第353話君騙されてるよ(side:月読)
ワタヌキ君がせっせとピザを量産し始めた頃、月読カノンとそのパーティもまた有意義な休日を過ごそうとしていた。
今回突然ダンジョンアタックを提案したリーダーの草薙君はダンジョンの前でカノンたちにまずは礼を伝えた。
「……今日は集まってくれてありがとうな! でも……どうしてももう少し頑張りたくて。同じクラスでだって俺達よりすごい奴がいる……負けていられないってそう思うんだ!」
草薙君が熱を持って今回の趣旨を説明するのを、カノンは仕方ないなと自分なりに折り合いをつけて頷いたつもりだったのだが、ツンツンとわき腹をつついてきた天音さんから言われてしまった。
「……大丈夫? カノン、なんか不満そうだけど?」
「そう?」
言われて、カノンはそんなに態度に出ていたかとなんだか恥ずかしくなって自分の顔を触るが、それでは肯定したようなものだった。
「……大丈夫よ。少し未練があるけど、本当に大したことじゃないから」
まさかピザが食べたかっただけなんて言えるわけもない。
カノンの説明で天音さんは納得してはいないみたいだったが、追及はしてこなかった。
ただ、それは気にならないというわけではなく、もう一つ彼女にしてみればカノンの表情変化以上に気になることがあっただけらしい。
「そう?……じゃあ、もう一個聞いていい?」
「何かしら?」
「あれ、なんだと思う?」
「……」
天音さんは不安そうな顔でチラリともう一人を見た。
まぁ言いたいことのおおよその察しは付く。
カノンが彼女の視線を追うと、そこにはハバキリ君がいて、彼は見慣れない大きなバックパックを背負い、中からなぜか巨大な卵のようなものが覗いていた。
はっきり言ってそれは異様な光景だった。
「なにそれ?」
我慢できずにというか、必要だと感じて直接訊ねてみると、ハバキリ君は困り顔を浮かべ、バッグを開いて、全員に中の卵を見せた。
「これは…………卵だ。それと、すまない。今日はあまりアクティブに動けないかもしれない。そろそろ孵るはずなんだが……見ての通りで」
「……」
説明の意思は感じるが、ますます謎が深まってしまった。
天音さんは巨大な卵をしげしげと眺めて、今度は心底困惑してハバキリ君の顔を見て尋ねていた。
「何で卵を抱えてんのよ? ていうかでっかいわね……なんの卵?」
「それは……まぁいいか。孵ればわかることだしな。これは……ドラゴンの卵、らしい」
「「「ドラゴン!?」」」
意表をつく答えにパーティ内の3人は目を丸くし、ハバキリ君は苦々しい表情を浮かべる。
そしてその、ドラゴンの卵なんていうのは、ダンジョンが出現してからこっち、よくある詐欺広告の謳い文句の一つでもあった。
「絶対騙されてるわよそれ……ダチョウの卵とかじゃない?」
「い、いや……確かな筋からもらったものだ。孵るまでの間、魔力を流し続ける必要があるらしいんだが」
「何か……その。タイミング悪かったか?」
どう言ったらいいのか本気で悩んでいる草薙君はとても歯切れが悪かったが、ハバキリ君もまた、まったく自信がなさそうに、そしてすまなさそうに首を横に振る。
「いや。これは……完全にボクの都合だ。むしろ妙な縛りを作ってすまない」
「じゃあ……一緒に行くってことでいいんだよな?」
「ああ。少し試しておきたいこともあるしな」
「そうなのか? その卵、大事な物なんだろう? 割れたりするんじゃ?」
草薙君が言うように、カノンも妙な卵を背負ってまで何を試してみたいのか困惑する。
ハバキリ君はこれも相当に言うのをためらっていたが、その理由はすぐにわかった。
「いや、そう脆い物でもないらしい。それに今日は少し後衛として立ち回ってみたいと思っているんだが……」
「「「は?」」」
常識的にはあり得ない、突拍子もないハバキリ君の言い分は、かなり勝手な話で、天音さんなんて唖然としていた。
けれどカノンが不思議と何かありそうだなと思えたのは、きっと昨日、偶然トイレの精霊と遭遇したからだろうとそう思った。




