第381話急な連絡
カフェでノートパソコンを開き、コーヒーを飲む――というのは僕もぼんやり憧れがあった。
だが現実はそうはいかない。
僕のような小心者は飲食店での長時間の作業なんて、気が咎めて結局落ち着かないだろう。
しかしそんな僕でもお客のいないマイカフェであれば話は違った。
だがこんな贅沢で穏やかな時間も、もうすぐ終わりそうだと僕は感じていた。
「……ダンジョンの中もだいぶ慌ただしくなってきたもんだね」
なんとなく口を開く。
店員以外誰もいない店内で答えるのは、もちろん頭の中の相棒だった。
『そういう方針でやって来たんだから当然だろう? とはいえテコ入れの手間を考えると、遅すぎるくらいだ』
「そう? ……いや、そうか。無理言って連れて来た人以外は、まだここにも到達してないもんね。まぁ罠もモンスターも弱くなったわけじゃないんだから仕方がないのかも」
いくらか情報が更新されたからといって、そううまくはいくはずはない。
ただ、個人のレベルを考えると、そろそろ自力で生徒会の人辺りはここまでたどり着いてもおかしくないところまで来ていると思っている。
「いや……うちのクラスもミアさんがいい発破になってると思うんだけど」
『……節穴もいいところじゃないか?』
「おや? 攻略君。彼女の事は褒めていたのに辛辣だね」
攻略君は他の生徒に対して当たりが強い――というか、当たれないからこそ不満が溜まっているんだろうが、節穴とは痛烈だった。
ミアさんからは、最初こそロックオンされていたが、クラスの評価を調べてみたのだろう。
月読さんやハバキリ君辺りが目を引いた今は、完全に僕からロックが外れていた。
これは情報の出所を分散させるという、僕の思惑通りに事が運んだということなのかもしれない。
だが攻略君に言わせれば、釈然としないようだった。
『そりゃあ、ある意味コントを見せられている気分だよ。彼らは、問題の答えが目の前にあるのに、ものの見事に素通りしていくからね』
攻略君の物言いに、僕は思わず苦笑する。
予想は立っているはずだけど、よほど細い確率の上で、僕はいま平和でいられるようだった。
「別に教えて回っていたわけじゃないんだから仕方なくない? あくまで受けの姿勢は崩してないわけだし」
『……まぁね。教える義理もないという話でもあるか。今でも君も何かと忙しいようだしね』
「そうかな?」
……そうかも。
カタカタとキーボードを叩き、僕は今日上げる予定の動画を編集してゆく。
そして、コメントのチェックをすると書き込みが増えており、相変わらず「セントエルモの灯」さんが、熱心に書き込んでくれているようだった。
「順調みたいで何よりってところかなぁ。お、なんかDM来てるな」
これは珍しいと、内容をチェックし……僕は考え込んで動きを止めた。
「攻略君……どうやら本当に忙しくなりそうだよ」
『ああ、そうだろうとも』
メールの送り主は――最近連絡を取り合っている、ユグドラシルの店長さん。
内容は、コスプレイベントのお誘いだった。




