第374話情け容赦ない副会長の蹂躙
「副会長……こんなところで一体何を?」
生徒会員の一人が、声を絞り出す。
そんな怯える彼に対して、如月副会長はあまりにも起伏なく答えた。
「視察。あなた達が何かしていると聞いて、様子を見に来た。あなた達は今、生徒会室で書類作成をしているはず。こんな所で何をしているの?」
「そ、それは……」
「端的に答えて」
ぴしゃりと言われ、うぐっと口ごもった生徒会員は、しかし覚悟を決めて口を開いた。
「我々は……得難いパートナーを得ました! もっと彼女達のことを知りたい! そして彼女達がより住みよい環境を整えてあげるために私は全力を尽くしたいと――」
とても熱のある語り口でエルフへの愛を語る生徒会員は非常に綺麗な目をしていた。
如月副会長は持っていた杖で彼の脳天を一撃した。
「……っ!」
ドシャリと崩れ落ちた彼に、僕すらギョッとした。
「……えぇ? なんで殴りました?」
「長い。あとちょっと気持ち悪かった」
えぇ?
暴君だ。暴君がいる。
気を失った生徒会員を脇にどけた他の生徒会員達は今の一撃ですっかり動揺していた。
「だ、だめだ! 話が通じる相手じゃなかったんだ!」
「生徒会長ならともかく副会長だぞ! 最初から分かっていたことだ!」
「……心外」
プンプンと如月副会長はちょっと怒り気味である。
だが生徒会員たちは一旦はひるんだものの、まだ折れてはいなかった。
そしてよくない方向に覚悟を決めてしまったようで、一人は如月副会長を睨みつけた。
「……相変わらずの傍若無人ぶり。しかしそれが通用したのは昔の話だ!」
「! 班長! まさか!」
「そのまさかだ! 我々にはエルフさんがいる! そして、彼女達の助力で強大なモンスターと戦い続けてきたはずだ!」
「今や……俺達の方が実力は上ってことか!」
「そうだ! 気合いを入れろ! ここで俺達は理想郷を手に入れる!」
叩きつけられる怒声に、如月副会長の目が、スッと細まった。
「……そう。まずはお仕置き」
「……っ! やれるものならやってみろぉ!」
自然に戦闘に突入する感じは、どうやら副会長の思惑通りっぽいけど僕はどうすればいいんだろう?
生徒会員達の苛烈な叫びは伝播して、無数のエルフがそれぞれの武器を片手に飛び出してきた。
人間よりもはるかに高い魔力適性が売りのモンスターは魔法を意志を持った精霊の様に操る。
生徒の間では見たこともないほど強力な風魔法が一斉に放たれ、手加減なしに僕らに殺到したが――。
「……アンチマジックフィールド展開」
短く如月副会長のコマンドで、ユニコーンゴーレムが青く全身を輝かせると、飛んできた魔法は一瞬で力を失い、まるでなかったかのように霧散した。
「……はぁ?」
愕然とする周囲の視線の中、ほぅと如月副会長のため息だけが響いた。
「……眉唾だったけど、魔法が消えた。なるほど、これはいい」
アンチマジックフィールド。
それは近接戦闘補助のために搭載した、魔法を無効化するユニコーンゴーレムの防御フィールドである。
時間にして3秒ほど。一定範囲内の魔法を無力化する。
なお使う魔力も膨大なため、ここぞという時に使う切り札だ。
初手から切るとは思い切っているが、その効果は抜群だった。
自慢の魔法を完全に無力化され、エルフ達が怯んでいる。
そしてその隙を如月副会長は見逃さない。
「捕獲ネット発射」
ブオン。
ユニコーンゴーレムが低く唸り、放たれた金属製の網がエルフに向かって飛ぶ。
次々に射出される捕獲ネットはエルフ達を瞬時にからめとり、激しく電撃が流れてエルフを無力化した。
「あああ!」
「な、なんだそれは!」
「私の相棒。……ファイアーボールヘッドさん? ちょっと来て」
「はい? なんです?」
「先に謝っておく。……ゴメン」
「え?」
なぜか謝られたかと思ったら、射出されたワイヤーで縛られた。
そしてユニコーンゴーレムボディにそのまま固定された僕は身動きが取れない。
「えぇ?」
動揺した僕だが、しかし走った動揺は他の生徒会員達の方が大きそうだった。
「……副会長? なぜこんなことを?」
僕は訊ねる。すると如月副会長は少し悲しげな表情で告げた。
「どうやら、彼らは君を攻撃することを避けているみたい。さっきの魔法がそうだった」
「……なるほど? 本当に? 確証は?」
「半信半疑? 不意打ちは成功したけれど、全員を相手するのはキツイと見ている。協力して? 見ていればいいから」
「……協力ってなんなんでしょうね?」
その後の話は当然聞いてはもらえない。
ブシューと鼻から熱い廃熱を吐き、ユニコーンゴーレムは動き出す。
「「「ファイアーボールヘッド氏ぃ!!!!」」」
なぜか、生徒会員の方々が大慌てで叫んでいたけど、エルフのテイムに恩義を感じてくれているなら僕は嬉しいよ。
正直、彼らを応援したい気持ちもあったんだけど、この後の流れはもう決まっている節があった。
「殲滅」
一際、低い振動が背中越しに伝わって来る。
タテガミから光が迸り、額のドリルが激しく回転していた。
後ずさりする生徒会員たちの生還を、僕は張り付けにされたまま、祈る。
だが祈りもむなしく、ユニコーンゴーレムは頭を振り回し、ドリルから発生した光の竜巻がのたうつと、彼らはなすすべもなく光に呑まれた。
「―――ちくしょぉぉぉぉぉ!!!」
そして僕がいることで攻撃すらも封じられてしまったのは大変申し訳ないとしか言いようがなかった。
「ぐ……。卑怯な……セントエルモの灯に祝福をぉぉ………」
そして数分後、ガクリと力尽きた最後の生徒会員が何か断末魔を遺していたけど、最終的にエルフ達を守るために自らの身体で躍りかかっていた彼らの雄姿はあっぱれだった。




