第351話お肉の燻製祭り
「……」
僕はいまだかつてないほどに真剣に、それを見ていた。
僕はこの日のために管理していたお肉たちを開封し、様々な肉をフックに吊るして、燻製箱の中に収めてゆく。
燻すための木片のチップはダンジョン内で見つかる魔力を大量に含んだ、木製モンスターを厳選し、使用予定だ。
ダンジョン素材の燻製は、味と火加減はもちろんだが、魔力をいかに濃縮できるかも重要になるらしい。
あらかじめ塩抜きは終え、乾燥させ、あとはじっくりと温度管理しながら燻していけば完成である。
用意した肉はコカトリスだけじゃない。豚系や、牛系のモンスターはもちろん、この日のためにドラゴン肉まで万全の下準備を整えたのだから、なるべくなら失敗したくはなかった。
燻製チップに点火。
はてさてどうなるか?
ただ待っているのももったいないので、僕は他の作業も進めておくことにした。
だが細々と他の作業を進めていると、時間は割と早くやって来て、攻略君がジャストタイミングを告げた。
『そろそろいいよ』
「……お! ついに……」
僕はゴクリと息を呑んで燻製器の扉を開ける。
そこには――見事に黄金色に輝くベーコンちゃんが、油を滴らせながら整然と並んでいた。
「よし! 行けたはずだ!」
気合を入れてそれを取り出すと素晴らしい燻製の香りが周囲に広がってゆく。
明らかに成功である。
「よし……とりあえず、味見をしなきゃだね!」
こればかりは料理人の特権だろう。
だが薄く端の方を切って、さて食べようかという矢先、絶妙なタイミングで電話が鳴って、僕は手を止めた。
一瞬、みけんにしわが寄ったが、電話の相手をディスプレイで確認して困惑の方が強くなった。
「ん? 月読さん?」
通話ボタンを押して電話を取ると、彼女はどうにも本当に落ち込んでいるらしく声に張りがなかった。
「ごめんなさい……せっかく誘ってくれたのに、私達パーティで、週末に特訓をすることになってしまって……」
「ああ、そういうことか。了解です。全然大丈夫だよ。うん、残念だけど仕方がない。無理する必要はないから、こっちは気にしないで?」
「……残念だわ。本当に」
んー、なるほど?
月読さんはキャンセルってことか、楽しみにしていたのにかわいそうに。
月読さんがダメなら、ハバキリ君も無理か。
何となくすんなりいかないような気もしていたけど、こう来たか。
「……」
電話を切った僕はおもむろに食べようと思っていたベーコンに手を伸ばして、味見を再開した。
軽くあぶって、バクリと齧ると燻製の香りが濃厚に鼻に抜け、絶妙な燻し加減を堪能した。
そして僕はぐっと拳を握る。
心の底から湧いて来た感情は純粋な同情だった。
「……あぁ。かわいそうに」
本当においしいものを食べられないというのは、まさに悲劇である。
これを機に親睦を深めるのもありかとも思っていたんだけど、予定が合わないなら仕方がない。
僕はとりあえず気分を切り替えて、準備を再開することにした。




