第320話本日の勝者
「オオオオオ!!!!」
すさまじい咆哮が響き渡る。
部屋中を猛烈な炎が駆け巡り、膨大な熱を撒き散らしていた。
生徒会長は自身が炎と同化したかのように燃え上がって、花臣の展開する影の結界の中を鮮やかに彩っていた。
「……」
だが、直撃したはずの魔法はオーガにまったく効いてはいなかった。
あまりにも威力が足りない。
純粋な魔力の強さが、オーガの守りを突破できていない。
オーガは不愉快そうに生徒会長を睨むが、生徒会長は炎の勢いを一切緩めずに、オーガに語り掛けた。
「その表情、見下しているな? 私が目の前を飛び回る羽虫にしか見えていない……そうだろう?」
「……」
彼女への返答のように、それこそ羽虫を払うように腕が振るわれる。
だが生徒会長に命中する寸前、クロハナサクヤの枝がその腕を受け止めた。
「!」
そして黄金の炎が滝の様に上空から降り注ぎ、猿鬼が羽交い絞めにして、犬神は足に深く噛みつく。
「グガアアアア!」
オーガは思い切り暴れたが、そう簡単に振りほどけるものじゃない。
―――だが、均衡は長くは続かなかった。
本来であれば、圧倒的な膂力で粉々になっているのは生徒会長のはずだ。
だが、その腕は生徒会長に掠ることもなく、猛り狂うオーガの抵抗は徐々に弱まり、先に膝をついたのはオーガの方だった。
「!??」
ガクンと突然立ち眩みを起こしたように頽れたオーガの表情は青ざめて見える。
そんな様子を生徒会長は腕を組んだまま、ただ見ていた。
そしてその場から一歩も動かずに、倒れ込むオーガに言い放った。
「だが―――その羽虫にお前は届かない。変身か進化か知らないが、よく動けるようになったのが貴様の敗因だ」
オーガが動けなくなった原因、それは酸欠だ。
機動力が大幅に上がったことで必要な酸素の量は急激に上がった。
それに加えて、回復しても失われた血は戻らない。血液で酸素を脳に届ける以上、オーガにだって影響はある。
そして現在この部屋は、影の結界によって完全に酸素を遮断していた。
そんな中で全力の炎を使えば酸素不足はさらに加速する。
ただ、炎の魔法特性のある生徒会長は意識的にオーガの周囲の酸素から使っていたようだが、これだけ猛烈に燃え上がっていれば、当然自分達にも影響がないわけがない。
つまり生徒会長だって恐ろしく辛いはずだ。
だが一切そんな素振りすら見せず、むしろ不敵に笑っている生徒会長は、完全に根性のみで立っている。
「舐めるなモンスター。勝負というのは最後に立っていた方が勝つということだ」
そして完全に動けなくなったオーガを見下ろした生徒会長は最後まで不敵な笑みを崩さなかった。
正直、この作戦はリスクがあまりにも高かった。
だが、一点だけ魅力的な部分もある。
それは敵に与える、圧倒的な敗北感だ。
オーガは敗北した相手に従う非常にシンプルなモンスターなのだが、これなら生徒会長がオーガに勝利できる。
不安は花臣たちが完全に守り通せるか? 時間は足りるのか? という点だったが、間に合って本当によかった。
花臣は圧倒的勝者マウントを取る彼女を見て、鬼よりおっかないなと内心思ったけど。そこから先は思考が纏まらない。
それはそうだ。なにせオーガよりも運動量が多く、怪我をしている人物はいる。
そう、花臣である。
花臣が先ほどの攻防で崩れたのは、動かずに結界を維持しないと意識を失う極限状態だったからだ。
だが薄れゆく意識の中で、花臣もまた根性で意識を保っていた。
そしてオーガが負けを認め、生徒会長とパスが繋がった瞬間を確認して。
「……あ、やばいでござるな」
不覚ながら気が抜けると、花臣の意識は電源が落ちる様にスコンと落ちた。




