第331話管理に最適
「ええっと……レイナさんのファンの方から預かって来たプレゼントです」
「……どういうことです?」
そう言ってパンクなギターを本人に贈ると、すさまじく微妙な顔をされてしまった。
まぁそりゃそうである。
だが戸惑っているにもかかわらずレイナさんは僕の言葉を整理した。
「ええっと……そのトイレがどこかに繋がっていて、ファンからイカしたギターをプレゼントされたと? うーむ……今までのことを考えると、ただのジョークと判断できないのが困りものです……」
「いやーサプライズプレゼントならそう言うべきじゃぁないかなぁ?」
「そうでござるよ。アイテムボックスにしまってあったんでござろう?」
案の定疑惑の視線と、僕に対するユーモアセンスの厳しいチェックが入ったが、誓ってすべて本当だった。
「うーむ……説明がむずかしいなぁ。嘘を言うと本気の天罰とかが飛んできそうなんだよなぁ。せっかくだから一回弾いてみてくれない?」
おそらくそれでいくつかの疑問はなくなるはずなのだが、レイナさんは困り顔だが妙に嬉しそうにギターを装備して、思いのほかやる気を出していた。
「えぇ? そうですか~? どうしてもと言うなら弾いてみますけど、こういうの本当は困るんですよ~? ファンからのプレゼントは一旦事務所を通してもらわないと!」
「めっちゃ楽しそうだなぁ」
「楽しそうでござるね」
「もちろんです! 当然最高に楽しいですよ? せっかくですから、この子の試し弾きはこのヘルズマンションの最上階で試してみませんか?」
そして僕のリクエストに応えて、レイナさんは今回の進行を変更してくれるらしい。
何だか悪いことをしてしまったなぁとは思ったが、最上階に連れていかれると、罪悪感は消えてなくなる。
レイナさんは屋上にトンデモない奴を飼っていた。
「なんか……でかくない?」
僕は思わず呟いた。
「そーなんです。不思議ですねー」
レイナさんは明後日の方向を向いて、口笛を鳴らした。
見た目はいつかの階層守護者に似ているが、見た目がデカくてすごく禍々しい。
攻略君曰く、こちらもやはりこのマンションに詰め込まれたアンデッドの魔力が元凶のようで、詰め込み過ぎということらしい。
「フッフッフッ。いかにも悪魔っぽいのでボス候補で連れて来てみたらこれですよ。……参りましたね」
「確かに超ボスっぽい」
そいつは悪魔そのものみたいな外観をしていた。
大きな悪魔の翼に長い尻尾。
強靭そうな漆黒の肌は鎧の様で、真っ赤な瞳が燃えるように輝いている。
おそらく名前付きの、悪魔属性だ。
怨念うずまく、それこそあの世に通じるほどの魔力を馬鹿食いしたらこうなるということのようだ。
「なんというか……あまり思い付きで無茶やりすぎちゃダメだよ?」
「むー……ソレが、このマンションを作ったら集まって来るし、勝手にレベルアップするし……ホントビックリですよね。こいつも今日のフィナーレにみんなで討伐予定でした!」
レイナさんとしては狙いはあったが、全て狙い通りにいっているわけではないという事なんだろう。
浦島先輩も若干呆れて、ボス悪魔を眺めていた。
「おいおい。レイナもめちゃくちゃ危ないことしてるなぁ」
「実際めっちゃ危なかった拙者が通るでござるよ? 当然偉そうなこと一切言えたことではないでござる……」
「不可抗力です! まさかそんな効果があるなんてオシャカサマでも思うまい!」
「うーむ」
これはアレだね? 桃山君のやらかしに妙な対抗心も湧いてたね?
何となくどう遅れを取り戻そうとしたのか、流れが見えた気がした。
趣味に走るだけでなくここから先、探索者としてダンジョンをいかに活用していくべきか?
どこかレイナさんのストイックさを感じさせる部分はある。
ただ、彼女のジョブの特性を考えると、その調整は非常に難しそうだった。
何となくネクロマンサーなんてどう考えても扱いが難しそうだと思ってはいたけど、どうやら予測は外れていなかったみたいだ。
現状危険なのは間違いないので、もうちょっとしっかりノウハウを確立させていた方がよさそうだった。
「でもこの子の試し弾きにはちょうどいいでしょう?」
「それは僕も興味がある」
「よし! じゃあ始めます!」
レイナさんは勢いで気分を切り替えて、例のエレキギターを彼女の精霊スピーカーに繋ぐと、ギャイーンとかき鳴らす。
だがその音にまず、レイナさんは驚いたみたいだった。
「! なんですこの音!」
「……魂に響く音ってこういうことなのかなぁ」
「いい音色でござる」
「すごいね。あんなのまで作れるの? ワタヌキ後輩?」
「だから僕が作ったんじゃないですって」
みんな、思うところはあるだろうけどちょっと待って?
まずはあのギターがどれほどのものか、実際目で見て確かめてみよう。
神様が一枚噛んでいる特別仕様が普通なわけがない。
そして何が起こるのかなんて全く未知数である。
だがその効果はすぐにわかった。
音に反応してレイナさんの影がザワリと波打ったからである。
「……アレは」
悪魔みたいなモンスターもでかいと思ったが、レイナさんの足元から出て来た、巨大な犬は悪魔の巨体をはるかに超える圧倒的なサイズだった。
先ほど神様と戯れていた門番に連なるそれは、それそのものにも感じるほどに圧倒的なプレッシャーを備えていた。
「~~~!」
大慌てで悪魔は出現した漆黒のモンスターに魔法を唱えるが、毛の一本すら焦がすこともできずに犬に踏み潰されてしまった。
ずんとマンションが揺れ、大悪魔はチリとなって消える。
「……」
あまりにも圧倒的な強さは、ある意味しかたがない。
その犬はおそらく地獄の番犬ケルベロス。
こういうあの世在住みたいな奴を逃がさないことにかけては右に出るものはいない門番の化身みたいなモンスターだった。
全員が唖然として、一瞬で終わってしまった戦いを見つめている。
そして僕は大切なことを思い出してレイナさんに伝えることにした。
「ああ……うん……そう言えば。「応援しています」って言ってたよ」
「……そ、そうですか」
ハデス特製エレキギター。
その特殊能力はケルベロスを召喚するという、このマンションのセキュリティにはもってこいのもののようだった。




