしくアレンジして紹介してたり、個人参加もOKで、工夫を凝らしたオーダーメイド品はもちろん、企業の最新モデルまでお目に掛かれるんだとか」
「……っ!」
この辺りは桃山君が息を呑み、反応がすごくいい。
そして浦島先輩もまた、コスプレ熱は高かった。
「思ったより本格的なイベントだ! ……それは面白そうだね」
「でしょう? しかもゲスト枠です」
ダメ押しに友人提供のチケットを見せると、ザワリと部室が湧いた。
わかります……この特別感、いいですよね?
チャンスがあれば乗っかりたいと思うのは、なにも不思議な感情ではない。
「まぁ、ぶっちゃけ――僕はもうこっち優先で行きます!」
迷っている振りなんて僕にはもうできない。
心に嘘なんてつけないんだと断言すると、みんなは総じて苦笑いを浮かべていた。
「おおう……思い切ったねぇ」
「いや、こっちの方がどう考えても楽しそうなので」
「……なるほどねぇ。ちなみにどんなコスプレするつもりなの?」
ワクワクしながらそう尋ねる浦島先輩に、僕はやはりバレてしまうかと不敵に笑った。
そう、僕にはどうしてもお披露目したいとっておきの衣装があった。
それは舞闘祭で披露しようと思っていたアレである。
「まぁとっておきのやつを披露したいんですよね……」
なにせ新装備開発には、協力者も多い。
桃山君と東雲さんが中心となって進めている僕専用聖騎士装備はいい物なのだが、
完成が近づくにつれ、お披露目の舞台として学校行事が適切だとは思えなくなってきたからというのも、今回の方針の決め手になった。
「最悪……出す前に止められる可能性もあるなと」
そんな説明で浦島先輩も何を着たいのか察しがついたようで、それはなぁと大変微妙な表情を浮かべていた。
「例年までのノリがねぇ……いや私も、正直当日に止められるんじゃないかと思ってはいた」
「あー……今回の大会は特別仕様ですけど……正直わかりませんね!」
そして運営の方にもかかわっているっぽい、レイナさんは言う。
彼女としても、僕の武装の方が特殊過ぎて、会場すべての反応までは読み切れないということだろう。
実際攻略君も、パーセンテージでしか答えてくれなかった。
そして一番の理由は、装備の方向性。
いわゆる、ゴーレムやロボットに近い武装が同世代に間違いなく受けるのかと問われると、ちょっと自信がないというのが本音だった。
「どう思う? ロボットは刺さるかな?」
「……うーん。外のイベントの方が確かに、受けは良さそうでござるよねぇ」
「そうなんだよ。学校じゃ、ちょっとね」
僕らの作った装備は不特定多数に幅広く受け入れられる類の浪漫では残念ながらないのである。
その代わり好きな人にはすこぶる刺さる尖り方をしていると、僕は思っていた。
「でも大丈夫でござるか? 学校のイベントさぼるとか?」
桃山君は心配そうだけど、僕個人的にも今ひとつ身が入らなかった。
「まぁ……正直舞闘祭のルールって、格闘技の大会ルールだから活躍できる気もしないし」
「あー……克服はできなかったんでござるね」
「そりゃそうでしょう? あんな大技をぶっぱなすだけで手加減がうまくなったりしません」
では最後に、軽く大切な質問を聞いてみて、この話題を締めくくるとしよう。
「じゃあ! 誰か他に参加する人いますか?」
罪悪感はあったが、みんな乗って来るだろうとそう思ったのだが――。
「あー……ワタシ無理かもです。運営の方に関わんないとなんですよ」
「……そうなの? なんか意外かも?」
「えへへへへ。ま、まぁ準備も結構手伝っちゃったし、仕方ないです」
残念だけど、レイナさんも頑張ってたし仕方がないか。
「じゃあ桃山君は?」
今度は桃山君にそう振ってみると、彼は血の涙でも流しそうな苦悶の表情で、答えを絞り出した。
「……グググっ! 拙者も……拙者もめっちゃ行きたいんでござるが、家族が見に来るんでござるよ……」
「あ、ああ、そうなの? そりゃあ外せないね」
「そうなんでござるよ……忙しい人達なんでござるけど、来ると連絡が……」
うーん、それはタイミングが悪かったか。
いや、タイミングはずっと悪いんだけども、そういうことなら仕方がない。
「……ちなみに浦島先輩は?」
最後に浦島先輩に振ってみると、先輩は非常に軽く思い切りがよかった。
「私? イクイク、イベント。日帰りだよね? バッチリ調整しておく!」
「う、浦島せんぱぁい……もちろんですとも! 日帰り、送迎ありです!」
「マジで? 助かるー」
なんかめちゃくちゃホッとしていて自分でもビックリしたよ。
そしてまさかの半分脱落は驚きの結果だった。
だがそれが当然か。
ウゴゴゴゴと悩まし気に身もだえるレイナさんと桃山君を見ているとちょっと気の毒にもなるけども、こうなったら開き直って、全力で楽しんでくる所存だった。




