第372話彼らの野望
「何かコソコソしているのは間違いない。だけど何をしているかは本当のところがわからない」
如月副会長は腕を組み、淡々とそう説明した。
「そうですねぇ……」
一体、彼らは森の中で何をしているのか?
聞いた情報をそのまま信じれば、エルフの集落に居を構えようとしているらしいんだけど、どう考えても過酷としか思えない。
「ここ、エルフのいる階層なんですよね。エルフは人型のモンスターだし、生息地を拠点にしようとしているなら、人間向きではありそうですけど」
「それでも普通は無理。でもダンジョンでなにかすること自体はかまわない。長期滞在の許可は出ているし。だけど生徒会の業務に支障が出るのはいただけない。引き締めが必要」
「そんな許可なんてありましたっけ?」
「……君は、データベースをしっかり確認すべき。この学校は授業よりダンジョン探索の方が重視されてる。ダンジョンは広いから後々のことまで考えて出来た決りみたい。極端すぎる話だけど、許可さえとってダンジョンに潜っていれば、授業に参加していなくても卒業できる」
「……! そうなんですか!?」
僕は思わず興奮して声を上げていた。
「……なぜそんなに嬉しそうなの? 普通はそっちの方が大変」
眉間に皺を寄せて訝しげにしている如月副会長だが、そんな重要情報をさらっと出されてしまってはとても心穏やかでいられるわけがなかった。
「いや、でも……! 50階のセーフエリアに住んで、毎日カフェしてたら卒業できるんですよ!?」
それを聞いた如月先輩は目を大きく見開いて、軽く震えた。
「……っ! いや!……それはさすがにマズい……。とんでもない誘惑をいきなりしないで欲しい。心が折れそう」
「……すみません」
そうかー。いわゆるダンジョンに潜ると授業を免除する制度とかあるってことか。
後で先輩の言う通り、データベースをきちんと確認しておこう。
ひょっとすると、今回問題になっている彼らも快適にダンジョンで生活する場所を見つけてしまったということなのだろうか?
だとしたらその誘惑に屈してしまうのもわからない話ではなかった。
「この階層は少しばかり深すぎるような気はしますけどねぇ」
「……元の実力的では厳しいはず。でも今はエルフがいる」
「ガチャも引いているなら精霊もですね……。根性で留まって、協力して狩りをしていれば、そのうち適応はできそうです。まずレベルは急上昇していると思った方がいい」
如月先輩は頷き、密林を彷徨うことしばし。
ようやく人の気配を感じて、僕と如月先輩は身を潜めた。
そこで発見したのは、大きな木々にツリーハウスがいくつもぶら下がっている集落で、想像以上にファンタジーな光景に、僕は目を輝かせた。
「まさにエルフの集落になってる……っ!」
「……これはなかなかいい」
なんということだろう。さすが彼らを好んで使役するエルフ好きだけあって、いい趣味をしている。
エルフの拠点を改良して住めるようにしているというのは、言葉のままの意味だったようだ。
僕は感心して「こうきたか」と唸り、如月先輩はなるほどと手帳を取り出して、何やら猛烈に書き込んでいた。
「先輩? 何書いてるんです?」
「……今回、長期探索をしているメンバーの査定」
「……そんなのあるんですか?」
「ある。しっかり記録しておかないと、来年以降の責任者を決められないでしょう?」
「……大変ですね。生徒会って」
「割と。めんどくさいけど。結構楽しいよ?」
「……行きませんからね?」
「……それは残念。じゃあ、なにをやっているかはわかったから、適当な誰かを捕まえて詳細を吐かせよう」
「そんなんでいいんですか?」
「最初の調査は、尋問のきっかけが欲しかっただけだから」
なんかおっかないこと言いますね、如月先輩?
この先輩、どうやらやる時はやる人である。
だが僕らが人を探していると、集落の入り口が何やら騒がしいことに気が付く。
何か起こったのだと察した僕らは再び潜伏モードに突入した。
入り口を覗き見ると、数人の生徒の足元に三人分の人影が縛り上げられて転がされているのを発見した。
「班長! 怪しい奴らを捕まえました!」
「ご苦労! まさかこんな階層まで来ている生徒がいるとはな……。無謀な奴らだ。しかしここの存在を吹聴されては困る」
「……そうですね」
「そうとも! ここは我らが指導者から与えられた力を使い、ようやく作り上げた理想郷だ! 我々は、エルフさん達の過ごしやすい環境で毎日楽しく暮らすのだ! 何人たりともこの聖域を犯すことまかりならん!」
「「「おおー。流石班長!」」」
パチパチと拍手が巻き起こり、披露される衝撃の事実。
「……」
そうだろうそうだろうと、妙に綺麗な表情の班長さんを遠目に眺めながら、僕はきゅっと口を横に引き結んだ。
――カキカキカキカキ。
そして僕は横目で如月先輩を確認する。
じっと彼らを観察している彼女は無表情のまま、ペンを走らせる手が止まらない。
この先輩、やはりやる時はやる人のようだった。




