第319話弱者の的
「アレは何だ……?」
そんな問いかけに花臣はハッとする。
質問の主は生徒会長で、そこでようやく花臣は戦闘に没頭しすぎていたことを自覚した。
そして不甲斐ないことに、質問の答えに花臣はまだ辿り着いてはいなかった。
「拙者にも分からんでござる……が、やばい相手でござるから拙者が引き付けている間に今度こそ逃げるべきでござる」
今まではどうにかなったが、ここから先は守りながら戦うわけにはいかない。
だがこちらの余裕がないことは分かっているだろうに、生徒会長は敵を見据えて言った。
「……勝てないようには見えなかったが?」
「いや……見た目ほど余裕はないでござる」
「勝ち目は一切ないか?」
「……負ける気はないでござるが、しかし、生徒会長の安全を保障できない」
悔しくはあったが力量不足を認めて花臣が言うと、しかし生徒会長はそれならば問題ないと言い切った。
「私の安全を保障してもらう必要はない。むしろ的になろう。敵の行動を限定できる」
それは弱い事すら役割として武器にするという、断固たる意志を感じさせるものだった。
「……本気で言ってるんでござるか?」
「もちろんだ。というか私の実力では逃げることも難しいだろう。なら君の勝率を少しでも上げたい。獲物をしとめる瞬間が最も隙ができるものだ。君達の力頼りに不相応な階層に入った以上はそのくらいの覚悟は見せないとな。ああ、副会長には万一私が死んだ場合は君達に害がないよう振舞うように念を押している。遺書にもしたためているから安心してくれて構わないぞ?」
「……いや、そういう問題では!」
「まぁ。精々魅力的な餌になって見せるさ。足手纏いがいたから負けたなんて後悔は君にさせたくないからな」
「……危険でござるよ?」
「当然だ。それに一つ作戦がある」
そう言って生徒会長が耳打ちした計画は、ちょっと花臣には正気だとは思えなかった。
「めちゃくちゃ危険でござるよ!?」
「何度でも言うが当然だ。まぁ少しでも惜しいと思ってくれるなら。死ぬ前に仕留めてくれると助かるよ」
ニヤリと不敵な笑みを見せられ、花臣は生徒会長ともなるとここまで覚悟ガンギマリかと青くなる。
だがここまで言われて引き下がっては名折れだと、腹を決めて頷いた。
「……分かったでござる。絶対に命に代えても守るでござるよ」
「……っ!」
だがそう言った瞬間、生徒会長が胸を押さえてよろめいた。
「どうしたでござる!?」
「い、いや、思ったよりも破壊力が……いや! 何でもない! では始めようか!」
生徒会長は即座に掌に炎を燃え上がらせて全力で、オーガに投げつけていた。
花臣は慌てて足元から影を部屋全体に広げて、闇で覆いつくした。
「クロハナサクヤ。犬神。猿鬼。雉嵐。……対象を死守!」
そして闇の中に最強の手駒を解き放つ。
一方生徒会長は腕を組み、一歩も引かずにオーガを見ていた。
オーガは攻撃を仕掛けた最弱の相手に襲い掛かることに一切の躊躇いがなかった。
「やはりそうだ! 少し挑発すれば、こいつらは弱い者を優先して狙ってくる!」
「……これは確かに見やすいでござるけどなぁ!」
銃を引き抜き、撃ち放った雉嵐は炎の鳥となってオーガに黄金の炎を吐き出した。
生徒会長への動線を遮るようにして、再び攻防は始まった。
オーガは弾かれ、また斬り結び、離れる。
花臣もすべてをカバーするつもりで戦うが、3体のモンスターとクロハナサクヤの援護があってなお、オーガの猛攻を止めるのは困難を極めた。
だが花臣の攻撃は確実に相手にダメージを与えていた。
切り裂いた感触は何度もあった。
敵は相当の血を流しているはずなのに止まらないのは、瞬時に傷が塞がっているからだ。
呆れた生命力に花臣は焦り、汗がにじむ。
そしてついに刃はオーガの動きを捉え、右腕を切断したが―――その一瞬が致命的な隙になる。
「しまっ!―――」
腕を切り落とされたというのに、オーガは構わず生徒会長目指して突っ込んだのだ。
咄嗟に追撃を試みたが、しかしここでまたもや虚を突かれた。
オーガは即座に反転し、花臣へと襲い掛かった。
「……っ!」
ニタリと笑ったオーガの顔を見て、花臣は誘われたのだと理解した。
最初から狙いは拙者でござるか……!
なりふり構わない最短の軌道を描く拳は、ガードするので精いっぱいだ。
花臣は吹き飛ばされて、床に叩きつけられた。
「……ぐっ。効くでござるなぁ……でも」
一応は―――想定内。
最後は無様だが時間稼ぎはできた。
オーガの背後で燃え上がったのは、魔力が大量に練り込まれた強力な一発だ。
「……おとりが攻撃しないなんて誰が言った? 燃えろ!」
生徒会長の炎は、とんでもない火力でオーガの背中に炸裂した。




