第340話はっちゃけた大人
「……何だ、ここは!?」
チラリ。
「……っ!」
ああ。ハバキリ君の信頼が揺らいでいるのを感じる。
そりゃあ目隠しを取って、こんな夜の繁華街みたいなライティングの場所に連れてこられたら不審に思うだろう。
だけど先生だもの、ちょっとはしゃいでしまっただけですよね?
先生だって人間なんだから匙加減を間違えることはあるでしょうとも。
でもそこはやっぱり先生なのだし、一線は守ってくれているに違いなかった。
「ウワッハー! なんかちょっと見ない間に大人の雰囲気が増したね! 増しちゃったね!」
「フゥ⤴! さすが先生です! 入っちゃいます? 入っちゃいますよね!?」
思わぬ大改造に興奮する者。
「闘技場……というよりもコロシアムとかそういう類でござるか? 旅館からそれを観戦できる造りに見えるでござるが……」
そして改造の意図を考え、訝しむ者。
反応は様々だけど、いったん先生に会わねば真実を確かめる方法はない。
「……っ行こう!」
僕とて、不穏なものは感じていたはずだった。
だが師への信頼を胸に僕は意を決して入り口らしき場所から中に入ると、そこには……。
「「「いらっしゃいませー! ようこそ竜宮城へ!」」」
「……っ!」
所謂チャイナな雰囲気を感じる衣装を着たドラゴン娘&ドラゴン男子達がズラリと並んでお出迎えである。
「……」
ハバキリ君が切ない表情で僕を見ている。
信頼などもう欠片も残っていないに違いない。
っていうか龍宮院先生!? これはなくないですかね!?
ものには限度があると思うんですけど!?
僕の心の叫びは、目の前の光景を前にしてはあまりにも無意味だった。
不安そうなハバキリ君には本当に悪いことをしてしまっていると思っている。
「……本当に、強くしてくれるつもりがあるんだよな?」
「も、もちろん。この建物については僕も驚いてる! 龍宮院先生が……そう! 龍宮院先生が! 管理してくれているはずなんだけどね!?」
責任者の名前を強めに念押ししたんだけど、教員が? と疑惑の加速に一役買ってしまったようだった。
「うわー……見てよワタヌキ後輩、ワタヌキ後輩? スリットえぐくない?」
「アジアンテイストドラゴンガール&ドラゴンボーイ!! ファンタスティックです! 写真一枚いいですか!?」
「……こういう時、女の子の方がストレートに楽しめるのかな? ドラゴンガール多いから?」
「どうでござろう? 仮にホストが多めに並んでいたとしても、先にはしゃげるかというと、ちょいと厳しくないでござる?」
あ、ホストって言っちゃった。まぁそうだね。
城の中はアジア系の城のような雰囲気を残しつつ、西洋風の豪華な意匠が見て取れる。
板張りだった床が磨き上げられた大理石の石畳になっていたり、照明がやたらキラキラのものが多くなっていたりと、変化は著しい。
そして混乱して喜んだり戸惑ったりしている僕らの元に―――城の支配者はついに姿を現した。
「―――よく来たね君達。そろそろ来る頃だと思っていたよ……」
僕らは声の主に視線を送る。
赤い絨毯の敷き詰められた階段の一番上から、シャンパングラス片手にゆっくり降りてくる美女。
鮮やかな黒いドレスに白い虎柄のファーコートを着た龍宮院先生は、紅白のスーツを着た相棒の少年風精霊を侍らせて、僕らの前に現れやがった。
「……」
信頼? 何それおいしいの? そんなものもっとちゃんとした人しか持ち合わせない、尊いものだよ。
明らかによくないはっちゃけ方をした大人を見て、冷ややかなハバキリ君の視線がチラリと僕にもとばっちりで向けられたけど、僕にそれを非難する権利なんてないだろう。
龍宮院先生!? あなた、桃乙姫先生成分が全面に出すぎちゃってませんかね!?
僕は反論する気も起きずにうぐぅと奥歯を噛みしめた。




