第354話亀の好物(side:サブカルチャー研究部)
「明らかに作りすぎのピザの山を見た時から、やるとは思いましたが……本当にやるんですね? 今日っ……!」
「そうとも……今日のメインは――海だよ!」
ピザ職人と化していた僕は、サブカルチャー研究部全員に指令を言い渡す。
まだまだピザは焼くつもりだが食べ始めるのはここじゃない。
そう、それは96階層。
大海原広がる階層だった。
96階層の海にいる最大の脅威は、足場であり、敵でもある島亀という巨大モンスターである。
本来であれば尾の海蛇と強力な水の魔法で攻撃してくる厄介なモンスターだが、この巨大ガメのテイムに必要なものは、龍宮院先生の管理する竜宮城に眠っていた。
漆で塗られた箔押しの箱。
鮮やかな朱色が目を引くそのアイテムを到着早々海に沈めると、襲い掛かって来た巨大ガメに変化が起きた。
突然海から噴き出した不思議な煙が亀の身体に吸収されてゆく。
するとただでさえ相当な巨躯を誇っていた亀がさらに巨大になり、甲羅に草木が茂って、島の様に姿を変えたのだ。
そしてノソリとこちらを確認するように頭を持ち上げた巨大ガメには長くて白いひげが生えていた。
「歳を……取った? まさかこれ玉手箱ってこと!?」
龍宮院先生はヒィ!っと悲鳴を上げ、テイムを素直に喜べないらしい。
そして、スラリと完全に脂肪を削り切った浦島先輩は、新たな『島亀』を眺めて乾いた笑みを浮かべていた。
「そういうテイム方法なんだ……意外すぎる」
そしてレイナさんもまた、全然別のモンスターになってしまった巨大ガメに驚きを隠しきれていない。
「おおっふ……中々えげつないテイム方法です。……不思議と髭の生えた亀はイカして見えますね」
三人は競泳タイプの水着姿だ。
その衣装はとても深層攻略中とは思えないレジャーな出で立ちである。
だがそれは、なんの理由もないわけではなかった。
「三人とも……ここからが本番でござるよ!」
そしてそんな三人の水着女性がそばにいてなおかなりの存在感を放っているのは、赤いハーフタイプの派手な水着パンツを穿いたパーカーガスマスク、もとい桃山君である。
彼は続けてやってくるとわかっている脅威に備えて叫んだ。
そして周りには大量の二足歩行の亀型モンスターがいて、相変わらず非常にアグレッシブに侵入者に襲い掛かって来た。
こいつらは強敵である。
だが前回は下の階層に行くために島亀を討伐する必要があったが、今回はその島自体が味方だった。
「上空警戒!」
龍宮院先生が叫んだ直後、ドンッと大きな音がして、滝が空から降って来る。
4人はレンタルされたワタヌキ特製、9枚のシールドによる結界で守られたが、攻撃態勢だった亀達は圧倒的な水量に叩き潰された。
96階層の水棲モンスターがこれくらいでやられるわけがないが動きは止めることが出来た。
次に全員が自分のアイテムボックスから取り出して両手に構えたのは……熱々焼き立てピザだった。
「さぁ……テイムの時間でござるよ!」
「……でもさ。流石にピザは無茶じゃない?」
「……気持ちは分からなくはないけどさぁ」
「二人とも! マスターワタヌキを信じるのです! 亀はピザが大好き! 考えてみれば試すべき価値のある常識です!」
「「そ、そうかなぁ……」」
やる気満々の桃山君とレイナさん。
そして半信半疑の浦島先輩と龍宮院先生。
反応が二組にきっちり分かれたが、やらないという選択肢はない。
甲羅から手足を出して再び動き出した亀達は、すぐさま攻撃態勢を取って襲い掛かって来るのだから、迷っている余裕はなかった。
桃山君はそんな亀達に一歩も引かずに大きく息を吸い込んだ。
「よぉし! まずは一投目!」
叫び、先陣を切った桃山君はガスマスクの目をギラリと光らせ、取り出したピザが宙を舞う。
結論を言うと――驚くべきことに、亀達は本当にピザが大好きなようだった。




