第335話価値を証明するのはこれから
「ボクも一緒でよかったのか?」
「まぁ無関係ってわけでもないから」
「そうでござるな……まぁだからこそひっくり返りそうな話ではあるんでござるが……」
桃山君が心配そうに小声で呟いていたけど、そいつは僕も心配である。
しかし、一緒に取りに行ったトールハンマーは夏の思い出だ。
そしてこのタイミングで彼がここにいること自体がもはや運命というべきではないだろうか?
今日はそれぞれで作ったパーツを持ち寄って、完成させる日。
せっかくなら再誕のこの日に立ち会ってもらいたいと思うのが人情というものだろう。
僕らはあらかじめ片付けていた部室のスペースにアイテムボックスから取り出したパーツ各種を並べると、それだけでおおーっと感嘆の声が漏れた。
「ええー、ではまず最初に父の言葉を一つ……「十字架は広い意味で、でかいハンマーと言えるんじゃないかなぁ?」 と」
「おおっと……問題発言じゃないでござる?」
そんな東雲さんの前振りは少々無理はあったが、確かに見た目はハンマーに見えないこともない。
東雲さんが実家である東雲鉄工の協力を得て製作したそれは、巨大な十字架を模した武装だった。
あまりの巨大さに、ハバキリ君なんて最初それを武器と認識していなかった。
「これは……大きいな。どこかの装飾なのか?」
「違うよ。武器だよ。愛用のアームのサイズに合わせてあるから」
「アーム……」
「えーこちらは普段はそれこそハンマーや鈍器として使用できるよう頑丈に設計してありますが、スイッチを入れると―――このようにギミックが展開して変形します」
「「おお……!」」
「これは……なんだ?」
東雲さんが中央のスイッチを切り替えると、ガチャリと十字架の長い部分が二つに割れて、展開。
砲身に刻まれた魔法文字は弾丸を生成、発射するはずだが、それだけではないと一目でわかるほど、複雑なものだった。
「あ、はい。超電磁砲ですね。えーっと、魔法仕様の銃って言った方がいいかな?」
初耳のはずのハバキリ君のために順を追って説明する東雲さんだが、順を追っているからといって、すんなり呑み込める解説ではなかったようだった。
「銃? これは……銃なのか?」
「正確には魔法の杖に近い物ですが、その通りです」
「……?」
ああ、ハバキリ君の耳に説明が入って、逆から抜けていくのが見えるようだ。
まぁよくわからないのも無理はないので、続いてこの武器の動力の紹介である。
「で、ここから拙者達でござるな。拙者達が作ったのは、こいつのコアでござる」
そう言って桃山君が取り出したのは大きなドクロの飾りのついた、単体で光り輝く不思議な球体だ。
デザインは桃山氏作。
そしてエネルギー供給源となる内部構造は、トールハンマーと思いがけず手に入れてしまった、特殊素材を用いて僕が製作した。
新素材、それはあのハデス様から譲り受けた、雷霆ケラウノスの端材らしい。
オリハルコン以上に解析不能の謎の物体は流石に裏技なしに加工は不可能だった。
そして攻略君の手引きと魔王城という特殊設備の機能をフル稼働して出来上がったコアは、僕らの想像を超えてくるはずである。
「うぉおおお。まるでパ〇ッシャーでござるなぁ! 東雲さんは分かっているでござるよ」
「これはかっこいいわ……うまくハマるかな?」
「……怖いこと言わないで欲しいでござる。たぶん……大丈夫」
「だ、大丈夫ですよ……私が担当したオリハルコン合金の加工は手引書があっても、鬼のような難易度でしたけど、何とか完成したはず……」
それでもガチャガチャと格闘すること数十分。
僕らはようやくコアを装着し、新武器を組み上げた。
組み上がった瞬間、ボディに刻印された魔法文字が輝き、ドクロの飾りの瞳が明滅する。
「「「おお~!」」」
「……」
恐らく起動に成功した新装備に、僕らは思わず歓声を上げていた。
「やりましたね!」
「おお、かっこいいでござるなぁ!」
「いいじゃないいいじゃない! こいつの名前何にしようか?」
「元の名前を取って、トール・ブレイカーなんてどうです?」
「いいね! じゃあ今からこいつは『トール・ブレイカー』だ!」
うん。実際ブレイクしちゃったのはこの子なわけだけど、戒めも込めて今度は大事にしていこう。
僕らはキャッキャとはしゃぎ、この感動を分かち合う。
しかし一人、場のテンションに取り残されていたハバキリ君は、取り残されていたからこそとても冷静に、僕の台詞を聞き逃さなかった。
「……ちょっと待ってくれ、元の名前? トール・ブレイカーの元?」
呟かれた一言に、僕ら3人全員がピタリと止まる。
ああうん、今まで僕らがテンションでごまかしてきた、常に頭の隅にあった疑念を、彼は今口にしようとしていた。
「……そうだよ?」
僕は肯定する。
ゴクリと喉を鳴らしたハバキリ君は、乾燥した唇から疑問を絞り出した。
「確認したい。……スー……あの、ダンジョン攻略報酬のハンマーが今どうなっているか……聞いていいかな?」
実に鋭い質問だった。
だから僕はその残酷な鋭さに誠実に、真実を答えた。
「壊しちゃったから、この子の材料にしちゃった♡」
だけどこう言った時のハバキリ君の顔といったら、驚きで顎が落ちた人を僕は初めて見てしまったよ。
「……んがっ! だ、大丈夫なのか! そんなことをして!?」
震えるハバキリ君だけど、そいつはまだ―――わからない。
「そうだね……まぁでも大丈夫なのかどうかは、これから確かめに行くんだよ」
「……」
そう、僕らが作ったものの価値は、今試されていた。
果たして人類の宝認定もあり得た兵器を潰した価値がこの新しい武器にあるのかどうか?
それを確認する必要がある。
さてどうなるだろう?
僕も大変気になって、正直体が震えていた。




