第295話禁断の裏技を使ってみよう
様子を窺う僕、ワタヌキ 鐘太郎の眼前で、ハットリさんの魔力が渦を巻いていた。
そして呼び出されていきなり同級生のバトル展開とはいったいどうなってしまうんだろう?
言うまでもなく学校的にも違反行為だ。
こう……甘く切ない青春の一ページを見せられたらどうしよう? なんて心配していたというのに、いざやってくるとバトルマンガのアクションシーン3秒前とは、ハットリさんはどこまでも逸材であった。
「な、何やってんのあの娘?」
「本気でやり合うつもりみたいでござるよ?」
「いやしかし相手ハバキリ君でしょ? 関係者らしいし……そんな手荒なことはしないと思うんだけど……」
「ホ、ホントでござるか? そうは見えないんでござるが……」
そうなんだよ。僕も本気にしか見えなくてとても困っている。
不穏なものも感じるんだから、ろくなものではなかった。
戦力を分析するとおそらくはハットリさんの方がこの階層で天使と一緒に採集を続けていた関係上、レベル的には少し上になるはず。
数の優位はあるとしても、レベルが1でも高いというのは相当な能力的壁が存在した。
めちゃくちゃ魔女っぽい格好をしている彼女だが、現在のジョブはおそらく一次職のシーフであることは間違いない。
本来近接戦闘に優れているわけではないはずだが、ハットリさんは周囲に無数のガラス瓶をぶちまけると毒々しい煙が渦を巻き始めていた。
「な、何のスキルでござるかあれ?」
「たぶん……水の魔法で自分で作った薬を操ってる」
「水でござるか?……しかし妙に毒々しいような?」
更に、色の付いた霧に溶けるようにハットリさんの気配が目の前で希薄になってゆく。
それはシーフの時点で使えるスキルも使用しているが、ハットリさんのはものが違った。
本当に目ですら捉えられないほどの本物の気配隠蔽スキルは、シーフにしても高性能すぎる。
「……これは、なんだ!」
ハバキリ君が困り果てて、くやしげにしているのを見てハットリさんは身震い……したかどうかはわからないが、震える声で返事をする。
「フフフッ。見えないでしょう?」
濃くなっていく霧の中からは反響するハットリさんの声だけが響き渡っていて、位置を特定することすら難しい。
近いスキルツリーの桃山君が見れば感心するほど、彼女の技能は卓越していた。
「大したもんでござるね。うまく使えばシーフでもここまでの事ができるんでござるなぁ」
「確かに……感心している場合でもないか」
しかし出そびれはしたものの、いつまでもこうしているのもまずい。
僕は呼ばれた手前、緊急事態の特別な処置として、裏技に手を出すことにした。
急務なのは、現状の正しい把握だ。
緊急事態につき、普段は意識して封印しているとっておきである。
攻略君。ハットリさんの思考読んじゃおう?
『お? いいのかい?』
まぁちょっとどっちに味方したらいいかもわかんないから。
てっきり逃げ隠れしているとばかり思っていたらこの展開だ、僕としても少し正確に状況を整理しないとやっていられない。
さてどうなるかと攻略君の言葉に耳を傾けたのだが……
『ムフフフ。レベルアップもしているし、前々から目障りだったぼっちゃまにまとわりつく悪い虫を駆除する大チャンス! そしてちょっとぼっちゃまときつめのコミュニケーションで特殊な親睦を深め合いたい! なぁに最悪もうすぐ駆けつけてくる店長のせいにしちゃえば大丈夫でしょう! あのうさん臭さがすべてを解決するのです!』
正直……聞くに堪えなかった。
あー……攻略君? 本当にごめんなさい。もういいよ。
『……そうだね』
なんというか、あの毒アサシンは本当にもう……残念だ。
手っ取り早く一発ぶん殴って引っ張って来ようかとも思ったが、事態は案外あっさりと予想と違う方向へと変化していた。




