第341話大人の趣味
ステージでは竜人美女が舞い踊り、フロアスタッフとしてもかいがいしく働いている。
聳え立つシャンパンタワーが目を引くが、印象として全然負けていない煌びやかさは室内の装飾の方が絢爛である。
そして正面には男性型竜人コンパニオンを侍らせ、足を組み、景気よくボトルを開ける顧問の先生がいた。
「ええっと……随分雰囲気一新してますけど……まだ先生やってますよね?」
「もちろんやっているとも。仕事終わりのちょっとした楽しみってところだね。ああ、うまい……ダンジョン産はやはりいいなぁ。愛好家の間では億単位の値がつくこともあるんだよ。あ! 君達はジュースだからね」
「……先生。その恰好で先生っぽいこと言っても説得力がないです。学校の敷地内にホストクラブ作るのやめてくださいよ」
「ホストクラブじゃない! あくまで、ダンジョン内のアルコール含有アイテムを保管しているセーフハウスだ。ちなみに治外法権だから、地上の法は適用外です」
「あーあ……ついにそっち方面を盾にしちゃった。歯止めなんて一切ないですよ? あっという間に価値観世紀末ですからね?」
「……価値観を根底からぶち壊しまくっている君が言うじゃないか? ちょっと気の迷いで出てきたアイテムを知人の伝手で売ったら貯金のゼロが2桁ほど増えた雇われ教員の気持ちが君にわかるかい? こう……人生について考えちゃうよねぇ」
「……僕らには、しっかり卒業までお金は管理することって上限まで設定したのに……」
「いやそこは大事なところだろう? でもね……私は大人なんだ。本業は探索者で、発掘品を正当な値段で正規に売買するルートだって心得たものなんだよ」
「それはないですよ先生!(浦島)」
「そーです! 横暴です!(レイナ)」
「そうでござる!そうでござる!(桃山)」
「????(ハバキリ)」
「……」
さすがに生徒の中からブーイングが上がるけど、龍宮院先生はどこからしくないキャラクターで、優雅に足を組み替えた。
「フフフッ。悔しかったらさっさと成人したまえよ。では―――何か質問があったら聞こうか?」
シャンパングラスをくゆらせて僕らにそう言う龍宮院先生に、僕はしょうがない人だなあと、あえて禁断の質問した。
「……今の心境は?」
「……」
すると眼に正気の光を取り戻した……というかハイライトが無くなった龍宮院先生はコトリとテーブルにシャンパングラスを置くと、真っ赤な顔で顔を隠した。
「…………穴があったら入りたい。せめて客がいるなら連絡してほしかった」
まぁ先生ってそういうとこある。
「もう、先生ったら……はっちゃけ過ぎですよ?」
「だって! バージョンアップしようと思うと、自然と高級路線になるんだよ! 工事は浦島さんに頼めばいいし、外で建材買って来てもアイテムボックスに放り込めば自分で持って帰ってこれる! もう弄り放題なわけじゃないか!? 私はただ……おいしいお酒が飲めて、大事な相棒達と勤務外に穏やかなひと時を過ごしたかっただけなのに……」
やってるうちに楽しくなってきちゃったわけだね。そして桃乙姫先生が火を噴いちゃったわけだ。
語っている龍宮院先生は、潤沢な資金を使って竜宮城の設備を整えたと、それはわかる。
内装の手の込み方を見るに外の業者も巻き込んで、竜宮城改修作業に精を出しちゃっていたようだ。
家具の類まで選びに行っていたんだとしたら、そりゃあ放課後に会わないはずである。
そして我らがパーティは現在その手の話題の熱が異様に高いことは間違いなかった。
浦島先輩とレイナさんはうんうんと熱っぽく頷いて、同意を示した。
「分かりますよ! 家具はやっぱり、地上産がいいですよね!」
「そうなんだよ。どうしても安っぽさがねぇ」
「わかります! でもワタシあんまりお店に詳しくなくて困りました……」
「えー。言ってくれればよかったのに! 今私、めっちゃ詳しいから紹介しちゃうよ?」
「ホントですか!」
「へぇ。私も興味あるなぁ」
「あ、拙者も気になるでござる。大きな檜のお風呂を注文したくらいで、せっかくだから内装にもこだわりたいなと、知り合いに忍者屋敷のギミックは教えてもらったんでござるが……」
「「「そっちの方が気になる」」」
「そうでござるか?」
ウームめっちゃ楽しそう。
このクラフター達はみんなまだまだやる気みたいだった。
別にどんな風に改造したっていいんだけど……僕としてはちょっとタイミングが悪かった。
美形ぞろいのコンパニオンに囲まれて、顔を赤らめソワソワしているクラスメイトは大変落ち着かないようだが、先生と目が合い、彼は自ら状況を打開すべく打って出た。
「あ、あの! ここで強くなれると聞いてきたんですが……!」
だが聞きなれない声を聞いて、龍宮院先生は軽く首を傾げた。
「ええっと……? 君は?」
「は、はい! ハバキリといいます!」
「……なるほど。なぜ彼をここに?」
続いて僕への質問である。
僕は龍宮院先生に、この後の予定を話した。
「あの精神……修行ルームを使おうかなと思いまして。弱くなる薬と併用したら面白いことになるんじゃないかなと」
これもまた、より効率的なレベリングの実験でもある。
ファイアーボールヘッドとしての施策の一つのつもりだったが、説明を聞いた龍宮院先生は驚いて、もう一度ハバキリ君を見て言った。
「へぇ。ずいぶん気に入っているんだね。……ふむ。わかった。いいんじゃないか? 協力してくれる友人が増えるのはいいことだ。学生のうちに君はそういう友達を増やしておくべきだ」
困ったものというか、微笑ましいというか、そういう視線を向けられて何だかいたたまれないんだけど、味方を増やしておきたいと思うのは日々実感する所だった。
「でも……相談があるのは君もそうみたいだね」
そして自然に勘づいてくる辺り、龍宮院先生はやはり先生であった。
「……わかりますか?」
「もちろん。言っただろう? これでも真面目に先生はやっているんだってさ」
真面目……真面目か。
真面目ってどんなんだったっけ?
まぁいいか。些細なことである。
ひとまず、せっかくなので僕は頷き、相談した。
「実は……授業で僕、めちゃめちゃ弱くてですね」
「だろうね。そういう戦いかたでしょ。何言ってるの?」
「……ですよねー」
やはり把握していたらしい龍宮院先生は、とても微妙な苦笑いを浮かべていた。
「うーん。でもその気になればスペックで圧倒出来そうなもんだけど……まぁ、そんな風に器用な方じゃないか。気になるなら相手を殺さない程度に試してみればいいんじゃないかなぁ? 学校の授業って、手加減の練習にもってこいだから。というか君が授業で意識すべきは試合の勝ち負けよりむしろそっちでしょ」
「! ……言われてみれば確かに!」
うーん、僕の相談終わっちゃった。
まぁ何事も向き不向きはあるってことか。
総取り出来るほど器用でないのは自分の事だし、自分でもよくわかっていた。
狙いを絞って、堅実にか。
ただ目的無く漫然と授業を受けているから、勝ち負けなんかが気になるってことはあるだろう。
せっかくの機会を有効に活用するってそういう事なのかなと、僕はちょっとだけ下がっていた龍宮院先生の評価をわずかばかり上げておいた。




