第357話花園の攻防(side:月読)
草薙君の精霊が植物の蔦を食い破る。
だが蔦は無限にも思えるほど増え続けて、いつしか周囲は植物型モンスターだらけになっていた。
「こいつらきりがないぞ!」
「……精霊達! 行きなさい!」
カノンは白玉だけでなく他の精霊達にも攻撃を命じたが、やはりいくら粉砕しても数が減る気がしない。
それは植物の常識を逸脱した再生速度で、カノンは悔しさに任せて奥歯を噛みしめた。
「こんなモンスターがいるなんて……!」
苦々しく呟き、忌々しくそいつらを睨んでいるうちに―――カノンの中でプチンとなにかがキレた。
「あっ……めんどくさい。……全部焼いていい?」
「めんどくさくなっちゃってんじゃないわよ! あんたの全力洒落にならないからやめなさい! 味方も危ないのよ!」
「でも……何とか逃げてくれればどうにかなるんじゃないかしら?」
するどいツッコミは天音さんである。
ただカノンとしては聞き入れるべきか否か、悩む。
見ての通り、生半可じゃ押し負けそうなのは間違いない。
精霊をとにかく大量に呼び出して蹂躙するのが一番冴えたやり方なんじゃないだろうか?
精霊有識者の話によると、カノンはガチャで引いたすべての精霊をテイムした状態にあるらしい。
精霊使いになった影響でそれは正式なものになったようだが、カノンのレベル不足ゆえに、そのすべてを自在に操るというわけにもいかないようだ。
だがその気になれば限界を超えた精霊を呼び出すこともできそうな気がする。
そしてそれはなぜか、テイムした覚えもないものも含めて、大量にだった。
まぁまったく制御はできないのが問題なんだけれども。
「そんなわけないでしょ!? じゃあせめて退路を確保してからやって!」
「みんな精霊を持っているんだし、やっぱりいけない? ダメ? ……そう」
天音さんが必死に止めるから踏みとどまったが、天音さんのツッコミもむなしく、カノン達への試練は続く。
モンスターの花が咲き乱れることによって巨大甲虫のモンスターまで、引き寄せられてやってきたのだ。
「うそでしょ……!」
「でっかい……ガチャの甲虫にそっくりだわ。クオリティ……高かったのね」
「なんて?」
いえ、なんでもない。
牙のあるカブトムシみたいな化け物虫は、まずは花の一本に襲い掛かったが、こちらに気が付くのも時間の問題に思えた。
「これは……もう精霊大行進しか!?」
「あんたそれやりたいだけなんじゃないでしょうね!?」
「そ、そんなことないわよ! ほら! 絶体絶命でしょ!?」
カノンはちょっと図星を突かれて動揺したが、事実大ピンチである。
精霊達はカノンの焦りの感情に反応して爆発寸前だった。
だがその時、周囲に冷気が漂って、凍り付いて行く植物型モンスターを見て、カノンと天音さんは、一瞬で冷静になって振り返る。
そこには氷の魔法を操る白い蛇と、連携するハバキリ君の姿があって、彼は白くなった息をこぼすと静かに言った。
「落ち着いてくれ……冷静に」
「「……」」
黙ったのは、何も言葉の圧のせいだけではなかった。
ハバキリ君の身体からあふれ出る魔力があまりにも力強かったからだ。
ほんの少し前までならあり得ないレベルのそれは、感心するより先に困惑してしまうほどだった。
「こいつらトリッキーだが大したモンスターじゃない。対処法さえ工夫すればどうにでもなる。見ろ。ボクの加減した魔法でだって倒せるんだ。配分を考えれば退路を作ることは可能だ。……カナタ! 倒しきるのはもう無理だ! 退却しよう!」
「……っわかった」
「よし。じゃあ……行くぞ!」
彼の言葉にパーティ全員が頷く。
ハバキリ君はそれを確認すると周囲を一気に氷結させた。
しかしハバキリ君はあまりにも大きな魔力で、真っ先に目を付けられてしまったようだ。
ブブンとホバリングして飛ぶカブトムシは、ハバキリ君に襲い掛かった。
モンスターは氷結魔法をものともせずに角で彼をカチ上げる。
「……うお!」
咄嗟にハクジャがカブトムシの足を一本凍らせて噛み砕いたが、突進自体は止められなかった。
「ショウ!」
草薙君は叫び、カバーに入ろうとしたが間に合わない。
更に空中に跳ね飛ばされたハバキリ君を狙うのは、もう一匹新たに飛び出してきた巨大クワガタだった。
「!」
ああこれはマズイ。
ひとまず、カノンは精霊を暴走させようと魔力を溜めたのだが――そこで跳ね飛ばされた拍子に宙を舞ったバックパックから、何かが飛び出して、逆に襲い掛かるクワガタを頭から真っ二つに切り裂いたのを、カノンは見た。
「「「「え?」」」」
状況を一切把握できなかったのは、ここにいる全員だった。
「……っ!」
九死に一生を得て受け身を取りながら地面に落ちたハバキリ君は、傾いたメガネを上げて、それを見る。
完全に両断されたモンスターの上には随分と可愛いサイズだが、皮膜で覆われた翼とサファイアのように輝く鱗を持ったモンスターが勝ち誇ったように一声鳴いた。
「キュィー!」
「はわぁ!? う、生まれた!」
「……はわぁ?」
いつも冷静なハバキリ君からは想像できない高めの歓声が聞こえ、カノンは思わず二度見した。




