第333話学校の変化
「うちの学校で今急ピッチで何かを作っていて、うちの国も協力しているとかで私も働かせられそうなんですよね……それまでにきっちり仕上げてガンバリます!」
フリーフォールでしてやられた後、別れ際のレイナさんはその時は何を言っているのかよくわからなかったが、その意味するところはすぐに判明した。
【今年の舞闘祭はスタジアム完成後に行うことになります! 楽しみですね!】
とは担任AIのお知らせだった。
「舞闘祭ってなんだっけ?」
部室にて、タイムリーだったので携帯ゲーム機でペンキをぶちまけまくりながら雑談として話を振ってみると、今回のメンバーであるハバキリ君。そして桃山君は、えぇーッという表情で僕を見た。
「知らないのか? 入学の案内にも載っていた気がするんだが……」
「そうでござるよ。言ってしまえば……ダンジョン学園版運動会でござるな」
「……運動会かぁ」
正直、そんなにテンションが上がる行事ではない。
しかしダンジョン学校の運動会はとても面白そうだろうなと考えたことは過去にあったことを僕は思い出していた。
「要は延期のお知らせということだろうが、とんでもないスピードで校内にスタジアムが建設中だと聞いているよ。なんでも最新技術で作られた画期的なスタジアムだという話だが」
ただハバキリ君のそんな話を聞いて、僕は思わず片眉を上げた。
「……最新技術かぁ。なんかデジャブ」
「というかそのままなんじゃないでござるか?」
「まぁそうだよね。エキスポとかってそういう最新技術を紹介するもんなんだし。うちの学校で最初に作るって、熱くない?」
というのも最新技術を使ったスタジアムを僕らはかつて見たことがあった。
それはダンジョンエキスポという、最新の研究を披露するために存在する舞台で紹介されていたのだが、現物をもう一度学校内で見ることになるかもしれないなんて思ってもみなかった。
「うーん……ひょっとしなくても拙者達が暴れたからじゃないでござるか?」
ただ桃山君がある程度確信をもってそう言ったことで、僕は単純に聞き返してしまった。
「…………えぇ? なんで?」
「というか。しっかり正体特定しにかかられている気がするんでござるよね」
「……かなぁ。だったらおっかないね」
「でござるよなぁ。でも」
ゲームに8割ほど意識を割きつつ適当な相槌を打つが、まぁ考えてみるとそんな狙いがあってもおかしくはない。
ごく普通に交わされた話題に、少し遅れて納得の声を漏らしたのはハバキリ君である。
「ああ、そうか。あのエキスポの怪人は君達か……」
「まぁ一応?」
「なんというか……こうして目の前にいてもあまり実感がないな」
ハバキリ君はぬるりと正体を看破しつつ、それでも自信なさそうな顔をしていたが、ここまで見せてなお繋がらないというのもそれなりに複雑な気分だった。
「そう? まぁ一応ファイアーボールヘッドには中の人などいないって設定だから、身バレは避けておいてね」
「設定か。まぁ、わかっているよ。それにそうした方がいいとボクも思う」
「……やっぱりそう思う?」
「それはそうだ。むしろ君達は情報の管理が適当過ぎないか? とも思うんだが……あんまりバレてはいないのか?」
「不思議と。知ってる人は限られてるね」
ハバキリ君的には、バレるのは良くないんじゃないか? という意見により気味みたいだけど、僕としては正解のない話だと思っている。
だから半信半疑はお互いさまなのだろう。
「まぁねぇ。それで? ハバキリ君は今日は何の用だっけ?」
不毛な話になりそうなので、いったんハバキリ君の方の本題を引っ張り出すと、彼は答えた。
「ああ。とりあえず。この間の話し合いの通りになりそうだという報告を」
それはハットリさんの事だとピンとくる。
そんなに気にする必要はないんだけれど、ハバキリ君は誠意を見せてくれたみたいだった。
「了解。なんだかごめんね。ダンジョンアタック忙しいのに」
ハバキリ君は今日もまたダンジョンアタックの予定はあったはずだが、彼はなぜか苦笑を浮かべていた。
「いや……そうでもない。この間クラスメイトにこっぴどく負けたからな、少し停滞気味だ」
それもまたハットリさんの影響だった。
ようするに結構へこんじゃったんだろうけど、そうでなくとも今のやり方に疑問が湧いた可能性はあるか。
まさに出鼻をくじいたハットリさんは、影響力の大きな女である。
しかしだとすると、僕としては何だか意外だった。
「え? そんな感じ? でもあれは不意打ちのだまし討ちみたいなもんだったでしょ? そんなに気にすることないんじゃない?」
「いや。1対4で正面からだからな。正直一番ダメージがあったのはボクたちだったかもしれない……なんと事情を説明していいのか」
「うーん。しなくていいんじゃない? したってわけがわからないよ?」
頭を抱えるハバキリ君だけど、諸々事情を説明しちゃうと、こじれそうな予感がある。
しかしがむしゃらにモンスターと戦い続けるだけでなく、いったん立ち止まって方向性を模索するのは、一概に悪い話ではないと思えた。
「いや、経緯はともかく。ハットリさんの事で悩みすぎたってしょうがないよ。結局君は勝って事態を収めたんだし」
そして、正直に言うならアレで落ち込むのは少々もったいない。
「……早めに復帰して欲しいなって僕は思うな」
「それはもちろんだ」
「なんなら、ハバキリ君もこの機会にファイアーボールヘッド先生に相談しちゃう?」
そして本当に軽い冗談のつもりだったんだけど―――ハバキリ君は僕の冗談にためらいがちに頷いて言った。
「……相談しても……いいだろうか?」
「……お?」
しまった手が滑った。
ゲームは負け確定だが、思考8割ゲーム脳では処理しきれないのだから仕方がない。
おっと? 精神的に打撃が大きかったっていうのはハバキリ君にも有効だったのか。
ハットリさんハザードは良くも悪くも、本当に影響が大きそうだった。




