第356話亀の上で(side:ワタヌキ)
「ふぅ! ……なかなか頑張った」
僕は準備万端整えて、亀の上でみんなと合流すると、再度窯で大量のピザの仕上げに奮闘した。
そして今、追加のピザは全員に行き渡り、巨大モンスター亀の背中を立派なリゾートへ変えたのだ。
ビーチチェアに寝そべる龍宮院先生はサングラスの奥から海を眺め、トロピカルなフルーツの添えられたドリンクを飲んでいる。
その横に控えているのは、巨大な扇で先生を仰ぐ人型の亀だった。
「うんうん。いいね、それくらいだ。ああ、クーラーボックスのドリンクがそろそろ冷えているはずだから次はそれをいただこう」
なんとも……大人な楽しみ方である。ちょっと落ち着いた様子は見習いたいものだ。
レイナさんはご機嫌に自分用のピザとフライドポテトを確保して、冷たいコーラをジョッキで飲みながら、陽気な曲を海に向かって奏でていた。
「ぷっはー! 最高です! 体重制限クソくらえですね!」
豪快だが海にあわせたBGMはとても心地いい。
僕は自然と食事スペースに足が向いたが、そちらはそちらで大いに盛り上がっていた。
大きなテーブルには、大量のピザとポテト共に炭火のグリルで次々焼き上げられていく海の幸がどんどん積み上がってゆく。
それをものすごい勢いで平らげているのは浦島先輩だった。
「うっまぁ! 悪いね君達! 魚まで採ってきてもらっちゃって!」
海産物を調達して来ているのは、もちろん今テイムされたばかりの亀達である。
「お疲れさまでーす。終わるの早かったですね」
「お疲れさまー。いやー悪いね料理まかせちゃって」
「いえいえせっかくこだわって作ったんで、最後までやらせてくださいよ。どうです? 味は?」
「なんていうか……最高だね。この日のためにチートディを合わせて本当によかった……あの窯、火を起こすのマジで簡単だったよ。海の幸も実にいいよ。シーフードのやつも作らない?」
「すぐに仕上げに入れて助かりましたよ。 まだ生地は余ってるんで捌いちゃいましょうか!」
「……お願いしていい? いや、素晴らしいよワタヌキ後輩」
浦島先輩は、大変満足そうに丸焼きのダンジョンサイズのロブスターをバキリと殻を割り、湯気の上がるそれをブリンと齧りながら、食事を再開した。
そして桃山君はなぜか、赤パーカーとガスマスクを死守しつつ亀に自慢の刀を披露していた。
「刀に興味があるんでござるか? ウーム、中々に見どころがある……」
「何やってんの桃山氏?」
「おお、お疲れでござるよ。ワタヌキ氏。いや、亀達が刀剣に興味津々なようなので見せていたんでござるが」
おお、すでに武器に興味津々とは、亀達は将来有望である。
ただ、亀と戯れる桃山君を見て、僕が気になったのは桃山君の恰好の方だった。
「しかし……さすがにマスクは外してもいいんじゃない?」
一応水に入れるパンツは装備しているものの、鮮やかな赤いパーカーとガスマスクはいつも通り暑そうだ。
だけど桃山君は、若干困り声でシュコーっと音を立てていた。
「まぁ、なんとなく? そういうワタヌキ氏も。頭、燃えてるでござるよ?」
「まぁ、……なんとなくだねぇ。 でもほら僕はアロハシャツ&ボードショーツ&ビーチサンダルでキメて来たから。前回はネタ装備だったからね!」
「……その恰好も十分ネタに走っていると思うんでござるが? というかダンジョンとは思えんでござるなぁ!」
桃山君が信じられないとしみじみ言うが、まったくそれはそうだった。
きっとパラメーターは陽気さとか軽さなら高そうな装備は、学校関係者が見たら気を失うに違ない。
「まぁね。でも攻略終えた階層なんてこんなもんでしょう? 特にここはこの亀達そのものが初見殺しトラップみたいなところあるし」
「そうでござるね……でも油断しすぎるのは怖いでござるよ?」
桃山君はフルリと震えて、自分のガスマスクに手を添えていた。
ついこの間、油断で死ぬ目に合った桃山君はまだちょっと落ち着かないみたいだった。
まぁ色んな意味で面白い格好の僕らなのだが、そんな僕らの、ガスマスクと燃える頭を、浦島先輩は喜んでいた。
「うんうん。二人ともそこまでコスプレにこだわってくれるとは、良い傾向だよ。素晴らしい」
浦島先輩は男子のコスプレもいいものだと、上機嫌で頷いていたが、そう言われると先輩達……というか女性陣の服装は、極めて常識的な普通の水着に見えた。
「そういう先輩達は水着をもっとコスプレに寄せないんですね。水中装備の案出しの時には攻めた水着を出していたのに」
スリングショットやら、スクエアカットのビキニやらも着てみたいなんてすごいことを言っていた気がする。
まぁ実際やられたら目のやり場に困るデザインなんだけれども、この環境ならやるかもと思っていた。
だが浦島先輩は分かってないなと肩をすくめた。
「いやいや、ああいうのは話のネタにするのが楽しいんだよ。誰だって密かにちょっと際どい水着を着てみたいなって思ったりするでしょ。 でも、“着てみたい”と“着て見せたい”は別なんだねぇ。男子だって……そうだな、エグ目のカットの競泳水着とか、褌とか、廻しとか、機会があれば着てみたいんじゃない? 授業で指定されたら案外楽しんでムダ毛の処理をしちゃうのが想像できるのでは?」
妙に具体的な例えを出されて、僕は曖昧ながらも頷いた。
「……なるほど?」
「あー……でもそれで嬉々として人前に出たいかというと、そんなことないでござるね」
「まぁそういうことよ。その辺りの塩梅はさして男女でも差はないんじゃなかろうか? まぁ? 私としては見せるのも全然ありだけどね?」
ニヤリと笑う浦島先輩は、強気の姿勢でノリが良い。
しかし水着に関して、確かに浦島先輩はあんまり抵抗は無さそうだった。
そしてそれは……今となっては僕も少々肝が据わっていた。
「そうですね……確かに褌姿を一度披露した僕としても、全然ありと言わざるをえない!」
「……ワタヌキ氏、マジでござるか?」
なんだい? かつて褌を提供した仕掛け人が目を逸らしたのは一応確認しつつ、まぁスルーしてあげるとしようか。
しかしコスプレといえば。みんなバッチリ亀のテイムに成功してくれたんだから、正直、僕ら自身よりもそっちの方が気になった。
「まぁでも僕としては、最初にあいつらをコスプレさせたいですね」
「確かに」
「実に魅力的なプランでござるね」
浦島先輩は深く頷き、桃山君も僕の提案に同意する。
視線の先では、テイムした亀達がピザで乾杯していて、僕らは実に満足してそいつらを眺めていた。
「何だろうなぁ……亀がピザ喰ってるよ」
「そうでござるなぁ……アリなんでござるか?」
「モンスターだし、基本雑食でしょう? 亀がピザ食べちゃダメだなんて絶対言えないし?」
それに誰も困らない。それどころか喜ぶ人はきっとたくさんいるだろうという確信が僕にはある。
そしてこうなったら一つ、どうしてもやってみたいこともあった。
「……とりあえず見込みのありそうな子を見繕って、任せてもらっていい? ちょっとやってもらいたいことがあるんだよね」
不敵に笑う僕に、桃山君と浦島先輩は顔を見合わせる。
「……おや、何するつもりでござるか?」
「まぁ……いっそロマンに振ってみようかなって」
「えぇ……期待しちゃう前振りだねぇ」
「そうでしょう?」
おそらくその期待には応えられますとも。
しかし今日の所は難しいことは置いておいて、僕もそろそろ落ち着いてピザを食べたい。
なんといっても力作なのだし。




