第329話主と出会う
攻略君の案内で謎の場所を進んでいるはずなのに、不思議と時間の感覚も方向感覚もまるでわからなくなってきた。
だがここで大活躍したのはインプ君である。
「ギギギ!」
彼は怯えながらも、攻略君でさえ正確な道案内が困難な空間で、なんとなく奥に進む方向が分かるらしい。
それは悪魔属性だからこその技のようで、らしいといえばらしかった。
「……インプ君はやっぱり頼りになるなぁ」
『妙に君の直面する問題と相性がいい』
「だなぁ。聖騎士のジョブでいる限り、天使型のテイムには欠かせないわけだし……」
不安はないわけではないが、この案内こそ生還への道しるべだ。
だが、下っているという感覚は常にあり、目的地はいまだに見えない。
「……しかし代わり映えのしない風景だ。ここがどこだかわからない」
『もう少しだ、たぶんね』
攻略君の言葉は、正しかった。
そうしてたどり着いた先には、真っ黒で巨大なモンスターがいて、インプ君はすぐさま背中にべったり張り付いて、隠れてしまった。
三つ首の大きな犬が、誰かと戯れている。
そして戯れているその誰かは、ぼんやりとして―――ぶっちゃけ僕にはよく視認できなかった。
「あれはー……何?」
『こいつは驚いた。直々に迎えに来るとは……この空間の主のお出ましだよ』
「そうなの?」
ワシャワシャと毛並みを撫でてデカい犬と戯れていたその人は、こちらに気が付くと立ち上がってゆっくりと近づいて来る。
たしかにそこにいるというのに、頭が認識を拒否しているような彼は、僕をおそらく見ている気配がしてボソリと呟いた。
「おお、来た来た。……意外とやれるものだな……ふむ」
なんか……挑戦したらできちゃった感じらしい。
焦点が合わない誰かに、僕はどうにか見てやろうと頑張ってみたが、攻略君からは止められてしまった。
『気持ちはわかるがやめておいた方がいい。今の君はそう簡単に死にはしないだろうけれども、人間が死を直視したところで碌なことはないよ』
「……何それおっかない」
僕は一旦焦点を合わせることを諦めた。
しかし、やたらと物騒な前振りの多い彼は、随分気さくな印象の声色で話しかけて来た。
「ああ、すまないね。わざわざ呼び出してしまって。私はハデス。この冥界の主だ。ちょうどよく君が境に近いところにいたからね。試しに呼び出してみたんだ」
「……」
招待された理由はすさまじく適当でおおざっぱだった。
だけどとても聞き覚えのある名前をさらりと名乗られてしまって、僕は耳を疑った。
周囲は寒いと感じるほどに寒いはずなのに、僕は不思議と汗が止まらなかった。




