第332話フィナーレ
悪魔を倒したケルベロスは楽しげに尻尾を振る。
そして尻尾を振る相手は勿論レイナさんで、彼女も流石に引きつった表情を浮かべていた。
「ええっと…よく頑張りましたね! 頭が三つともキュートです!」
「ワン!」
あ、鳴き声はなんだかとっても犬っぽい。
そういうの大事だと思う。
ちょっとかわいいけど、頭蓋骨の大きさとかがネックかな? あと振られているしっぽが蛇なのは、僕的にちょっとマイナスポイントだった。
ひとしきりケルベロスを撫で終わったあと、フゥーと傍らで長めの息が聞こえる。
そしてレイナさんはぼそりと小声で、しかしうっすら鬼気迫る声色で僕に確認した。
「さっきの話……マジですか?」
「……どうだろうねぇ」
「ハッハーン? 意地悪ですね?」
「ほぼほぼ優しさだよ」
どう思うかはあなた次第、ということにしておくのが一番心が平和なんじゃないかと思いますね。
レイナさんはいまひとつ納得してはいないみたいだったけれど、真実がどちらでもどうしようもない。
しばし黙った後、彼女は大きく頷いた。
「ん! わかりました! 強力なアイテムが手に入った、そういうことにしておきます! ではフィナーレです! ちょっと移動しましょうか!」
「フィナーレ?」
「そうですよ。ラスボスを倒しちゃいましたからね! まぁエンディングみたいなものです!」
意味ありげに彼女が案内したのは、このマンションの屋上だった。
タワーマンションを模しているだけあって、屋上からの眺めは半端な高さではなく、強い風が僕らの身体に吹き付けている。
見下ろすはるか下の森は、完全におもちゃのように見えた。
そして屋上にあったのは、ペントハウスのような建物が一つ。
そう広くはないが、建物の内装は妙に豪華で、真っ赤なソファーなんて置いてあった。
「これ何?」
「エレベーターです、ソファー付きですよ? みんな座ってみてください!」
「おお、凄く凝っているでござるなぁ……突然ゾンビが溢れ出たりしないでござる?」
「しないです!」
「おお。豪華。私一番!」
ニコニコと笑顔で勧めるレイナさんに従って、僕らはソファーに腰を掛けた。
うわ、ふっかふかだぁ! いかにも高級なソファーは座り心地も異次元である。
そのまま身を任せて僕ら全員ソファーに深く座り込んだ瞬間だった。
ガチャリと降りて来たバーで僕らはソファーに拘束されていた。
「え?」
「え?」
「え?」
「ハイ! では下に参ります!」
レイナさんは最高に輝いた、ちょっと意地悪な笑みを浮かべて―――最後の案内をする。
「ではフィナーレです! 1階まで直通のフリーフォールを楽しんで!」
「……っ!」
ふわっと、一瞬の浮遊感。
完全に意表を突いた最後のアトラクションに、内臓が持ち上がる。
どうやらレベルは上がっても、絶叫マシンは普通に怖がれるとわかったのはちょっとした発見だった。




