第355話奮闘(side:月読)
先日全滅の危機に瀕した15階層にやって来たカノン達は順調に戦闘をこなしていた。
そしてペースを掴んできたタイミングで、ハバキリ君の魔法を試してみようという話になったのだが……。
「戦闘スタイルを模索するのは無しとは言わないけど、大丈夫なの?」
「だから試してみたいんだよ」
ただハバキリ君が精神を集中し始めると、大気が凍り付いたように張り詰めたのを感じた。
直後驚くほどに強力な魔力が迸って、カノンはぎょっと目を見開いた。
「……スゥ」
ハバキリ君は槍に魔力を込めて―――撃ち出す。
圧縮された水の槍は一直線に伸びて、植物型モンスターの茎を水流で粉砕した。
その威力は前衛とは思えないほどに強力で、後衛の立つ瀬がないほどだった。
「うそぉ……どういうこと?」
「……詳しく聞かせなさい。いつの間にそんなに魔法が上達したの?」
もちろん黙っていられないのは、後衛二人だった。
詰め寄ると、ハバキリ君は目を白黒させて自分自身も驚いているみたいなことを言っていた。
「い、いや……特訓したんだよ。それしかないだろう?」
「「だからどんな!?」」
「それは……秘密だ。メリットもあるがデメリットもあると聞いているから……」
ハバキリ君はしどろもどろだが、口を割る気はないらしい。
だが確実に何か大きな変化があったのは間違いなかった。
そして真っ先に口に出しこそしなかったが、カノン以上に気になっているのは、同じく前衛として戦っていた草薙君で、愕然とした彼は大きく口を開けてハバキリ君を見ていたが、絞り出すように口を開いた。
「じ、自前の魔法だよな? 精霊じゃなく?」
「ああ。そうだよ」
「……そうか。それは……いや! 秘密の特訓だよな! わかるよ! パーティメンバーとはいえ、そんなに簡単に教えられないよな! うん! わかる!」
「そ、そうか……助かるよ」
言い聞かせるような言葉は絶対草薙君の本心じゃないだろう。
びっしりと額に汗をかいていることからも、心中穏やかでないのは一目瞭然だった。
今まで同じポジションで戦っていたメンバーが、新しい武器を手に入れた。
それだけでも、思うところはあるはずだ。
徹底的に問い詰めたいところだが、そうも言っていられないのがダンジョンである。
その時、冷静さを保っていたハバキリ君は、敵の接近を感知して叫んだ。
「何か来てる……地下からだ!」
「「「!!!」」」
そのほんの数秒後、地面が砕け、次々に地下から生えて来たのは植物の蔦だった。
先ほどよりも巨大な植物型モンスターが全部で10体。全てカノン達に狙いをつけていた。
「「「「……っ!」」」」
大慌てで戦闘態勢を整え、モンスターを迎え撃つ。
ハバキリ君は強くなった。
……しかしモンスターが弱くなっているわけじゃない。
「行くぞオロチ!」
「ハクジャ!」
「リリン!」
「白玉!」
自分に宿る精霊を呼び出して、迫りくる敵を迎撃する。
精霊達の魔法はあっさりとモンスターを吹き飛ばすが、半端にちぎれたものは、そこからすぐに再生し、同時にその体から何か細かい物が炸裂して、着弾した土から新たなモンスターが更に飛び出して来る。
「うっ……こいつは!」
「やられた瞬間種を飛ばしてる!」
その増殖速度は、あまりにも早すぎた。
あっという間に自分達を取り囲んだモンスターは、元の数よりも多い。
精霊は強力だが、強力だからこそ燃費が悪すぎる。
魔力そのものに近い存在だから、自らが目減りするのを嫌がる傾向があった。
一体一体は魔法で倒せるが、しかしあと何発撃てるだろうか?
今この瞬間にも周囲はモンスターから発せられる甘い匂いに満たされ、モンスターの数は増え続けている。
そしてそれはたぶんガス欠になる以上の数だった。




