第338話あまり得意ではない事
さて。
龍宮院先生直伝の格闘術。確かにかじる程度だが、僕は教えを受けた。
有り余る力を制御し、日常生活とダンジョン内のオンオフ、その辺りを徹底的に叩き込まれたことは間違いない。
結果として僕はどうなったのかというと……。
「どおおおお!」
「!」
バチンと竹刀が僕の胴体に綺麗に直撃した。
「そこまで!」
剣道の授業中、監督の叙庵先生の判定は哀しいほどに正確だった。
「……」
「大丈夫か? ワタヌキ君? 今脇腹に入っていたが……」
「……大丈夫です」
「そうか。しかしダメだぞ? 回避をおろそかにしてはダンジョンではいくら命があっても足りない。モンスターの攻撃は、爪の一掠りでも致命傷だと思うべきだ」
「……はい。大変申し訳ありません」
としか言えない。
だが攻撃に当たりに行くことは、もはや反射のレベルで体に刻まれていた。
おわかりいただけただろうか?
そう僕は、授業では激弱なのだ。
学校の授業で、気を失うまで殴り合ったりするだろうか? はたまた回復魔法が必要なほどのダメージを受けることは?
―――まぁ当然否である。
基本的に一発当てたらそれで終わり。
綺麗に決まればポイントが入るのが当然で、当たらないことこそ高く評価される。
ダンジョン探索を意識はされているものの、あくまで剣道であることに変わりはない。
華麗に避けて隙を窺い、ここぞという場面を逃さずに最大の攻撃を叩き込むことこそ勝利の基本。これ常識である。
だが、僕はちょっと違った。
僕は龍宮院先生と訓練したが、その結果誕生したのはいうなれば「ワタヌキ君流戦闘術」とでもいうべきものだ。
その極意は誰よりも攻撃を受けることである。
より強固な防御力でパーティに降りかかるすべての攻撃をその身に受けることこそが正義だ。
そして僕は生身でさえ、特大の魔法攻撃を耐える防御力にまで研ぎ澄ましているわけだが……まぁ、当たったら一本は一本だった。
情けない顔をした僕を先生はじっと見て。
「……まぁ、がんばれ! では次!」
「……」
適当な励ましだって甘んじて受け入れますとも。
試合形式の授業で勝つことにこだわったって仕方がない。
頭ではわかっているのに、なんとも言えない気分になるのは、僕にもわずかばかり変なプライドがあるからなんだろう。
男の子のめんどくさいところが出てるなーなんて、僕は実に笑えることを考えていた。
そして部室にて、今日はゲーム画面でタイミングを合わせてハリセンでどつき合うゲームをやっている最中に、そんなことを思い出して話のネタにしてみた。
「そんな感じで……桃山君。僕には授業の実技でいい成績を取るのは無理だ」
「……なんでその有り余るステータスで圧倒できないんでござる? 見てからで十分避けられるでござろう?」
桃山君は不思議そうだったけど、僕から言わせればなにも不思議なことはなかった。
「先に体が動いちゃうんだってば。それに……うっかりスイッチ入って、攻撃入れちゃったら大惨事じゃない?」
そうなると回避もできない。攻撃もできない。
そもそも当て合うこと前提の競技で、むやみな遅延はあまり意味がないだろう。
「……なるほどー難儀でござるな。もう気にしなくていいんじゃないでござる? ぶっちゃけ授業の格闘技はあれ基礎体力作りとかそんなのが目的でござるよ?」
「まぁねぇ。それでもいいかなって思うよ? でも……あの授業で成績つけられてる感じがすごくするんだよ。 桃山君は逆にどうやってんの?」
格闘技の授業は桃山君もあるはず。
同じく桃山君も力を持て余しているはず……何なら侍なら僕よりもひどいはずなのだが、いやいや流石にと桃山君は苦笑する。
「伊達に幼い頃から道場通いをしているわけじゃないでござるよ。特にダンジョンに潜る以上オンオフの訓練はワタヌキ氏以上に鍛えているでござるから」
「あー……なるほど。嗜みってやつか」
「そんな感じでござるね」
桃山君はもうそれが自然にできるほどに訓練されているということか。
ここ最近本格的に始めた僕なんかとは年季が違うのだろう。
桃山君は僕に実はあまりやる気がないことを見抜いたのか、ちょっとした改善案を提示してきた。
「龍宮院先生に相談してみたらどうでござる? 教えてくれてるんでござるよね?」
「ああうん。たまにだけど。最近は……そういえば最近龍宮院先生見ないな」
「んん? そういえば……見ないでござるね」
僕らは口に出した後、はっとした。
学校にはいるはずだが、放課後にここのところ先生を見た記憶がない。
僕と桃山君はどういうことだ? と顔を見合わせた。




