第359話 もはや手遅れ(side:月読)
「このモンスターはまさか! 本当にドラゴンなの!?」
カノンは飛びまわる蜥蜴を見て、真っ先に思いつくモンスターの名前を呼んでいた。
「本当に!? 通販の嘘広告じゃなく!? ありえなくない!?」
「信じられない! 絶対変なのが生まれると思ってた!」
「……どれだけ疑ってたんだ」
動揺は一気に広がるが、肝心のハバキリ君は彼らしくない興奮した様子で断言していた。
「言ったろう? 確かな筋から手に入れたって! 今日からこの子もボクの相棒だ!」
とはいえ姿が見えた瞬間に先ほどまでの何処か自信のなさが消え失せ、比べ物にならないほどに自信に満ち溢れていたのは間違いない。
ハバキリ君もなんだかんだホッとしたようだった。
生まれたドラゴンは、甲高い声を上げて嬉しそうに空を飛び回ると、突然大きく息を吸い込んで、それだけで周囲の植物型モンスターが枯れ落ちていた。
「!どういうこと!?」
天音さんは驚愕していたが、直感的にカノンには精霊経由で何が起こったのか感じ取ることができた。
「……たぶんあの子が周囲の魔力を吸収してる。……あっ! ひょっとして、あいつらの異常な増え方って私達の魔力のせい?」
「そういうことなのか!」
カノンは草薙君の驚きの声を聞くが、たぶんこれが正解なのだ。
精霊も魔法も魔力を伴うものだ。
そしてこの植物型のモンスター達はどういうからくりか、こちらの攻撃魔法を利用して再生や繁殖を行っている。
(……精霊を暴走させなくてよかった)
カノンは内心胸をなでおろす。
わかってしまえば簡単な話だが、解決できるかはもう別問題になりつつあった。
「ってことは……」
「魔力を使わずに伐採するのが答えってことよね……」
「それは……もう無理じゃないか?」
「……そうね」
「断言するなぁ!」
でも、今更そんなこと言われたって、明らかに倒した数の数十倍は増えているし。
カノンは、うねうね動くモンスターの固まりを、うんざりして見上げた。
植物型モンスターはもはや森というよりもツタで編んだ壁みたいになっていて、ただ突破するのも難しそうだった。
だがカノンは打開策を思いついた。
「……ちなみにハバキリ君のドラゴンが、あのまま魔力を吸引し続けるってどうかしら?」
「馬鹿を言うな。生まれたばかりだ。あまり無理はさせたくない」
だが提案したら被せ気味に拒否された。
「……じゃあどうするの?」
「逃げる以外にあるか? そうとわかればもう凍らせるわけにもいかない。ひたすら後退しながら草刈りだ」
その言葉に、全員が黙り込んだことが、内心それしかないと思っていた証拠だった。
「…………そうね」
「……そうだね」
「そうなるかぁ……だけど頑張るしかないな」
そこからはもう、がむしゃらに持っている武器を振り回すだけだった。
ちぎれたモンスターの体液でべとべとになり、慣れない肉弾戦が延々と続く。
そして植物とはいえモンスターだ、相手だってただ切られはせず、気が緩むとツタが体に絡みつき、溶解液の雨が降り注ぐ。
精霊を使わないと切るのも生半可ではないし、下手すればこちらが養分にされかねない。
人生で一番しんどい草刈りは、敗色が濃厚。カノンはゲームオーバーが近づいていることを秒単位で感じていた。
「……っ!」
だがそんな時、新たな4つの影が視界に飛び込んできて、いよいよカノン達は死を覚悟した。
「新手!? 勘弁してよ!」
「さすがに余力は……」
完全に手詰まりかと思われたが――しかし緑のモンスターは襲ってくることはなかった。
それどころか、周囲の植物型モンスターを次々に根元から引きちぎって、あっという間に駆逐すると、来た時同様すさまじい速さで去って行った。
「……」
あまりにも都合が良すぎるモンスターの同士討ちだったが、見惚れる暇もない。
「……チャンスだ! 逃げるぞ!」
草薙君の号令で、カノン達は弾かれたように動き出した。
「一体何が起こったんだ!!」
「アレはカメ?……いいえ、そんなことないか」
「……カメ、だったわ」
なんにせよ、植物型モンスターを謎の亀?が駆逐することを願いながら、カノン達は全速力で切り開かれた道を這々の体で逃げ出した。




