第360話ちょっとお裾分け(side:ワタヌキ)
「なんか結構めんどくさいことになってましたね。でも、やっぱ強いなあの亀……」
昔話の亀の常識はダンジョン内では適用されないらしい。
そしてかなり倒す手順が面倒なモンスターでも、的確に指示に従って対処できる頭の良さもあるように見える。
俊敏な動きと単純なパワーはもちろんだが、水の魔法も使えて、甲羅に籠れば驚くほど硬い。
僕の印象は、なかなかヤバイ人型亀って感じだった。
「やっぱり動きのキレが半端じゃないよね。亀なのに」
だが浦島先輩がそう言うとレイナさんは首を傾げる。
「亀だからじゃないですかね?」
「……うーん。その辺りはすごく難しいところだねぇ」
亀がのろまか俊敏か? こればかりは諸説あるだろう。
触れてきた媒体の違いで決定的なイメージの差があるのは、亀がいかに愛されているモチーフかという証拠である。
「ねぇねぇ、ワタヌキ氏? この亀……レベルアップしたら巨大化して火を吐いたり派生があったりするんでござるか?」
期待を多分に含んだ質問だが、桃山君はいい所に気が付いた。
「あったら絶対すごい奴だ……」
「そうでござるよね? そういえば改造できるって話じゃなかったでござるか?」
桃山君が明らかにワクワクテカテカしているところを見ると、期待に胸を膨らませてしまっているようだった。
「……やってみる? でも僕の手で巨大怪獣を生み出すのはちょっと抵抗があるかも」
「……それはそうでござるなぁ」
正直、見てはみたい。
でもなんか最終兵器とかになりかねないデカブツは、一歩立ち止まっていきたい心境ではあった。
中々盛り上がる話題だが、かなり危険な話題である。
こんな時、最終的なストッパーになってくれる頼りになる大人がいたはずなのだが……ちょっと僕は一旦会話を止めた。
そういえば一人足りないなと違和感を覚えた僕は龍宮院先生を探してみると――
「ZZZ」
しかしそこには大量のビール缶に囲まれて、寝息を立てる龍宮院先生がいて、僕らは顔を見合わせた。
「……まぁ食べ物もなくなったし、ここまでですかね」
十分楽しんだし、今日のところはこれでお開きの頃合いのようだった。
散々遊んだので解散し、僕は一旦本日の締めとして売店へ向かうことにした。
素材も沢山手に入って、保存がてらちょっと様子を見に来たのだが――店員の松林君はもうおらず、そこには力つきた美少女がガチャの前に座っていた。
「……」
うーんこれは話しかけづらい。しかし話しかけない訳にもいかないやつだ。
そう思えたのだから、今日の僕はいささか酔狂だったのだろう。
「月読さん?」
意を決して話しかけると、月読さんはまるで魂が半分抜けてしまったような面持ちで、ゆっくりと頭を上げると、僕を見た。
「……あら、ワタヌキ君。まさか会えるとは思わなかったわ」
「奇遇だね。何してんの?」
「……疲れたから座ってる」
「……疲れたんだ」
「……そうなの。新しい階層に挑戦したら、増殖する草に肥料にされそうになったわ。何とか助かったけど……」
「ありゃー」
それはまたハードなダンジョンアタックを経験してきたようである。
僕は聞き手に徹して、相槌を打った。
「そうなんだ」
「そうなの……ちょっと強くなったと思っても、毎回死にかけるの。おかしいわよね? だっておかしいもの」
「……そうだねぇ。アグレッシブな人特有の悩みだと思う」
月読さんはまた壁にぶつかったようで、今日は色々と不満も溜まっているようだ。
まぁそういうこともあるだろう。ダンジョンは過酷である。
「とても心がすり減ったので、ガチャをこっそり一回だけ引きに来たら……天使に止められてしまって途方に暮れていたの……ひどい話だと思わない?」
だけどどこか期待に満ちた目で見つめられても、僕の答えは否だった。
「大変だったんだね――でもガチャはダメ」
「…………ケチ」
「ケチて」
随分単刀直入な月読さんは目が据わっていて、これはいよいよ今日は余裕がないみたいだ。
正直ちょっとかわいそう。
ガチャを引いてもらうのが手っ取り早く元気になるんだろうけど、今回は別の形で励ますのがいいかもしれない。
僕は後で食べようと思って自分用に一枚焼いていたピザがあったことを思い出す。
少し残念だけど、提案としては悪くないと思えて、僕はそれを差し出した。
「ガチャはダメだけど……ピザいる?」
月読さんは一瞬きょとんとした後、力なく頷いた。
「……いるぅ」
そんなに欲しい? ならばいいでしょう。
そういうことならせっかく顔を合わせたのだし、クラスメイトの忌憚のない意見を聞かせてもらうことにした。




