第370話名も知らぬ先輩の実力
「私のエルフは少々凶暴だ。……逃げ出すなら今の内だぞ?」
「はん! ただの耳が長い女の子でしょ? 何が怖いの?」
「……そうか。そう思うならさっさとかかってこい」
「言われなくても! 覚悟なさい!」
ミアさんは杖を構えると、空気が一気に凍てつき、周囲の木々が白く凍りついた。
ミアさんの圧倒的な魔法力を見せつけるパフォーマンスに、本来であれば相手は実力差を痛感して引き下がるはずだった。
だが生徒会の先輩は鼻で笑って、全く余裕を崩さなかった。
「ほぅ……やるじゃないか。だがこの程度じゃ、かき氷もできないんじゃないか?」
クスクスクス。
先輩と傍らのエルフが笑い、ミアさんの目つきが鋭く細まる。
「……っ」
その瞬間、割と頻繁にヤバい殺気の中でもまれている僕にはわかった。
ミアさんの戦闘のスイッチが入った。
寒気がするような鋭い空気は一瞬で全員に伝わって、コール君とブロック君はすぐさま距離を取った。
「おい! ほんとにやるのか!」
「当然でしょう? 手加減はするわ!」
「そういう問題じゃないだろ……。ハァ……、来て早々面倒ばかり起こすな、ミアは……」
「かき回さないでどうすんの? あのサブカルチャー同好会とかいう連中の尻尾を掴むために、わざわざこんな所まで来てるのよ? まずはとにかく刺激して、あぶり出さなきゃ始まらないでしょうが!」
ミアさんは全く引くつもりはなく、杖を一振りするとずらりと氷の槍が出現した。
槍は一斉に放たれて、敵に向かって真っすぐ突き進むが、エルフの女がその手を差し出すと魔法そのものが進路を変更し、標的に届くこともなく分解して見せた。
それはあまりにも一瞬で行われた。
しかしミアさんは自分の魔法を奪われるというありえない現象に、驚きの声を上げた。
「は!?」
キラキラと輝く風になった魔法はエルフの周囲をクルクルと回る。
よく見れば一緒に小さな水の精霊も浮かんでおり、まるでエルフと共に舞っているようだった。
それを見た安全圏へ退避していたコール君とブロック君は、ため息とともに呟いた。
「「う、美しい……」」
「やかましいぞ男ども! 何もしないならせめて黙ってな!」
ミアさんは完全に奪われた魔法の支配権を取り返そうとするが、残念ながらそれは叶わない。
「!」
気が付けばキラキラ光る輝きはミアさんの周囲を取り囲んでいて、一瞬で氷の柱が足下から突き出ると、ミアさんの身体を空高く吹き飛ばした。
「ぎゃああああ!」
宙高く吹き飛ばされたミアさんを、慌てて受け止めたのはコール君だったが、勝敗は誰の目にも明らかだった。
「……嘘だろ? あのエルフ、美人なだけじゃなく魔法もすごいな!」
「アレは本物のエルフか?……この強さは――最高だな!」
「……おい貴様ら?」
悔しげに喉の奥から声を出すミアさんは、まだかろうじて、意識を保っていた。
しかし最早先ほどの勢いはない。
「これで終わりかな? さてお引き取りいただこうか」
「ぐぅ……撤退、するわよ」
ミアさんは唇を噛み切りそうなほど悔しそうだったが、すぐさまそう指示した。
彼女の実力なら、今意識を保っているのがどれだけ手加減された結果なのかわかっているはずだった。
逃げ出すミアさん達を黙って見逃した生徒会の先輩はとてもスッとした顔をしていた。
「セントエルモの灯に祝福を……君の魔法は悪くなかったと、この子もそう言っているぞ」
なんかキメ台詞っぽいことを言っていたけど、生徒会の先輩は実際、圧倒的にキマっていた。




