第350話ガチャとピザ
しゃがんだ君と、それを見る僕。
構図としてはなかなかロマンがあるのだが、一方はガチャに夢中な女子と、一方はトイレに行きたいだけの男子なのだから、運命なんてどこにもない。
そして立ち上がった月読さんは、髪をかき上げるといつも通り……とはいかないけれど、それなりに凛々しく腕を組んで、優雅な立ち姿だった。
「……こんにちは、月読さん。なんだかガチャのあるところで必ず会うね」
「……こんにちは、ワタヌキ君。あなたこそトイレがあるところで必ず会うじゃない」
「「そんな事ない(よ)(って)」」
「「……」」
同時に言い訳まで被った後、僕らはお互いニヤリと笑った。
「どうしたのかしらワタヌキ君。こんな所で?」
「ちょっとした用事だよ。ピザ窯買いに来たんだ」
そして僕は正直に目的を伝えたが、今ひとつ納得は得られなかったようで、月読さんはすごく困惑した表情を浮かべていた。
「ピザ窯って……学校で? さすがに怒られないかしら?」
「寮でやってたら怒られそうだけど……まぁ僕らには誰にも文句を言われないフリースペースがあるから大丈夫だよ?」
「フリースペースって……まさかダンジョンの中のこと言ってる?」
「まぁそうだけど……」
「呆れるわね……まぁ、あなたらしいといえばらしいけれど……」
うわぁって顔をした月読さんは、何やらそこで真顔になると少し考え込む。
そして彼女はためらいがちに言った。
「……ピザ窯ということは、そのピザは窯焼きなのかしら?」
「当然、窯焼きにする予定だね」
なるほどと、月読さんは頷いた。
「……実は私、ピザというものを食べたことがないんだけれど」
「え? 本当に?」
信じられない情報に僕は困惑するが、月読さんはいたって真面目だった。
「本当。でもピザという料理が存在することはよく知っているわ。そして窯焼きが最高だとも話を聞いたことがあるの」
「な、なるほど」
「……」
……月読さんの視線に圧を感じる。
ここまでくれば言ったも同然だったが、月読さんはピザを食べたいらしい。
だけど最後の一言まで言ってしまうのは彼女の中の何かが邪魔をしているようだった。
だが今回のピザ焼きは、ただのピザ焼きじゃない。
サブカル研究部主催、ダンジョン素材大盤振る舞いのピザ大量生産大会だ。
珍しいダンジョンの素材を山ほど使い、料理の腕を存分に振るうわけだが、随分ダンジョンの深い層に絡むことになるだろう。
そして初めて食べるというのなら、この罪深い味を僕が彼女に教えてしまうことになるわけか……。
ガチャに続いて、相当な罪深さである。
ほんの一瞬考えたが……。
「月読さん……」
「な、何かしら?」
「良かったら、ピザ食べにくる?」
「そう! お誘いなら断れないわね! 私も参加させていただくわ……少しだけね?」
まぁ、罪深いとか、もういいか。 すごくうれしそうだし。
若干食い気味に承諾した月読さんはもう目の中にピザが浮かんでいた。
せっかく腕によりをかけて作った料理だ、ワタヌキ君的には少しでも沢山の人に食べて欲しいというのが本音のところである。




