第364話これは戦略的撤退である
「なんなんだろうね? 中途半端な時期に留学生とかギャルゲーかと。……意味が分からない」
「……そんなことあるんでござるか!」
「あったねぇ」
僕らは移動しながら、最下層の魔王城を進んでいた。
まずは一拍おきたい。
舞闘祭がんばろー! っという空気もそうなんだけど、まさかの留学生、そしていきなりのアシスタント指定は想定外というか、僕のキャパシティを大きくオーバーしていた。
そしてただの留学生だとは思えないタイミングでの来日は、ちょっと本気で探られてる感じである。
「……ダンジョンの魔王城が一番落ち着くとか、おかしいよね?」
「そうでござるなぁ……でもここ割と夢の空間でござるよ?」
「それはそう」
桃山君の言う通り、ずっとここに居たいまであるほど、いい場所である。
あらゆる書物が存在し、僕ら以外誰も入れないお城とか、パラダイスでない訳がなかった。
「でもまさか、エキスポで戦った本人が、自ら留学ってすごいスピード感でござるよね」
「そうなんだよ……。僕もどんな顔をしてクラスメイト面をしたもんだかわからない」
「ワタヌキ氏は、大暴れでござったからなぁ」
まぁ同一人物だとは見られていないみたいだが、関係者だとは間違いなく思われていて、バレるのも時間の問題なんじゃないだろうか?
この状況を、桃山君はまずいと判断したようだった。
「じゃあ、今度の舞闘祭は欠席するんでござるか?」
それも一つの手だろうとは僕も思う。
だが僕はあえて横に首を振った。
「いや――もういっそ、真剣にやってみるかなって、舞闘祭」
「え?」
そんなことを何となく呟いてみると、桃山君は目を丸くしてこちらを見ていた。
「意外そうだね、桃山氏?」
「そりゃあ、そうでござるよ。ワタヌキ氏、あんまり目立つのは好きじゃないでござるよね? それなのに、誰かから探りを入れられていそうな時に……」
「そうだね。でもね……なんかこう、そろそろ存在感示しておくのもいいかなって?」
「……っ! マジでござるか?」
「そ、そうだよ? ……、いや! ぼんやりそう思っただけで、他に何かあったら全然そっちを優先するつもりだけどね?」
ダンジョン探索も行けるところまでは行っているわけだし、攻略君情報の検証も進んでいる。
そういう意味で注目が集まっているのなら、お披露目する舞台として、悪くはないと僕は思った。
ただ、ぼんやりした提案だということは桃山君にも伝わっていた。
「……まだ覚悟が決まっているわけじゃないんでござるね」
「そりゃあね。……でも、ちょっと頑張ってるところを見せても、大丈夫かなぁ?」
何となく桃山君に訊ねてみる。
すると桃山君は一旦言葉を呑み込んで、慎重に答えた、
「全部さらけ出すのはちょっと……。でも! 拙者は賛成でござるよ!」
「そう?」
思ったより力強く同意されて、今度は僕が目を丸くした。
「そうでござるよ。常々ワタヌキ氏の評価は不当に低すぎると思っていたんでござる!」
拳を握り締め、声を弾ませる桃山君は僕の待遇に胸を痛めてくれていたらしい。
いや、低すぎるってことはないと思うんだけど……たぶん。
でも確かに今の評価が、何かあるたびに混じってくるクラスメイトの殺気に無関係とは思えなかった。
「……まぁねぇ」
「それで? どうするんでござる? そのまま戦って無双するんでござるか?」
「いや……なんで無双?」
でもその物騒なアプローチはいただけない。僕としては今の評価だって大切にしたい部分はあった。
「うーん。今の僕のイメージから考えたんだけどさ。ほら、僕にも唯一、良い印象が付いているジャンルがあるんだよ。工作系なんだけどね?」
「……ああ。そう言えばいろいろ作ってたでござるね」
「……そう。だから、この機会に、とっておきの装備をお披露目するっていうのはどうだろう?」
そして僕には、今まさにみんなで作ったとっておきが、完成しつつあった。
「装備……まさか!」
桃山君は小首をかしげていたが、ゆっくりと目を見開き、何かを察したようだった。
「そう、そのまさかだよ……中身が完成したんだ。桃山氏にも見てもらいたくってね」
「!」
僕は頷く。
我々の合作。ゴーレム技術の集大成はきっとどこに出しても参加者の度肝を抜いてくれるに違いない。
きっと「新キャラ」としてもすぐにファイアーボールヘッドをも超えるインパクトを出せるはずだった。
そして僕らは、厳重に管理された一室に足を運んだ。
重厚な扉を開けた先――鎮座しているのは、スキルの粋を尽くして開発したゴーレムの内部フレームだった。
「……!! こ、これは……動くんでござるか!」
「動くに決まっているだるぉ? 桃山氏ぃ?」
興奮する桃山君に、僕はニンマリと笑う。
ついつい巻き舌気味に紹介すると、そんな僕の様子から、桃山君はこれまた何かを察したみたいだった。
「……いろいろ言っていたでござるけど、ひょっとしてこれをどこかで自慢したかっただけでござるか?」
「そうともいう? ……眺めるだけじゃ、さすがにもったいないかなって」
「……それは、そうでござるなぁ」
間違いなくこのゴーレムは僕の自信作だ。
鉄巨人をベースにした、聖属性特化型の上位ゴーレムはこだわりの搭乗型である。
そしてここに、桃山君達が全力で製作している甲冑が付くと……そんなの絶対楽しくなるやつなわけじゃないか?
それに……教室はなんだか居心地が悪そうだし、しばらくはこいつの開発に集中するのも悪くない。
それは逃げ? 確かにそうだ。僕は逃げている。
しかしあえてそこは目的を見据えた、一石二鳥の戦略的撤退と言わせてもらおう。




